ハナコラボSDGsレポート 〈アムリターラ〉が、一切の妥協なく真の国産オーガニックコスメを作り続ける理由
ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。第32回は、ナチュラルビューティーハンターとして活躍するシナダユイさんが〈アムリターラ〉代表の勝田小百合さんに話を伺いました。
4月某日に行われたブランドリニューアルお披露目会で「商品のロス(廃棄など)を避けるべく、およそ3年ほどかけてリニューアルする」という異例の発表をした〈アムリターラ〉。創業者である勝田さんの“つくる責任”に対する確固たる意志を感じ、なぜそうまでして進化を続けるのか…真相に迫ってきました。
創業に繋がるまでの4つの転機
ーーHanako本誌の連載「Hanako Beauty_Skin Care あのコスメが生まれた理由。」にも掲載されていましたが、改めて創業につながるまでのストーリーをお聞かせください。
「まだ20歳そこそこの頃、大阪に暮らしながら演劇に夢中になっていたのですが、それだけでは生活できず、モデルの仕事でオーディションを受けたのが“無添加コスメ”でした。その出会いが第1の転機。その後、東京に出てきて26歳のときに付き合っていた彼(現在のご主人)が自然食品店の店長になり食生活が激変。体質の変化を感じられたことが第2の転機です。生活面では当時のめり込んでいた演劇にはアングラな一面もあり、荒れている部分もあったためパニック障害になってしまい、治すために今度は栄養学的なところからもう1回見直すことにしました」。
ーーそんな時代もあったんですね。ご自身でアングラと言ってくださるのも人間味を感じられて親近感が湧きます。
「その後、治療の一環で出会ったカイロプラクティックを学校で学びカイロプラクターになりました。それが第3の転機です。ちょうどその頃に化粧品の全成分表示が始まり、いままで“無添加”と信じてきたものがケミカルだらけだと知ってショックを受け、色々調べるようになりました。そして33歳の頃にアンチエイジングに目覚めたんです」。
ーーちょうど顔のたるみや目のクマなど変化を感じる頃ですよね。
「アンチエイジングをナチュラルにする方法を自分の中で模索するなど研究を重ねました。そんなこともあり、妊娠・出産に関しても自然分娩を強く希望。お世話になった書籍『分娩台よ、さようなら』を執筆された大野明子先生という元学者の産科医さんから徹底的に栄養指導などを色々叩き込んでもらいました」。
ーー出産時もよりナチュラル志向を深めるきっかけになりましたか?
「より意識を深める転機の一つになりました。36歳の出産を期にそれまでの一切合切をアウトプットしていこうと始めたのが『アンチエイジングの鬼』というブログです。ただ自分のこだわりや探究心の強さにぴったりの理想的なオーガニックコスメにはなかなか出会えず、結局自分で作るしかないと〈アムリターラ〉を創業しました」。
原料を追求したら種へと繋がる
「〈アムリターラ〉立ち上げ時に動いたのは15年ほど前だったため、オーガニックの原料が先ずありませんでした。油と精油に関してはなんとか海外のものがありましたが、エキスに関しては防腐剤が入っているものしかなかったんです」。
ーー原料屋さんに行くと。
「素性がわからなくて。その頃はまだオーガニック認定工場は一軒もなく、結局、原料も種を撒くところから作るしかないと千葉に農園を作りました」。
ーー創業以来、遺伝子組み換え(由来)原料やキャリーオーバー(※微量なので全成分表示に表記する義務のない成分のこと)にまで目を光らせ「オーガニックや野生の原料の採用」をするこだわりの徹底ぶりには舌を巻くばかりです。普通そこまでやるかなあ、と思うくらい大変なことばかりですよね。
「ずっと農業に関わってきて自分自身も家庭菜園をやっていますが、種取りというのをずっと続けています。 例えば土壌菌とトウモロコシを組み合わせる遺伝子組み換えは除草剤とセットで売るために作られたもの。一度、人間の傲慢で作られたものが自然界に解き放たれると何が起こるか制御不能になり、交配を繰り返し、メキシコでは在来種のトウモロコシが全部駆逐されてしまったみたいです。そのうえ除草剤の農薬には発がん性の危険があり、アメリカではたくさん訴訟が起きてしまい勝訴した人もいます。その様子は、〈アムリターラ〉も協賛している映画『食の安全を守る人々』に詳しく紹介しています」。
