ハナコラボSDGsレポート ジェンダーの壁を超えたコスメを発信する〈BOTCHAN〉のものづくり。「多様な人々に自分の肌をもっと愛してもらいたい」。
ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。第16回は、エディター、ライターとして活躍する大場桃果さんが、メンズコスメブランドでありながら性別にとらわれないコンセプトや製品づくりが共感を呼んでいる〈BOTCHAN(ぼっちゃん)〉を取材。代表の加登愛子さんとブランディングを担当する福岡英一さんに話を聞きました。
性別にとらわれない、多様性を応援するコスメを。
ーー〈BOTCHAN〉のことを知ったとき、まず「“男らしく”を脱け出そう」というブランドコンセプトに心惹かれました。このようなジェンダーレスのメンズコスメブランドを始めるに至った経緯を教えてください。
加登さん:〈アンド・コスメ〉の親会社である〈株式会社加登〉は霊園や墓石を扱う会社で、陰か陽でいうと陰の業界でこれまで仕事をしてきました。でも、数年前に兄と一緒に新たなビジネスを始めようと考えたときに「何かハッピーに繋がることをしたい」と思って。兄が化粧品業界の方と知り合いだったので、色々とお話を聞いているうちに美容の世界へ進出することを決めました。
福岡さん:女性をターゲットとする化粧品はすでに大きなマーケットがあったため、当時はまだそこまで市民権を得ていなかったメンズコスメを軸にすることにしました。ただ、メンズコスメに関してもここ数年であっという間に伸びるだろうなということが予想できたため、どちらかというとメンズコスメのマーケットから逃げるような、“メンズらしくない”ものづくりを心がけることにして。そうやって試行錯誤した末、2018年に〈BOTCHAN〉が誕生しました。
ーーメンズ用のコスメやシャンプーはどれもモノトーンや寒色系のパッケージで、広告でも“男らしさ”を訴えているものが多いように感じます。そんな中で〈BOTCHAN〉ではどのように製品を作っていったのでしょうか?
福岡さん:筋肉ムキムキの男性が肌にパシャっと化粧品をつけている、そんなイメージが強いですよね。でも、そうじゃないものを求めている人もいるだろうなと思ったんです。女性に近い感性を持った人や、女性ものの服や香水を着こなせる人。そういう人を対象にして考えてると、その延長線上には性別の壁があって。「その壁を超えてもいいかな」とか「壁を超えることで女性にも愛用してもらえるかも」などと考えを巡らせて、性別にとらわれない製品作りを始めました。
ーー〈BOTCHAN〉のパッケージはカラフルでありながら、どの性別にも偏らない、まさにジェンダーを超えて誰もが心ときめくデザインだと思います。
福岡さん:毎日のルーティーンの中で気持ちが上がるような、楽しいアイテムを目指しています。単体で見ても、全部並べても〈BOTCHAN〉らしさが伝わるようなデザインにしたくて。シリーズを並べると虹色になるように設計されていて、そこには「多様性を応援する」という意味も含んでいます。
ーーなるほど!商品に封をするテープもレインボーカラーになっていますね。
福岡さん:コンセプトを固めるにあたって我々もジェンダーについて深く考えるようになり、実際にLGBTQの方々を招いてディスカッションしたこともありました。
ーー例えばどのような意見をもらいましたか?
福岡さん:〈BOTCHAN〉では「“男らしく”を脱け出そう」のほかに「LOOK BEYOND」というテーマを掲げているのですが、実は元々「BEYOND GENDER」というフレーズにしていたんです。でも、それを見たゲイの男性に「“メンズコスメ”として製品を作ってるなら、まだジェンダーを超えられてないじゃないですか」と言われてしまって。その言葉にハッとして「LOOK BEYOND」というフレーズに変えたことで、彼らも私たちも腑に落ちて、ブランドの目指す方向性がより明確になったように感じます。
自分のために、自分の肌を愛でてもらいたい。
ーーそもそも、男性と女性の肌質はどれほど違うのでしょう?
福岡さん:私は専門家ではないので断言はできませんが、化粧品業界の目線で見るときっと大きく違うと思います。皮脂の出やすさとか、ホルモンの関係とか。〈BOTCHAN〉も皮脂に対するアプローチはかなり気にしています。
加登さん:これまでのメンズコスメはメンソール入りの爽快感があるものが一般的で、さっぱり爽やかな使用感が好まれていたんです。でも、〈BOTCHAN〉は男性にも肌を愛でてもらうことを目指していたので、とにかく優しくケアできる製品を目指しました。例えば「ジェントルクレンザー」は泡立ちがよく、肌をゴシゴシするのではなく濃密な泡でふんわり洗える洗顔料。洗浄成分が強すぎないため、洗い上がりに肌がつっぱらないのもポイントです。「フォレストトナー」は爽快感より保湿力を優先して、シェービングローションとしても使えるようアルコールフリーにこだわりました。女性が使っている化粧水や乳液を同じくらい、トロッとした使用感になっています。
ーーたしかに私が普段使っているものに近いです。自然な香りもいいですね。
加登さん:スキンケアに慣れている女性は少々ベトっとしていてもそれを“保湿”として受け入れられるんですけど、これまで肌に気を配っていなかった男性の中にはベタつきを嫌がる方もいるんです。なので、ベタベタしすぎないけどしっかり保湿ができるような、絶妙なバランスの製品になっています。特にこだわったのは「フラワーモイスチャライザー」で、通常のクリームより水分が多くてサラッとしたジェルクリーム状になっています。「ハニーリップバーム」も、テカテカするのを嫌がる人が多いと思うのでマットな質感を実現しました。
ーー本当に、ジェンダーに関係なく誰でも愛用できそうです。
加登さん:一応メンズコスメとして販売しているものの、ブランド開始1年目から女性のお客さんが増えて、今では半数以上が女性です。ギフトで購入する方もいますし、〈BOTCHAN〉の使用感を気に入ってリピートしてくださる方も多いですね。
福岡さん: これまでコスメに手を伸ばさなかった人たちにも届くよう、価格帯は1,000〜2,000円台に設定しています。メンズコスメは一般的に洗顔と化粧水のペアが中心なのですが、〈BOTCHAN〉は乳液まで購入する方がほとんど。3品あった方がカラフルで可愛いという理由もあるのかもしれません。
ーー実際にお客さんからはどのような声が届いていますか?
