【SDGs A to Z: B (Bakery) 】自分で耕し、自作の薪窯で焼いたパンを必要な分だけ。
「自分で作ったものが食べたい」という店主の想いが生んだ、小麦から酵母、薪窯までを手作りするベーカリーへ。その暮らしからは、“何を食べてどう生きるか”が学べる。
高崎駅から車で20分。車が一台ギリギリ通れる細い道を進み、小さな道標を頼りに訪れたベーカリー〈bien cuit(ビアンキュイ)〉。ひとりで店を切り盛りするのは、パン職人の田中秀二さんだ。田中さんは、自分のことを「パン屋というより畑側の人間」だと言う。自家の畑で土に触れ、さらに地元の〈秋山農園〉に週一度通い、小麦や大豆の世話もする。その労働対価として得た小麦でパンを焼き、10年が経った。「今は何でもある便利な時代ですが、昔から変わらない自然の風景や素朴な美しさを大切にしたい。自給自足とまでは言わないけれど、何か足りなくてもそれでいいと思うことが大事。自分が気持ちいいと感じることを続けていきたいです」
小麦を育てるための土づくりからはじめるパン職人はそういない。目の届く範囲で作られた、信頼できるパンを食べることで食への意識がまたひとつ変わる。
農薬や化学肥料を使わず育てた昔ながらの小麦を挽いて使う。
小麦の品種は、約70年前からこの地で作られている農林61号。地元ではうどん粉として使用される品種で和の食材との相性もいい。「だからうちのパンは味噌汁とも合うんです」
実家の畑を受け継いで自家用の野菜は自分で賄う。
店の前の畑でも農薬や化学肥料を使わず、大豆かすなどを使って作物を育てている。「土の中の生物の生態系や循環を崩さずに土壌菌がよい状態で作物を育てたいと思っています」
火入れに3時間かかる薪窯で午前中に作れる分だけを焼く。
手製の薪窯でカンパーニュ(1,000円)やビスケット(1枚70円)を焼く。「薪窯の火入れは大変な作業。でも薪にこだわるのは自然の感覚に本能的に惹かれるからだと思います」
自家製ジャムをたっぷり塗って畑の恵みを存分に味わう。
毎年庭でたくさん採れる果実はきび砂糖で煮て自家製ジャムにする。カンパーニュにバターと自家製ジャムをこぼれるほどのせるのは、フランスの農園で教わった食べ方。
パン作りの工房は、好きな景色を楽しむための特等席でもある。
物置小屋を自ら改装した店内に並ぶのは、少数精鋭のラインナップ。畑がよく見える位置に作業台を配置し、忙しい作業や接客の合間にほっとできる環境を大切にしている。