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【SDGs A to Z: O (Ocean animals) 】海の生き物が教えてくれる、プラごみの危険性。 (前編)

SUSTAINABLE 2023.07.02

豊かだったはずの海が今、「プラだらけの海」になりつつあるという。海とプラごみ問題に詳しい三人が、危機的状況にある海とその生き物について語り合う。

後編はこちら

Talk theme #1 鎌倉のシロナガスクジラからマクロプラごみが出た!

Photo by UWPhotog/iStock
Photo by UWPhotog/iStock

海の生き物たちを解剖すると出てくる日常のプラごみ。

田島木綿子(以下、田島):近年、プラスチックごみなどによる海洋汚染がストランディング(クジラなどの海洋生物が浅瀬で座礁したり打ち上げられる現象)に関係しているのではという説が注目されています。実際2018年に鎌倉市の海岸にシロナガスクジラの赤ちゃんがストランディングし、胃から直径7㎝のプラスチック片が発見され注目されました。でも実は私たちは25年ほど前から同じような発見をしています。それも7月に国立科学博物館で始まる「海―生命のみなもと―」展に出そうと思っています。

田中直樹(以下、田中):そうなんですか…。僕、クジラが大好きなんです。今の地球上で一番大きな生き物で、大昔からいた大先輩じゃないですか。先生はいろんな海の生き物を調べていますけど、どんなものが体から出てくるんですか?

田島:手袋、紐、育苗ポット、フレッシュ、ゼリーカップとかもう色々ですよ。もちろん細かくなったものや目に見えないものもたくさん!

高田秀重(以下、高田):餌と間違えている可能性がありますよね。海亀もシート状のレジ袋のようなものをよく取り込んでいます。

田島:そう、ぷかぷか浮くようなものばかり。イルカやマッコウクジラはエコロケーション(超音波を発して餌など物体までの距離や方向、大きさをはかる)するので、浮いているプラスチックを餌として食べている説はあります。うんちとして排出もされますが、クジラは胃が複数に分かれているので引っかかる場所がたくさんあるし、哺乳類の中で毒性を分解する酵素がひとつ少なく、解毒作用が弱い動物なんです。だから余計に蓄積して分解しにくいといわれています。

田中:高次捕食者ですから余計にですね。海の生き物を脅かしているもの、すべて人間のごみですよね…。

高田:プラごみの7割が川から入ってきます。自動販売機の近くにごみがあふれていますが、意図的にポイ捨てはしていなくても、この周りに捨てれば大丈夫だろうと思っている人は多いですよね。でも結局それが川に流れ、海に入っていくんです。

田島:神奈川の海岸にバーベキューのごみなどがそのまま残されていることがあって毎年衝撃を受けています。これじゃ先進国と言えません。

田中:沖縄でのビーチクリーンに誘っていただいて、今年の夏参加します。ビーチクリーンって本当に大切ですよね。

田島:とても大切なんです。海に入ってしまう前にいかにごみを取るか。私は積極的に街中でも拾うようにしています。

田中:一度海に入ってしまうと取り除くのは難しいですよね。

高田:まず無理ですね。重機を使えばいくらかは取れるかもしれないですが、海は広いし深いですから、一度入ったら取れないと思った方がいい。海岸にあるうちに取り除くのが大事です。でも細かくなってしまえば取り除くのは難しいですし、プラごみそのものを少なくすることがとても大切です。

Talk theme #2 2050年には海の生き物と海洋プラごみが1対1に。

プラごみゼロを目指す神奈川だが、まだゼロにはほど遠い状況。早く拾わないと劣化し、回収不能な細かさになって海に入り込んでしまう。美化財団もビーチクリーンに力を入れる。平塚市唐ケ原海岸/かながわ海岸美化財団
プラごみゼロを目指す神奈川だが、まだゼロにはほど遠い状況。早く拾わないと劣化し、回収不能な細かさになって海に入り込んでしまう。美化財団もビーチクリーンに力を入れる。
平塚市唐ケ原海岸/かながわ海岸美化財団

