ハナコラボSDGsレポート 小さな声を届ける、フェミニズム専門書店〈エトセトラブックス〉
ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。今回は、編集者として活躍する藤田華子さんが、新代田の出版社兼ブックショップ〈エトセトラブックス〉の代表・松尾亜紀子さんと竹花帯子さんに話を伺いました。
新代田に拠点を構える出版社兼ブックショップ〈エトセトラブックス〉へ。出版社は、“まだ伝えられていない女性の声、フェミニストの声を届ける”ことを掲げ、ブックショップは“フェミニストのための書店”として開かれています。
お話を伺ったのは、代表の松尾亜紀子さんと、竹花帯子さん。
あなたがもし違和感やモヤモヤを抱えていたら、ぜひ訪れてみて欲しい。そんな想いでご紹介します。
プレオープンで棚が空に。求められていた場所
ーー2018年12月に出版社としてスタートし、2021年1月にはブックショップをオープン。〈エトセトラブックス〉としては、今年で5年目に入りました。そもそも、ブックショップはどう始まったプロジェクトだったのでしょう?
松尾さん:2019年5月から、現在のエトセトラブックスの店長である寺島さやかさんが当時つとめていた下北沢の書店〈B&B〉でポップアップを開催し、本当にたくさんの方から反響をいただきました。それで、かねてより実現したかった実店舗について手応えを感じた矢先、新型コロナウィルスが流行してしまって。オープンを悩んだのですが、コロナ禍でまわりと繋がることが難しく、行き場がなくなってしまった女性や社会的に弱い立場のひとたちがいることも明らかになりました。自分たちを含む、フェミニズムを求める人たちの場所を作りたいという気持ちが加速して、この店舗を借りたんです。
ーー忘れられない、うれしかった瞬間は?
竹花さん:うーん、いっぱいあるんですけど…ブックショップのプレオープン日を3日間設けたのですが、本当にたくさんの人にお越しいただいて、その3日で棚の本がほとんど売れてしまったんです。コロナ禍で一度に入店できる人数制限をしていたこともあり、外に行列もできました。こういう場所が、みんな欲しかったんだなと実感した瞬間でもあります。
ーーこの棚が空に!それだけ、求められていたんですね。遠方からいらっしゃる方もいるとか?
竹花さん:多いですね。「ずっと来たくて、ようやく来れました」と仰っていただくこともあり、うれしいです。先日、愛媛からのお客さまがいらしたんです。最初チラッと見て出て行かれたので、通りすがりかなと思ったんだけど、またしばらくして戻られて。あまりにも気になる本が多くて腹ごしらえをしてから再訪したそうなんです。そこから1時間くらいかけてたくさんの本を選んでいかれました。
ーー私も最初に訪れたときは「フェミニズムの本ってこんなにあるんだ!」と、ワクワクと驚きでいっぱいになりました。そして棚を眺めていたら、「思い悩む私が気にしすぎなんじゃないか」「違和感があるけど何に引っかかっているんだろう」と考えている、その仲間に出会えたような感覚もあって。
松尾さん:それは嬉しいですね。私たちが発行している雑誌『エトセトラ』を読んで、「こういうことを思っても良いんだ」と仰ってくださる方がたくさんいらっしゃるんですけど、実は私自身も、そのひとりなんです。この人は日々ジェンダーやフェミニズムの視点でこんなことを考えているんだとか、フェミニストのことばを共有できることに非常に大きな喜びを感じています。
もちろん、フェミニスト同士でも考えに違いはありますし、なにか知って、あるいは気づかされて常に変化していくことも大事にしていて。抽象的ですが、自分にとっても相手にとっても“一変化していくこと”は自然なことだと思います。
ーーブックショップで、大切にしている想いや考えはありますか?
竹花さん:新刊だけではなく、出版されてから時間が経った本や絶版になった本も一緒に並べることです。実はフェミニズムに関する本って、絶版になるのが早いんです。
ーー社会の気づきや取り巻く環境が変わるペースに合わせて絶版になる、ということでしょうか?
