ハナコラボSDGsレポート ごみ拾いを楽しく、続けやすく。ごみ拾いSNS「ピリカ」|ライター・五月女菜穂
ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。今回は、ライターとして活躍する五月女菜穂さんが〈株式会社ピリカ〉の土屋明子さんに話を伺いました。
「ごみ拾いを楽しく、続けやすくーー」そんな想いで開発された、ごみ拾いSNS「ピリカ」をご存知ですか。拾ったごみを記録・集計・発信できるほか、ユーザー同士でコメントや「ありがとう」を送ったり、ごみ拾いのイベントに参加したりできるSNSで、累計2億個以上のごみが拾われているそうです。
どんな想いで「ピリカ」が生まれたのか。運営している〈株式会社ピリカ〉の土屋明子さんにお話を伺いました。
115の国と地域で、2億7千万個以上のごみ拾いに貢献
ーーごみ拾いSNS「ピリカ」が始まった経緯を教えてください。
「ピリカは2011年から始まりました。最初のきっかけは、代表の小嶌不二夫が小学2年生のとき。図書館で環境問題についての本を読み、『環境問題を解決できたら、かっこいいな』と興味を持ち始めたところからスタートしています。
その後、小嶌は研究の道を目指して、大阪府立大学(現・大阪公立大学)、京都大学大学院へと進学します。研究を進める中で『研究は論文を書くことがゴールになってしまって、解決まで踏み込むことが難しい。もう少し直接的な方法はないのだろうか?』と思うようになり、大学院を休学。世界一周の旅に出ます。
小嶌はアマゾンの奥地に行っても、アフリカのサバンナに行っても、シンガポールの都心に行っても、どこに行ってもごみが落ちている現場を目の当たりにします。
何か解決策はないかと思案していた頃、ちょうどTwitterが日本でも流行り始めたんですね。Twitterに投稿するときって、特に何か具体的なメリットがなくても、呟いたりコミュニケーションしますよね。また、小嶌は世界一周中の写真をiPhoneで撮影していたのですが、いつしか写真を撮るために写真を撮るのではなく、撮影地のピン留めを増やしたいという思いで写真を撮っていた。
このような『つい行動してしまう』行動原理を活用したら、楽しくごみ拾いができるのではないか…。そのような着想から、仲間と共に『ピリカ』の開発に至りました」。
ーー現在、どれぐらいの方が利用されているのですか?
「これまで115の国と地域で、のべ200万人がSNS『ピリカ』を利用しています。拾われたごみの量は2億7千万個以上です。この数字はリアルタイムで更新・公開しています」。
ーーものすごい数ですね!具体的にはどのような方が多く利用しているのですか?また、どのような活用をしているのですか?
「実は小学生からシニアの方まで、幅広い年齢層の方にご利用いただいています。ピリカとしては月1回ごみ拾いイベントをやっているのですが、それ以外でもサークル的にイベントを開催しているところも多く、毎日のようにイベントが開かれています。
例えば、先日は富山県と岐阜県がタッグを組んで、同じ日にごみ拾いのイベントを開催しました。岐阜県は海に面していませんが、海に流れ出てしまうごみを食い止めるべく、川の清掃を、富山県は富山湾の景観を保ち続けるために、海岸の清掃を双方が行いました。
また、ピリカとしても『春のカンまつり』と称して、缶だけを集めるイベントを開催したことがありました。楽しみながら、どんどんごみ拾いの輪が広がっているんです。
これまでごみ拾いは、ボランティアの活動、意識が高い人がやっていることというイメージが強かったかもしれません。が、例えばコンポストをする、リサイクルをするといったライフスタイルの一つとして、ごみ拾いをされる方も増えている印象があります。SDGsが認知されてきていることも関係するかもしれませんね」。
ーーちなみにごみ拾いSNS「ピリカ」の他には、どのような事業を展開されているのですか?
「ピリカ以外にも、ごみ分布調査サービス『タカノメ』やマイクロプラスチック調査サービス『アルバトロス』といったサービスを展開しています。
タカノメは『ポイ捨て防止目的で啓発ポスターを貼っているが、効果が見えない』『歩きたばこ指導に多額の予算を投じている。地域を限定したいが、判断材料となるデータがない』といった自治体の担当者の方々の声から生まれたサービス。どこにどんなごみが落ちているのかを独自の開発システムを用いて調査・解析し、ごみのヒートマップや報告書を作成しています。
マイクロプラスチックによる環境汚染は今、世界的な問題になっていますが、そのマイクロプラスチックはどこから来ているものなのかを調査するのが、アルバトロスです。実際に我々が河川や港湾のごみを回収して分析したところ、フットサル場などで使われている人工芝由来のマイクロプラスチックが最も多かったことを突き止めました。
そして、マイクロプラスチックが流れ出ることを少しでも食い止めようと、具体的なアクションにも力を入れています。人工芝を持つスポーツ施設は問題を知ることで、『マイクロプラスチックが人工芝由来なら対策を投じるべきだとは思うが、費用がかかるのでは』と考えるでしょうし、実際に回収して廃棄するには、産業廃棄物のコストがかかります。『人工芝由来ということを知らなきゃよかった』と考える方もいるかもしれません。そこで、環境に流出しそうな人工芝片を回収する取り組みをスタートさせました。
回収した人工芝をペレット化して、マーカーコーンなどの製品を生むというアップサイクルの仕組みを整えています。この仕組みがうまく機能すれば、ごみの地産地消のようなことが実現できるのではないかと考えています」。
ーー今後の展望を教えてください。
「2050年には海を漂う魚の重量よりもプラスチックの重量が多くなってしまうという予測もあります。それを阻止するため、2040年までに自然界に流出するごみの量よりも、回収されるごみの量を多くすることを目標としています。
とはいえ、その大きな使命を重く捉えすぎず、どちらかというと『楽しいからついついごみ拾いをしてしまう』『ピリカはコミュニケーションをとれるから楽しい』など、ポジティブな広がり方ができたらいいなと。ごみを回収するロボティクスなど、技術の広がりの可能性もありますが、ごみ拾いをする方が1人でも増えていくことで、意識の広がりなど副次的効果も大きいと感じています。
より多くの方にごみ拾いSNS『ピリカ』をご活用いただきたいと思っています」。