きらびやかな昭和レトロを体感! 1度は行きたい!大阪にある伝説の〈純喫茶アメリカン〉その魅力とは?
大阪で行くべき喫茶店といったらここ、〈純喫茶アメリカン〉。伝説の名店の魅力を、こだわりの詰まったインテリアを切り口に、建築家の高岡伸一さんによる解説と共にお届けします。
アメリカに夢焦がれた店主の情熱がきらめく!
きらびやかな世界に突如舞い降りたような感覚。大阪で最も大きな繁華街のひとつながら、どこかレトロな趣のある街、ミナミの千日前に位置する〈純喫茶アメリカン〉。
1階客席フロア。ガラス照明が埋め込まれ、640枚の板を重ね削りだした波打つ木の壁。
〝純喫茶〞という言葉から想像する、こっくりとした琥珀色の世界とは打って変わり、空間全体がキラキラとした、マジカルな魅力にあふれている。
ア・ラ・モードならぬプリン・ファッションというメニュー名からもアメリカへのこだわりが。
東欧のテキスタイルにも通じる陶器の蝶。
しかもここまでの世界観を作り続けてきたのが、著名な建築家でもなく、なんと亡き創業者である山野勝次郎さんであることに驚く。氏の感性が、ストレートに反映されているのだという。
うっかり見落としがちな「目」をモチーフにした照明にも注目して。
大阪万博「太陽の塔」を手がけた岡本太郎的テイスト漂う壁面の照明。
「1946年の開店以来、採算を度外視して、売り上げの大部分を店の整備につぎ込んでいたそうです」
と教えてくれたのは、大阪市内の近代建築や戦後建築に詳しい、建築家の高岡伸一さん。
「千日前商店街のアーケードで外観の全貌を窺うことはできませんが、ファサードは赤い大理石の壁に筆記体で書かれたゴールドのサイン。また、中に入ればどこをとっても濃密なデザインで、見る者を決して飽きさせません」と賞賛する高岡さん的見どころは、入口の吹抜にある、男女を抽象化した大きな壁面の彫刻レリーフと階段の組み合わせ。
2階客席から眺める、シャンデリアと彫刻レリーフ。
「大阪・中之島のフェスティバルホールのよく知られたレリーフを思わせる、とてもモダンな造形です」
さらに大理石が優雅な曲線を描く2階への階段は「加工が難しく、一度は職人に断られた」といういわれもあるほど。
「当時、家一軒が建つくらいの費用を掛けたそうですから、情熱は尋常ではないと思います」
さらに特筆すべきは、この情緒を受け継ぎ、半世紀以上にもわたってその姿を保ち続けていることだろう。
テーブル随所に飾られた花も造花ではなく、常にその季節ならではの生花。ウェイトレスの制服は、明治・大正にかけて隆盛を極めた「カフェー」と呼ばれるデザインが、今も採用されている。さらに吹抜に吊られた大きなシャンデリアは実は2つあり、年に一度架け替え、外したものを洗浄しているという。
著名人の常連も多く、故・藤山寛美も愛したという〈純喫茶アメリカン〉。そのエンターテインメント性は大阪的喫茶の象徴と言えるだろう。
(Hanako1150号掲載/photo : Jun Kozai direction & text : Mitsuharu Yamamura (BOOKLUCK))