【SDGs A to Z: U (Upcycle) 】紗羅マリーと大澤美保に聞く、アップサイクルに込めた想い。
アップサイクルとは、廃棄される予定のものを別のものに作り替え、新たな命を吹き込むこと。コスメ、ファッションを愛するからこそ、地球にやさしい物作りにシフトした二人に話を聞いた。
役目を終えたコスメを回収し、加工したクレヨン「ハロヨン」。
コスメを手に取った時のワクワクを、生まれ変わったクレヨンでも感じて
食品ロスを意識する機会は増えたけれど、「コスメロス」という言葉は聞き慣れないという人も多いだろう。使い切るべきだとは分かっていても、自分に似合わなかったり、途中で飽きてしまったりして、コスメを捨ててしまった経験は誰にだってあるはず。長年、美容業界に身を置く大澤美保さんも、コスメロスに悶々としていた一人。
「次女を出産した時に、彼女たちがこれから生きていく地球を守らなきゃと、強く思うようになったんです。ずっと抱えていたコスメロス問題に向き合おうと決め、一歩を踏み出しました。コスメならではの色と質感を生かして、子供たちが楽しめるアートにまつわるものを作りたいと思い、不要になったコスメをクレヨンに生まれ変わらせるプロジェクト『COSME no IPPO(コスメノイッポ)』をスタートしました」
コスメの容器の回収に取り組む企業やブランドは増えているが、大澤さんが着目したのは、中身の回収。購入したコスメを約9割の人が使い切れていないというデータがあるそうだ。百貨店や商業施設に回収ボックスを設置したり、「COSME no IPPO」のインスタグラムでも送付による回収の対応をしている。回収の対象となっているのは、リップやアイシャドウ、チーク、パウダーアイブロウなどさまざま。
「周りのお友達とまとめて段ボールで送ってくださったり、学生たちがクラスで集めて送ってくれたことも。届いたコスメはこれまで2万点を超え、唯一無二の色のクレヨンに生まれ変わります」
百貨店の回収イベントでは、「ハロヨン」を使い、親子で似顔絵を描き合うワークショップを開催。大澤さんは、コスメを手にした時に感じたワクワクを、クレヨンでも感じてもらいたいと語る。
「最終目標は、美容業界のゴミをゼロにすること。手放す瞬間まで責任を持てる人が増えるように活動を続けていきたいです」
アップサイクルの生地で制作した2023 SSのアイテム。
我慢はしない。でも、サステナブルなアイテムを着るのが心地よい
13歳からモデルとして活躍している紗羅マリーさん。2015年には自身のファッションブランド〈irojikake(イロジカケ)〉を立ち上げた。当初は自分が求めているクオリティとデザインのアイテムを身に着けたいと始めたが、今はエシカルなアイテムが多数ラインナップしている。
「一時期、長らく住んでいた東京を離れて海のある郊外に引っ越したんです。コンビニやチェーン店は少ないし、よく停電する田舎町だったんですが、必要なものは仲良くなったご近所さんたちと物々交換。必要最小限のものだけで生活していると、これまでたくさんの無駄なものに囲まれていたことに気がつきました。考え方もどんどんシンプルになっていったんですよね」
移住先での暮らしは、アイテム作りにも影響を与えたという。「もともと着心地の良いコットン生地は好きでしたが、ブランドでも意識的にチョイスする生地が変わりました。アップサイクルの生地の中でも見たことのない珍しい一品を探しています。最近でいうと、廃棄されたデニムを繊維に戻したリサイクル糸を使ってニットベストを作りました。さまざまな色が混ざり合って、絶妙な可愛さで、着心地も気持ちいいんです」
アップサイクル製品はワンシーズンでだいたい5分の1ほどだったが、今年のAWからは半分以上に拡大。中綿、表地、裏地もアップサイクルに徹したダウンベストなどがローンチする。エシカルな服作りには時間もコストも労力もかかるが、最終的には全製品アップサイクルで作ることを目指している。
「私は我慢が苦手(笑)。だから、制作過程で苦しい思いをしたらきっと続けられません。だけど、環境に配慮した服作りをしたり身にまとっていると自分自身が心地よいから、無理なく続けられているんだと思います。〈irojikake〉の服を着ている自分はもちろん、選んでくれた人にも誇りをもってもらいたいから、これからも、こだわり続けます」