ハナコラボSDGsレポート 那須で“観光・福祉・農業”をむすぶまち「GOOD NEWS」|編集者・藤田華子
ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。第80回は、編集者として活躍する藤田華子さんが「GOOD NEWS」代表の宮本吾一さんに話を伺いました。
今年の夏、那須にオープンした東京ドーム1個分のまち「GOOD NEWS」。バターのいとこを手がけたパティシエユニット「Tangentes(タンジェント)」プロデュースの新スイーツや、人気コーヒー店〈ONIBUS COFFEE〉をはじめとした華やかな店舗が並ぶ、新しい那須の観光スポットになっています。
でもここ、華やかなだけではなく、背景には「観光・福祉・農業」という3つの確かな柱が。どんな循環を目指しこの場所を作ったのか、「GOOD NEWS」代表の宮本吾一さんにお話を伺いました。
ーー”観福農”、つまり観光、福祉、農業という3つの柱を軸にGOOD NEWSは作られました。どのようなきっかけから、この柱はできたのでしょうか?
「まず、自然資本という考えを現代に置き換えました。かつて里山の樹木を炭にして活用したり、川から水を引いて田畑を作ったり、自然こそが資本だという考え方が主でした。そのころって、想像していただければわかるかもしれないけど、森や山に人の手が加わっているんですよ」。
ーー野生のままではないということですか?
「そうです。一見、自然な状態が一番で、人の手が入ると再開発とか人工的な状態と思うかもしれないんですけど、森に人が関わったほうが一平方あたりに多様な生物が住みやすくなるというエビデンスがあるんです。僕らは現代で、観光っていう事業を通して、それをかたちにしていくことができないか実験をしている感覚です。一言で言うと、『リジェネラティブ(環境をより良い状態に再生しようという考え方)』が当てはまるかと思います」。
ーーそこに、”観福農”の福祉を掛け合わせていくんですね。
「元々、地域の資源とする自然・農業がある地域って、人口が減少しているところが多いんです。なので事業を起こそうとすると、人手がどうしても足りなくなる。その問題に対して、福祉に目を向けました」。
ーー大企業では障がい者雇用の制度が整っていますが、地域の中小企業ではまだまだ募集は少ない印象でした。
「小さい街には大企業が少ないので、働く場所も限られる。若い人たちがどんどん減っていく地域で、障がいを持った方に働いていただくこと=労働力を確保できるということで、私たちの思い描いたピースがはまったんです。そのうえで、地域の特徴や特性を最大限に利用し、物語や価値を作っていく。すると誰かを搾取するわけでもなく、やればやるほど良い循環になっていくのがすごくいいんじゃないかなって」。
ーー実際に、障がいを持った方はどんなお仕事をされていますか?
「30名ほどが、主に工場で『バターのいとこ』を製造してくださっています。ほかにも、新しい商品の製造をしていたり」。
ーー「バターのいとこ」はいまや那須・黒磯を代表するお菓子で、最初の数ヶ月は1日30箱しか生産できなかったそうですね。
「いまは5,000箱作れるようになりました。最初は1人のパティシエが手掛けていたのですが、今は先ほどの障がい者枠での雇用も含め200人ほどで作っています。おかげで、品川駅の〈ecute〉にも常設店ができました」。
ーー積極的に障がいを持った方の雇用をするにあたり、福祉問題に詳しい方はいらっしゃったんですか?
「それが、いなかったんですよ。でも絶対にやりたかったことなので、見様見真似ではじめて。もともと、僕らが『GOOD NEWS』よりも先に始めていた黒磯のゲストハウス〈Chus(チャウス)〉のコンセプトとして『大きな食卓』というものを掲げていました。
“最後の晩餐”ではないけれど、いろんな人たちが一緒にご飯を食べられるような場所にしたい。あらゆる背景の人たちが食で繋がることをコンセプトにしていました。それを考える時に、障がいを持った方と、外国の方と、この地域で歩いていても出会いにくいなと思って」。
ーーそれも、福祉に目を向けた理由の一つだったんですね。
「そうなんです。でも、障がいを持った方を募集しても、まったく応募がなくて。そこで詳しい方に聞いたら、ステップを踏まなくてはいけないことがわかりました」。
ーー特別支援学校などと繋がって始まっていくような。
「ご本人たちが応募することは珍しくて、就労支援施設や、指導員さんと採用のお話をさせていただくことが多いそうなんです。就労支援のお仕事をしている友人に相談して、そういった仕組みを作って取り組んでいくことで、スムーズに循環していくとアドバイスをもらいました」。
ーー素敵なお店が連なっていますが、どのようにしてこの場所を作られたのですか?
「元々の友人に声をかけたんです。彼らがわざわざ那須に出店してくれた理由としては、サステナブルアクションに対して共感をしてくれたというのが大きいですね。いまは自分たちでもそのアクションをしていて」。
ーー具体的にはどんなことを?
「施設全体でそれぞれやっていますね。〈Norfolk Gallery by Dear, Folks & Flowers〉というお花屋さんだったら、生産者さんのところから茎が一本足りないとか葉が足りないとか規格外で市場に出せないような花を買い付けてきていたり。〈ONIBUS COFFEE〉のコーヒーの残渣や、〈バーバーヒラヤマ〉で出る散髪した髪の毛をたい肥化するプロジェクトも進行しています。そういう考え方を知ってもらったうえで、さらに楽しんでもらえたらと思います」。
ーーお花を持って帰るだけではなく、考え方や視点を持ってかえるように?
「そうそう。最初の入り口として、素敵なお店が多いと注目してもらう。そうして、いつの間にか社会にコミットしたということで少しいい気持ちになれるのが理想です。バターの製造過程で出る無脂肪乳を活用した『バターのいとこ』は、パッケージのかわいさや味のおいしさを認めていただき広まっていきましたが、認知が拡大すると、きちんと背景も伝わると実感しています。同じことを『GOOD NEWS』でもできたらなと」。
ーー「バターのいとこ」に次いで「BROWN CHEESE BROTHER(ブラウンチーズブラザー)」も発売されました。”新たな可能性に満ちたお菓子”ということですが?
「牛乳からチーズをつくる過程で、大量に出るホエイ(乳清)を廃棄したくない、という想いで作りました。その結果、おいしく活用するために注目したのが、ノルウェー発祥のホエイを煮詰めてつくったチーズ“ブラウンチーズ”です。
ホエイは”ホエイプロテイン”として使われるほど栄養価の高いものなのですが、活用して何かを作り続けるコストがとてもかかるんですよ。でも、独自の甘みもあって砂糖不使用でもおいしい。コクのある風味と乳酸由来の甘ずっぱさを活かして、バターベースのガレットブルトンヌでサンドしました。
ブラウンチーズは、作りたい方がいればどんどん真似してもらえるようにしたのもポイントです。作れば作るほど、廃棄されるホエイは減っていきますから」。
ーー今後、やってみたいことは?
「今の『GOOD NEWS』は第一期。第三期には、ここを三倍まで拡大して、店舗も40~60店舗まで増やして商店街化するイメージです。よく”ロマンとそろばん”と言っているんですが、両方大事だと言いたいです。里山経済があったころのように、自然資本を使って循環させていく。特に観光業は体験ベースのものなので、森の中でふだん見ないような景色を見たり、森を理解してもらうことが自然資本を使った事業になるんじゃないかなと思っています。これは那須だからこそ、できることです」。
「GOOD NEWS」
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