すでに魚の量超えの海域も存在、深刻すぎるプラ汚染。

田中:海の中のプラごみは、今魚とプラが5対1と聞きました。そんなに多いのかと驚く人が多そうです。

高田:海域によっては魚よりプラスチックの方が多いところがすでにありますよ。東南アジアでは海の底にプラが溜まりすぎて碇を打てず漁ができないとか、何度引き上げても魚ではなくプラばかりとか、そんなありさまを目にしています。海だけではなく人も経済的にも打撃を受けています。このままでは2050年には魚とプラスチックが1対1になってしまう予測があります。本当に危機的で、G7ではプラごみの新たな海洋流出について2040年までにゼロという目標で今年合意し、当初より10年前倒しされました。

田島:海ごみは本当に深刻なんですよ。神奈川県の美化財団などでも毎年力を入れてビーチクリーンをやっていますが、昨年の夏も江の島など有名なビーチのひどい状態を目にしています。海で遊んだときのごみを持ち帰るのは当然として、プラごみを海に捨てないだけではもう追いつかないと感じますね。私も恩恵を受けていることはありますし、人間社会からプラスチックを完全になくすのは難しいかもしれない。でも、できるだけプラスチックをつくらず、使わず、捨てないということのどれかでも、自分ができることを探して実践していかないと。高田先生みたいなプラスチックフリーな生活、すごいかっこいいですよね。

田中:アイテムもかわいくて。この白い陶器、何ですか?

高田:冷蔵庫のおかずなどを温めるのに使ったり、お肉や野菜もこれで調理できます。簡単にラップいらずになれますよ。もうラップは20年使っていなくて、ご飯はガラスの容器に入れて冷凍します。不便かなと感じたのは最初だけで、慣れたらなんてことはありません。ホテルに宿泊するときも自前のセットを用意して、できるだけ使い捨てのプラごみが出ないようにしています。

田中:20年!すごいですね。これ、固形のシャンプーなんですね。

高田:液体だと、詰め替えでも結局プラスチックですから。プラは乾いたきれいな状態にできればリサイクルできますから、リサイクル可能と思うものは私も購入しますよ。

田島:海外だと、シャンプーなども量り売りをしてくれるところが流行っていますね。フランスなども、そうした取り組みが浸透するのが早くて。みんなポジティブですよね。

高田:現状、日本ではプラスチック製品はすごく安いですよね。これは処分費用がみんなの税金で薄く広く持たれているからで、安いように見えているだけなんですよ。例えばドイツではすでに、ペットボトル飲料は高くなって、より安いガラスの瓶が使われています。ヨーロッパは拡大生産者責任で、プラのリサイクル費用や処分費用は製品の値段に入れられている。するとガラス瓶の方が安くなるんです。消費者の意識の違いもありますが、仕組み自体も変える必要があると思いますね。

田島:そうですね。日本にはなぜか、どこか他人事のように捉える人が多かったですけど、魚とプラスチックが1対1になるという2050年は、Hanako世代の方は生きていますよね?もう全然対岸の火事ではないんだよということを、ぜひ知っていただきたいです。

Talk theme #3 プラごみ・POPsは、人間にも海にも蓄積する。

写真:David Troeger on Unsplash
写真:David Troeger on Unsplash

プラスチック片に、分解されにくい“毒”が吸着する。

田中:プラごみは動物の体内に入るとどうなるんでしょうか?

田島:硬いプラスチックが体内を傷つけて死んでしまうことももちろんありますし、さらに恐ろしいのは、プラスチックに吸着する化合物は毒性が強いんです。消化しようとして砕いているうちに細かくなって、プラスチックについていたいろんなものも溶け出す。そして大量死が起きたり、早産や流産、生殖異常や腫瘍、免疫力が落ちて感染症にかかりやすくなるなど、溜まれば溜まるほどいいことはまったくありません。
高田 海に入ったプラごみは、紫外線などで劣化していきマイクロプラスチックになります。これが、田島先生がおっしゃる通り、汚染物質を吸着しやすいんです。

海洋プラスチックごみの種類

マクロプラ Macro Plastics
5㎜以上のプラ
原型をとどめたレジ袋などもマクロプラだ。この段階でごみとして回収することが大切。海に入ってしまうと、分解されにくく軽いため、海面近くを漂い遠くに運ばれていく。