ーーなんとなく避けてはいたものの、生態系まで脅かす可能性もあるんですね...。
「一代交配種『F1種』と言われるものは遺伝子組み換えではありませんがー代限りなんですよ。遺伝子組み換えの作物からも種は取れません。要するに、企業から種を買わなければいけない。これでは生物多様性が失われてしまいます。反対運動とかにも関わっていましたが、まず何が一番大事かなと思ったときに、自分で種取りすることが大切だなと思ったんです」。
ーーなるほど。農家側の立場に立って原料の選別をされていたんですね。
「遺伝子組み換えに絶対加担したくないという気持ちから、遺伝子組み換え原料は細かいところまで不使用なんです。一般的な化粧品会社であれば“追えません”もしくは“不分別です”と言われるようなものまで。うちは天然ビタミンEにしてもトコフェロール、トコトリエノール、レシチンと記載があっても全部遺伝子組み換えしていないものを気合入れてわざわざ探してきて、素性が分かっているものだけを使っています。結構大変なんです」。
ーー大変なことだと思います!究極のトレーサビリティですね。
「これは意地でもやるしかない。あとキャリーオーバー成分ですね。 原料に含まれている防腐剤など1%以下のものであれば表示しなくてもいいのですが、あえて出しています。海外のオーガニック認証よりも厳しい基準で作ってるからわざわざ認証を取る必要がない。その代わり、全て表示することでお客様に選んでもらおうと。 アレルギーも多様化してるので、細かい成分があったほうがお客様もわかりやすいですし、信頼していただくためです」。
ーーどこよりも徹底されているんですね。
「オーガニックや野生の原料の採用という点では、日本の無農薬で頑張る農家さんを応援することで地方創生にも繋がりますし、日本の国土や環境を美しくしていきたい。原料としては近いもののほうが酸化してない、地産地消が自分自身も美しくなれるんです」。
リニューアルとサステナビリティ
ーー探究心の深さにいつも圧倒されっぱなしです。今年13年目でリニューアルした理由はなぜでしょうか。
「年月にはあまり意味はなく、創業からずっと行ってきたサステナブルな取り組みやブランドの理念みたいなことを改めてわかりやすくお伝えしたいと思い、ロゴとパッケージを一新しました。いままで認証機関が認めてるような防腐剤まで不使用にこだわっていたので、エアレス容器かバックレス容器と限られてしまいデザインで選べなかったり、簡易包装で箱もないのでOPP袋が増えてしまいがちでした」。
ーーそれが「環境に配慮した容器やパッケージ」に進化したんですね。
「実際に糸島で間伐のチームに加わって参加してきましたが、国土の7割が山林にも関わらず、そのうち4割が人工林で手入れもされず、放置されて花粉症の原因や土砂崩れ、水質の悪化などの問題を引き起こしています。適切に手入れした木材を店舗やオフィスで使用したり、森林に優しい認証を持っているパルプが原料の紙を外箱に採用すれば生態系を守りつつもビニールやプラスチックを削減できます。他にも『ストーンペーパー』という地球上に1番あると言われている石灰石の粉で出来たペーパーをトライアルサイズの梱包に採用したり、梱包材にも再生原料のプチプチを使ったり。容器の回収『アムリサイクル』では燃やして熱回収の『サーマルリサイクル』ではなく、日本ではなかなか難しいと言われている『マテリアルリサイクル』を採用して新たな資源として使う取り組みも始めています」。
ーーそこまでされているんですね。店舗の電力も「再生可能なグリーン電力で運営」なんですよね。
「表参道店は2011年6月と震災の年にオープンだったので、当時はグリーン電力証書を最初買う形でWで電気代を払いながらも再生可能な電力を使っていました」。
ーー「フェアトレードの推進」では色々な商品の原料として使われているのですか?