松尾さん:うーん、それはフェミニズム以外の本でも条件は同じですよね。それよりも、フェミニズム的だからという理由でほんとうは重要な内容なのにないがしろにされたり、もっと直接的には売上の理由も大きいと思います。最近は話題になる本もありますけど、基本的にフェミニズムの本はブックランキングの主流ではないですから。
竹花さん:消えてしまう言葉、読めなくなる本にも、ここにきたら出合える。そんな想いで、古書も置いています。
松尾さん:昔から女性やフェミニストたちが戦ってきた歴史の連なりのなかに自分がいる、というのがすごく大事だと思います。フェミニズムって今日昨日始まったことではないので、間違えた人も、失敗した人も、途中でフェミニストを辞めちゃった人もいる。すべて含めて、見える場所・考えられる場所として、この場所はあるのかなと。
原動力は、自分たちがやりたいから、楽しいから
ーーおふたりが考える、フェミニズムの課題は?
竹花さん:フェミニズムの課題は、そのまま社会の課題ということでもありますよね。フェミニズムを一部の人の問題と捉えるのではなくて、それこそみんながフェミニストであって欲しいとは思います。
松尾さん:それはもっともですね。そして、フェミニズムは継承されづらいというのも向き合っていきたい課題です。これまで女性やマイノリティが声を上げると、悲しいことに、対抗したり声を消そうとしたりする、いわゆる“バックラッシュ”が起きてきました。なので、雑誌『エトセトラ』はその時々のテーマを大事にして、個人的で、小さくて届きにくい声を記録して、どうやってつなげていくかを大事にしています。たとえ、その小さな声のなかにグラデーションや違いがあっても、その違いも尊重したい。だから簡単に連帯はできなかったりして…難しいところですが、その難しさと向き合い、ずっと考えていくこともフェミニズムかなと思います。
ーー私自身、ここで出合った本を読み、モヤモヤに輪郭が与えられる感覚になりました。何か違和感や問題を抱えている、そんな方に向けてメッセージをお願いします。
竹花さん:それぞれの悩みや置かれている環境はバラバラなので、一概にこうしたら良いというお話はできません。でも、本を媒介して話すことはできます。ご紹介した本が必ずしも求めているものであるとは限りませんが、一冊読んでもらうことで、世界が広がるきっかけになるかもしれません。
松尾さん:店に来てくれたお客さんも「大したことじゃないんですが」と、自分のことを話し始める方が多いんです。私はそのたびに、「それは何よりも大したことなんですよ」と答えていて。なぜ自分がこんな目に遭っているんだと考えた先に、「社会がこうなってしまっているから」と背景に目を向けることが、フェミニズムやジェンダーの本質でもあります。なので、「あなたが抱えている違和感やモヤモヤは、すごく重要なこと」というのがメッセージですね。
ーー今後の予定は?
松尾さん:この先に出る本はまず、小説家の柚木麻子さんに、11歳の魔女を主人公にしたヤングアダルト作品を書いていただいています。面白くて、フェミニズムに満ちていて、私、原稿を読みながら電車で泣いてしまって。こういう本を、十代で読んでおきたかったなと思いました。子どもから大人まで読んでほしい物語です。他にも、雑誌『エトセトラ VOL.7』に掲載した公園に長年住んでいた女性ホームレス「小山さん」が亡くなるまで日々想いを綴っていたノートを残していて。そのノートを、ノートの文字起こしをしていたワークショップの方たちと単行本にまとめます。
竹花さん:少しずつブックショップを開いた場所にしたいです。気軽に参加できる読書会やZINEの交換会もやりたい。
ーー日々、答えのない問いに向き合い、考え、行動に移し続ける…とてもパワーの必要なことだと思いますが、何が原動力になっているのでしょうか?
松尾さん:いろいろあるとはいえ、私たちはとても楽しいんです(笑)。自分たちがやりたいからやっている、それがすべての原動力。松田青子さん小説『持続可能な魂の利用』に「はじめから負けが込んでいるとわかっていても、それでも、トライすることを選んだ彼女たち」という一文があって、まさにこれだなと思いました。私の目には、日々、日本の社会は悪い方向に進んでいるように映っています。そんなときに、嘆くばかりではなく抗って「トライすることを選ぶ」、そういう気持ちです。
竹花さん:ほんとに楽しいよね(笑)。もっとたくさんフェミニスト書店が日本全国にできればいいなと思います。遠方からきてくれることは嬉しいけど、その人が住む場所にあればもっといいですよね。そして、そういう想いを持った方々と、一緒に何かやっていきたいです。