マイクロプラ Micro Plastics
5㎜未満のプラ
マクロプラスチックは粉砕されて細かくなり、マイクロプラスチックになる。洗顔料のスクラブ剤などにも。有害なPOPsを取り込み、海全体に有害物質をばらまく運び屋に。

POPs(ポップス) Persistent Organic Pollutants
マイクロプラに吸着
PCB、ダイオキシン、DDTなどの残留性有機汚染物質。マイクロプラスチックに吸着し、食物連鎖を通じて海の生き物から巡って人間も取り込んでいるとされる。

田島:POPs(残留性有機汚染物質)といいますが、全然ポップじゃない。農薬や殺虫剤、難燃剤などのあらゆる化合物で、過去のものであっても長い間分解されず環境を漂い、プラスチックに吸着していきます。そして生き物に蓄積する……。この間(千葉県で)死んでいたイルカもあと数日で生まれる胎児がお腹にいましたが、寄生虫による重い肺炎を起こしていました。

田中:POPsに汚染されると、それだけ免疫力が落ちると?

田島:そのようです。分解されにくいPOPsは、どんどん蓄積されていきます。寄生虫って宿主を殺すと自分も死んでしまうから、普通は共生したいはずなんです。でもPOPsが高濃度に蓄積した個体は、免疫低下が起こり、通常は打ち勝つ病気でもそれで死んでしまう。POPsは主に脂肪組織に蓄積します。メスであれば母乳をあげることもありますが、母乳というのは脂肪分が多い液体なんです。海に打ち上げられた小さな生き物を見るといたたまれないですね。

田中:そうなんですね。
田島:だから出産して母乳をあげたメスは体内のPOPsが母乳を介して排出されていて、それがないオスは蓄積し続けるんです。だから私たちは、研究にオスを用います。オスでなければ経時的変化を見られないので。

田中:そうなんですか。海の生き物たちがさらされているPOPs汚染は、人間にも…ということですよね。

田島:人間が関係ないとは思えません。

高田:そうですね。人間にもすでに同じことが起き始めていて、影響が出やすい方には出ているレベルになっています。それに、プラスチック自体に環境ホルモンが添加されています。子宮内膜症や乳がんとの関連や、プラスチック製品で食事をしている妊婦さんの死産率の高さなど、エコチル調査などで統計的に有意な結果が出てきており、すでに危機的なところにあります。環境ホルモンは主に生殖機能に影響するとされ、同じような統計は海外でも見つかります。ヨーロッパの疫学調査では、成人男子の精子の数がここ40年で半減していますね。原因は色々と指摘されていますが、環境ホルモンは性ホルモンを刺激しますから、生殖に関してのひとつの影響として心配されています。

田島:でも体調が悪いのはそのせいかもと思っても、立証は難しい。POPsにしても、同じ物質を健康な個体に与えて実験することはできません。だから私たちは、打ち上がったイルカなどの死体を必死に解剖して、証拠を見つけていくしかない。

高田:人間でいうと、POPsに汚染された食べ物のほかにプラスチック容器や食器などからの汚染もありますから、余計に原因として指し示すのは難しいんです。しかし因果関係が証明できなくても自分の健康のためにできるだけプラスチックを使わないようにしている人も増えてきていますね。

田中:自分の健康を守るためにも。

高田:はい。海にプラスチックごみが直接流れ込まないとしても、ごみとして燃やせば蒸発した環境ホルモンが大気中に入り、有害なダイオキシンも発生する。雨が降ればそれが土地に染み込み、海にも流れて結局は人間を含めた生き物に溜まっていくということです。石油からできたプラを燃やすということは石油を燃やすのと同じで二酸化炭素も排出しますから、二重にダメなんですよ。ごみ処理のために高温の焼却炉も必要ですが、約30年しか持たない。土地を探し、コストをかけてごみを捨て続けることが果たして持続可能なことなのか、考えないといけないですね。

photo : Kenya Abe text : Miho Arima edit : Nao Yoshida

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