豊かな未来のために、今、みんなで考える。 「私にだけカミングアウトしてくれない。」4人の賢者が答える、未来のための相談室。
全ての人が尊重される未来の実現のためには、わたしたちの悩みの解決も大切な一歩なはず。すぐには解決しなくても、どう考えればいいのかだけでも、教えて賢者たち!
Q.「ゲイの友人が、私にだけカミングアウトしてくれない。」
長年の男友達が、ゲイであることをカミングアウトしてくれません。「こんなんだから、女性と結婚できないんだけどね」と本当のことを隠され続けています。私自身は本人からのカミングアウトを待っていますが、表向きは「仲良しだよね」と言われながらも本当の部分は徹底して隠されているのがモヤモヤします。(S・H/35歳)
A.1 イシヅカユウ「一度自分の中でそのことがどれほど大事なのかを、整理してみた方がいいかもしれません。」
前提として、どんなに仲良しでも話したくないことや、話したいタイミングなどがあるのではないでしょうか。そしてその友人のセクシャリティや、そのことを自分に話してくれるかくれないか、ということは友人関係と何の関わりもないと私は思いますし、セクシャリティというのはその人の内包しているもののほんの一部分だと思います。それを「本当の部分」と考えていることに私は逆にモヤモヤしてしまいました。一度自分の中でそのことがどれほど大事なのかを、整理してみた方がいいかもしれません。
A.2 太田啓子「あなたに見せている姿だって「彼の本当の部分」なのではないでしょうか。」
性的指向は極めてプライベートなことですよね。また、仲が良い友人とどういう範囲のプライバシーを共有したいかは全く人それぞれ。あなたにしてみれば仲良しなのにさびしいという気持ちだったのでしょうが、信頼されていないからカミングアウトされなかった、とは限らないですよ。「仲良しなのに本当の部分を徹底して隠されていた」ではなく、「彼のバウンダリー(境界)の引き方を尊重しよう」と思えていたらモヤモヤが減ったのでは。仲良しなのであれば、あなたに見せている姿だって「彼の本当の部分」なのではないでしょうか。
Answerers
◆吉村泰典(よしむら・やすのり)/産婦人科医師・慶應義塾大学名誉教授・ウィメンズ・ヘルス・アクション代表。生殖医療の第一人者として、不妊症、分娩など数多くの患者の治療を担当。ウィメンズ・ヘルス・アクションのメディア「わたしたちのヘルシー」(https://watashitachino-healthy.com/)にて、心と体の話を始めるきっかけを発信している。
◆太田啓子(おおた・けいこ)/弁護士。神奈川県弁護士会所属。明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)メンバーとして、主に離婚、セクシャルハラスメント、性被害などの案件を手がける。近著に『これからの男の子たちへ「 男らしさ」から自由になるためのレッスン』(大月書店)など。
◆イシヅカユウ/モデル・俳優。1991年生まれ。2021年に、文月悠光の詩を原案とした短編映画『片袖の魚』で主演としてスクリーンデビューを果たす。雑誌やCM、ショーなどさまざまな媒体で活躍中。体が男性として生まれながら女性のアイデンティティを持つMtFであると公表している。
◆鈴木涼美(すずき・すずみ)/社会学者・作家。1983年生まれ。慶應義塾大学在学中にAVデビューしたのち、東京大学大学院を修了し、日本経済新聞社記者を経て作家に。書評から恋愛エッセイまで幅広く執筆。近著に『ニッポンのおじさん』(角川書店)、『娼婦の本棚』(中央公論新社)など。