福岡さん:今までメンズのコーナーで自分にフィットする商品を見つけられなかったという方々は、〈BOTCHAN〉の登場をとても喜んでくれています。
加登さん:FTMの人たち(女性として生まれ、男性として生きることを望む人)の場合は、性転換の手術をした後に皮脂が出やすくなって肌のトラブルが増えるそうで。そういうときに〈BOTCHAN〉の「スキンパーフェクター」がぴったりだと言っていただきました。毛穴をしっかりカバーして皮脂を抑えるけど、無色なのでファンデーションっぽくならない点がいいと。ジェンダーに関わらず、可愛すぎるものや化粧っぽく見えてしまうものはあまり使いたくないという方々に広く愛用されています。
福岡さん:女性の化粧品のマーケットはあんなに種類が豊富なのに、男性は画一的で同じようなものしかなかったということ自体、時代に遅れていたんだなと、今となっては感じますね。
ブランドに共感してくれる人たちの期待に応えたい。
ーー商品ラインナップの中に「冬のHANABI」というものがありますが、あれはどのような意図があって販売されているのでしょうか。
福岡さん:〈BOTCHAN〉はコスメをシェアして2人で過ごす時間も提案しているので、2人だけで静かな時間を過ごすためのウィンターギフトとして花火を発売しました。化粧品のギフトはポーチのセットが多いと思うのですが、そうではなく時間をシェアするためのアイテムを作りたかったんです。
ーーただプレゼントするだけでなく、その先の時間まで想像できるギフトになりますね。
福岡さん:そうなんです。せっかくギフトが人気なのでさまざまなブランドをコラボしようと思い、ネクタイ専門店の〈giraffe〉と蝶ネクタイを作ったりと、“化粧品のおまけ”を超えた本格的なギフトを企画してきました。
加登:洗顔やネットを一式にした「ヒトップロセット」というものもあって、銭湯をまとめたマップと、商品の使い方をユーモアを交えながら説明するパンフレットがついてきます。
ーーえー、これは喜ばれそう!銭湯に行くときに便利ですね。
福岡さん:今年のバレンタインデーに向けて〈tk. TAKEO KIKUCHI〉とコラボして作ったのが、夜更かしを楽しむためのパジャマ。ステイホームの時間が長くなるので、部屋の中やちょっとコンビニに行ったりする時のためのウェアを発売しました。
加登さん:パジャマとガウン、缶やボトルを保冷できるミニバッグなどを通じて、近所にふらっと遊びに行くための夜更かしスタイルを提案しています。
ーーお話を聞いていると、メンズコスメブランドを超えた“ライフスタイルブランド”だと感じました。今後新たに計画している商品はあるんですか?
福岡さん:4月頃の発売を目指して新製品を開発中です。最近はメンズコスメもいろんなものが登場していますが、〈BOTCHAN〉は一貫して「モテるためではなく、自分の毎日を心地よくするために肌をケアしよう」という気持ちでやっているので、そのテーマに合うような製品になりそうです。
加登さん:“モテ”は私たちにとってNGワードで、目指すのは “自分磨きのコスメ”です。今後ラインナップを増やしていくにあたっても、使っている本人の気分が上がるものを第一に大切にしていきたいと思っています。
ーー誰かの視線のためではなく自分が自分を好きになるためというところが、今の時代にも合っているように思います。コスメって基本的には家の中で使うものだから、他の人の目に触れることってあまりないじゃないですか。でも〈BOTCHAN〉のパッケージは可愛いから、使うたびになんだかちょっといい気分になりますもんね。
福岡さん:そうですね。朝起きてバスルームに行って「今日も顔を洗おう」という気持ちにさせてくれるような、前向きなアイテムでありたいなと思っています。使っている方が、〈BOTCHAN〉を通じて自分自身をより好きになってくれたら嬉しいですね。
加登さん:ギフトがきっかけで知ってくれた方も、コンセプトに共感して買ってくれた方も、みなさんこのブランドをとても気に入ってくださっているので、その期待を裏切らない製品づくりやイベント企画をこれからも心がけていきたいなと思っています。