〈+CEL〉インタビューvol.6 (前編)
蒐集家の郷古隆洋さんが父から受け継ぎ、 子どもたちへ残したい、物へのまなざし。 MAMA 2024.02.19PR

国や年代、ジャンルを問わず感性で選んだヴィンテージ雑貨を集めた〈Swimsuit Department (スイムスーツ・デパートメント)〉オーナーの郷古隆洋さん。蒐集家でもある郷古さんの自宅も、まるで博物館だ。目利きで選ばれたインテリア雑貨や民藝の器や郷土玩具、アート作品などさまざまな骨董の品で溢れている。郷古さんは、6歳の男の子と3歳の女の子、二人の子を持つが子どもが手を届く場所に貴重な品があっても、それで遊んだり、壊されたりすることはそうそうないと言う。ランドセルブランド〈+CEL〉と子どもたちへ受け継ぎたいものについて伺うインタビュー企画。シリーズ6回目では、郷古さんの「物」へのまなざしに注目したい。

郷古さんのご自宅。世界各地か集められた貴重なフォークアートやユニークなオブジェが並ぶ。
郷古さんのご自宅。世界各地か集められた貴重なフォークアートやユニークなオブジェが並ぶ。
窓辺には60年代のイッタラ製ヴィンテージガラスのボールのオブジェが。
窓辺には60年代のイッタラ製ヴィンテージガラスのボールのオブジェが。

生まれたときから、たくさんの「物」に触れて育つ。

――郷古さんは現在、東京と福岡・太宰府の二拠点生活をされているそうですね。

「決まっているわけではないですが、だいたい月の半分は東京にいて、もう半分は太宰府にいます。向こうにもお店があるので。家族が主に住んでいるのは太宰府の家です。二拠点をはじめたのは子どもが生まれる前からですが、妻の実家が太宰府だったので出産を向こうでして。そのまま自然の流れで子育てもこちらでしたいね、という話になりました。太宰府の家は、天満宮のほど近くにあるマンションで。朝8時半になると神社の朝拝が始まり、その太鼓の音が聞こえる。自然も多く残っている、そんな昔ながらの環境で小さいうちは、のびのびと育つのがいいんじゃないかなと思っています

――太宰府のお家にも蒐集品が並んでいるのでしょうか。

「はい。だいぶ、向こうの家に運んでいます。子どもたちは生まれたときから、たくさんの物に触れていますから、それが当たり前になっている。壁にお面がずらっと並んでいる様子をみて、遊びにきた息子の友達なんかは“こわい!”といいますが、息子は別にそういう感覚はないようです。また、僕がどのように物を扱うかを見てもいるので、むやみに乱暴に扱ったり、壊すこともないです。子どもなので、なにかの拍子に転んで倒してしまうこともありますが、わざとして困ることはこれまで一度もないですね。逆に、僕の真似をして自分が遊ぶおもちゃでさえ、とても大事に扱うように感じます

〈+CEL〉インタビュー 蒐集家の郷古隆洋さん
郷古さんの年季の入った工具箱。仕事で内装を手がけることも多い。
郷古さんの年季の入った工具箱。仕事で内装を手がけることも多い。

――幼いうちから見て、知り、学ぶことが多いのかも知れませんね。

「僕自身もそうだったんです。うちの父親は船乗りで、大きな貨物船に乗っていました。帰ってくるのは10ヶ月に1回くらいです。おみやげに世界各国のチョコレートを何十枚も買ってきてくれて、それがいつも楽しみでした。船員というのは長い間、少人数で船に乗っているので料理などの家事も、ちょっとした修理なんかも、なんでも自分でできないといけないんです。父ももちろんそうで、自分でたいていのことはできるし、ちょっとしたものなら自作してしまう人だった。しかも、とても手先が器用だったから、上手にできるんです。それを見て育ったことが、今の僕の仕事にも活きているなと思いますし、古い壊れたものをささっと直せるような器用さも、父から受け継いだものだなと感じます。父は、DIYがとても得意で。家のテレビがブラウン管から液晶に切り替わったときなんかは、ちょうどいいサイズのテレビ台にうまいこと作り替えていて感心しました。手入れもとても丁寧で、道具箱をいつもきれいに整理整頓して使っていた。ノコギリを研ぐのも自分でやっていましたから。父の道具箱は、今、僕の使っている工具箱のお手本のようなものです」

父から受け継いだ、自分でできることを子どもたちにも伝えたい。

――眼に見える物でなくても受け継いでいるものは、たくさんある。

「そうですね。僕の仕事柄、物はたくさんありますが、これが貴重だから、これは思い入れがあるから、と子どもに物を受け継いでいってもらいたいという考えはないんです。特別、古いものを好きになってほしいとも思っていなくて。それよりも僕が子どもたちに渡していきたいと思うのは、父から受け継いだような、生きていく上で役に立つこと。壊れたものの修理や店の内装、照明の配線はどうやるといいか、壁に物を飾る時の工夫の仕方……父親譲りの感覚で、僕は本来、業者に頼むようなことでも、まずは自分で考えてやってみるんです。子どもたちには、それをぜひ近くでみて、できれば、一緒にやってみたいと思うようになってほしい。長男なんかはすでに、僕の真似をして電動工具ブランド〈ボッシュ〉のおもちゃの工具入れを腰に下げて、店のペンキ塗りを手伝ってくれることもあります。そうやって、真似からでいいから一緒に手を動かして、こうすると上手に塗ることができるのか、と見て学んでくれたらうれしい。たとえば、壊れた時計を直すことひとつとっても、やったことがあるかないかで、考え方は大きく変わってくると思うんです。そもそも、時計は直せると言うことを知らなかったら、壊れているならこれはもう不要なものだと捨ててしまうかもしれない。でも、直せるとわかっていたら、直してまた使おうと考えることができる。物への考え方ってアプローチを知っているか知らないかで大きく変わると思いませんか? 一つひとつは小さなことかもしれませんが、そういうことが考え方や生き方の基本になっていくと思うんです。手を動かして、なにかを生み出すことは、可能性や思考の幅を広げてくれる。その大切さを知ってもらえたら」

70年代のハワード・ミラー社製の時計を手入れする。「時計のクオーツはだいたい20年程度でダメになる。パーツも古いものをとっておけば直すことができる」。
70年代のハワード・ミラー社製の時計を手入れする。「時計のクオーツはだいたい20年程度でダメになる。パーツも古いものをとっておけば直すことができる」。

――そう伺って改めて一つひとつ、美しく並べられた蒐集品をみていると、郷古さんの物への慈しみ、大事にしている気持ちを感じます。

「僕の実家は、なにもないごく普通の家庭なんですけどね。でも、母も几帳面な人で、何事もきちんとしよう、と思うところは受け継いでいるのかもしれないです。母は、洗濯物も服が傷むからと乾燥機にかけず、室内に干していた。干す前に、シャツでもタオルでも、濡れた状態で一度きちんと畳んでしまうときのように一旦、積み重ねてから干すんですよ。そうするとシワがしゃんと伸びるからって。そういう手間を惜しまない人だった。物と向き合うのは、手間ひまがかかること。それでも、きちんとやれば背筋が伸びます。その感覚の大切さを受け継げたのは、本当にありがたいことだなと思っています。僕も母の真似をして、洗濯を干すときには、同じように、畳んでから干しているんですよ(笑)

後半では、目利き蒐集家である郷古さんと〈+CEL〉のランドセルをチェック。郷古さんが気に入った、ランドセルのあるポイントとは…?

photo_Shinnosuke Yoshimori text & edit_Kana Umehara

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