ここが原宿!? 建築デザイナーの美学が詰まった、ゆったり寛げる原宿の名喫茶〈アンセーニュ ダングル〉へ。
原宿の路地裏で見つけた、喧騒とは無縁のとっておき空間が広がる〈アンセーニュ ダングル〉。その魅力を、建築デザイナー・松樹新平さんが手がけたインテリアを切り口にご紹介します。
ふと立ち寄りたくなる、永遠のスタンダード喫茶〈アンセーニュ ダングル〉
原宿駅近くの路地裏に〈カフェ アンセーニュ ダングル 原宿店〉が開店したのは昭和50年のこと。半地下に下りそっと扉を開けると、重厚ながらほっとする琥珀色の空間。カチッと心のスイッチがオフになる。
一枚板のカウンターに漆喰の壁。フランスの田舎町の家をイメージした「フレンチスタイル」の内装は、いまや喫茶の定番だ。これを完成させたのが、建築デザイナーの松樹新平さんである。革張りのソファやテーブルが主だった喫茶ブーム時に、その斬新さゆえ次々と踏襲された。
オーナーの林義国さんから依頼された同店は、松樹さんが設計した2つ目の喫茶店。
「フランスをはじめ、ヨーロッパの街には昔ながらの建物が息づいています。それは年齢を超えて、誰が見ても〝素敵〞って惹かれると思うんです」と松樹さん。
手がける店は内装から食器、サービスまでトータルプロデュースする。
「居心地のいい店とは、家のような場所。それを作るには全てを指揮することが大事だと。当時は大通りに面しているのが定番でしたが、ここは立地が悪くて。でもいい店なら、絶対に人が来ると確信があった。デザインでいえば照明が大事ですね。昔の家は天井にライトがなく、必要な所だけを照らしていた。そんな明かりが心地よさの秘密なんですよ」
手にするブレンドは、開店当時から変わらない〈コクテール堂〉の深煎りのオールドビーンズをネルドリップで淹れたもの。
ここの豆に惚れ込み、自身が造る喫茶店でも取り入れるようになった。ぐっと苦みがあとを引く。
「何回か飲むとまた飲みたくなる味。じゃあ5回は来てもらえるようにと、雰囲気の違う席を5つ作りました」
カウンターに大テーブル、奥にはボックス席を設けた。「木はすべてムクの木で、座った時に足が着く床の端は、木が朽ちないように大理石。配置はカウンターから全席が見えるかつ、お客さん同士の目が合わない角度で造りました。いろいろな店がある今こそ、こういう所が必要とされるんじゃないかな。時代が変わっても、人が〝なんか好きだな〞って思う空間は変わらないでしょ?」
(Hanako1150号掲載/photo : Megumi Seki text : Wako Kanashiro)