「モリンガオイルやシアバター、アルガンオイルなどです。原価が高くなってしまうのは否めませんが、結局安いってことに裏があるんですよね。それは誰かが泣いているわけで、苦しめた上の価格なんです。そうではなく、ちゃんとWin-Winに適正価格をお支払いすることが普通。原価が高くなる分は広告費を乗せずに定価を抑えるようにしています。大変なことですが、持続可能な取り組みのなかでできることをやっていたらそういう形になりました」。
ーー「植物のアップサイクル」というのは?
「リニューアルした『ライス&グレープシリーズ』には自社農園で育てた穂増(ほまし)という自然栽培米から細胞水を取り出して化粧品に使い、残った水分のない玄米は粉にして玄米麺としてアップサイクルして秋に発売します。全部余すことなく使えるというのは、フードやサプリを販売している強みかなと。そこを活かしながらやっていきたいなと思っています」。
ーー「環境保護活動への寄付」もされていますよね。
「元々やってることなので、SDGsのために意識して取り組んでいるわけではないのですが、ヒマラヤ岩塩バスソルトの売り上げの一部は『ヒマラヤ保全協会』に寄付することでヒマラヤ山脈に木を植えてもらうという環境保護活動をしています。宮古島の無農薬のハイビスカスを使ったハイビスカスのチークは、購入することで売り上げの一部が沖縄のサンゴ礁の保護活動に寄付されます。そのほかにも、商品ごとに原料を使わせていただくなら貢献すべきだと、そういう取り組みは大切にしています」。
こだわりの理由
ーー数多くの取り組みをされている〈アムリターラ〉さんですが、それに対する勝田さんの熱意やバイタリティはどこからうみ出されるものなのでしょうか。
「私自身、小学校〜高校までとても苦しかったんです。特に義務教育が苦しかった。時代的に同調圧力も強く、少しでも違うことを言うと恐ろしいみたいな空気で。いまもコロナのワクチン問題で空気に飲まれて致し方ないみたいな雰囲気は変わらないなと。当たり前、常識と思ってることが本当に当たり前なのか。みんながやってるから、世間がそうだから、テレビで放送されているから、それは主流だから...本当に?と小さい頃から疑問に思っていたことは大きいですね」。
ーー常識を疑うということでしょうか。いまでこそ聞くようになりましたが。
「みんなが当たり前だと思ってることに違和感を感じる。農業でも『慣行栽培』というのは、なぜ農薬を使う方が慣行で、農薬を使わない方が特別栽培と言われるのか?考えたら変じゃないですか。昔は農薬なんかなくても作物は育ったのに急にどうしたんだと。当たり前のことが少しずつおかしくなっているんです」。
ーーなるほど。
「違和感があることに対して“これでいいんじゃない?”“ちょっと違うんじゃない?”って言って全部チャレンジしているうちに、自然とオーガニックにたどり着き、いまに至る感じです」。
ーーそれが勝田さんをつくるバイタリティなんですね。“疑うことから”チャレンジすると。
「多分、ロック魂みたいに当たり前を破壊していくみたいな。ただ、結局は破壊した後に何がわかるのかというと、意外とそれは伝統なんです。無農薬農業なんて伝統ですから」。
ーーそこにたどり着くんですね。
「ロック魂と言いつつも、実際やっていることはいわゆる保守なことなんです。オーガニックって本当伝統ですし、古くからあること。種から育てる農法も伝統じゃないですか。昔からあるものを大切に、古き良きものをもう1回大事にしているんです。遺伝子組み換えやゲノム編集のほうが最新ですよ、多分。私自身は伝統的な中にやっぱり人の豊かさがあるのではないかと思います」。
ーーとてもお勉強になる話をたくさん聞かせていただきありがとうございました。