母親の介護と自己責任論に覆われた20代を経ての境地。 「もともと子どもが欲しいかどうかも全然わからなかった」
#08 犬山紙子さん (イラストエッセイスト) 後編

MAMA 2023.12.29

第三回のゲストは、イラストエッセイストの犬山紙子さんだ。犬山さんは、大学生だった20歳の時に、母親の難病が判明。大学卒業後、仙台のファッションカルチャー誌の編集者として働くも、本格的に母親の介護をするために退職し、20代は介護をして過ごす。

そんな状況に転機が訪れたのは、29歳の終わり頃。退職して実家で介護をするかたわら、ブログで女友達の恋愛模様をイラストとエッセイで6年間書いていたものが、ネット上で話題となりブログ本を出版した。母親の介護は、時期をずらして姉と弟を含む3人体制に。以降は執筆活動を中心に、TVのコメンテーター、ラジオのパーソナリティーなど、ジャンルレスに活躍している。

2014年に結婚、2017年に第一子となる長女を出産。2018年には、児童虐待問題防止チーム「#こどものいのちはこどものもの」を発足させ、社会的な活動にも力が入る。現在6歳の娘とは「絵を一緒に描くことが多いです」と笑顔の犬山さん。母親像の原点となるのは、やはり自身の母親。犬山さんが幼い頃の家庭の印象を聞いた。

「うちは昔ながらの家族の形でした。父は外に働きに出て、母は専業主婦で、子ども3人を育てていました。食卓では、料理も手作りでたくさん並んでいて。子どもの頃はそれが当たり前だと思っていましたが、今思えば、毎日何品も料理するのはとても手間がかかること、そこに3人の子育て。母は本当に努力していたんだなあと思います。そして、愛情を口に出して伝えてくれる人でした。愛されているという実感があったからこそ、自ら介護しようという気持ちになったんですよね」

そんな思いを抱ける家庭で育ち、現在は一児の母となった。自身が理想とする母親像はあったのだろうか。

「そんなに明確な理想はなかったのですが、しいて言うなら、子どもには優しく、でも怒る時はちゃんと怒る。とはいえ、自分の機嫌の良し悪しで怒らない、メリハリのある母親になれたらとは思いました。さらに子どもの話を傾聴して意見を尊重してあげられる母親が理想です。現時点では、まだ50点ぐらいの母親ですね。もともと私は、子どもが欲しいかどうかも全然わからなかったんです。でも、産んだらビックリするぐらい、『子どもが可愛すぎて爆発する!』というほど愛おしくて(笑)。自分の子どもには、仕事をしているママの姿をちょっと見てもらえたらなと思っているんです。私は子どもの頃から漫画家や編集者に憧れていましたが、現実ではものすごく受験勉強をさせられながら、きつくて『幽☆遊☆白書』という漫画にハマっていって。私を救ってくれた聖域みたいなものが漫画やゲームだったので、できれば将来は自分の聖域に近い仕事ともいえる漫画家や編集者になって、ずっと働き続けたいと子どもながらに思っていました」

まさに実際、働く母として、その姿を子どもにも見せている犬山さん。さらに「子どもの話を傾聴」することにも重きを置いているようだ。

「傾聴とは、相手の話を否定せずに、最後まで聞くこと。そして求められたら助言もします。でも、その話の中で辛かった気持ちがあれば、その気持ちに寄り添う。というのが、私は大事だと思っていて。傾聴することの良さは、子どもが自分の意見を言っても聞いてもらえないと気持ちを隠すようになるのではなく、『私は意見を言っていいんだ、私の意見には価値があるんだ』と思えることです。ちゃんと話を聞いてもらえて、話を途中で遮らず話させてもらえると、どんどん自分の中でしっくりくる。モヤモヤしていた気持ちを言語化することによって、何が原因で悩んでいたのかもわかるんです」

とはいえ、母親もひとりの人間。家事や仕事で多忙になると、余裕がなくなることもあるだろう。子どもの話に耳を傾けたくても、なかなかじっくりと話を聞く時間が持てないこともある。

「忙しい時に子どもに話しかけられたら、『ママは今お仕事の用意をしていてすごく忙しいから、後で絶対聞くからね』と、キャンセルではなくリスケだ、ということを伝えています。そういう時は、仕事から帰ってきて夜や寝る前に、子どもの話をゆっくり聞く時間を持つようにしていて。いつも傾聴できるのが理想ですが、私も完璧にできているわけではありません」

子どもに限らず、傾聴するということは、相手の話はもちろん、存在そのものを尊重しているということ。相互のコミュニケーションにおいて、より理解を深めていくことに役立つようだ。

「私はカウンセラーの先生に傾聴してもらって、初めてそれがわかったんです。今も信頼できるカウンセラーの先生に時々相談することがありますが、相性があるので、最初は何人かあたってみました。守秘義務のあるプロに聞いてもらうと、話をしているうちに心の整理がついてくるのだと思います。だから、子どもにも、まず話して気持ちを吐き出すことで、心の整理をしてもらうのもいいのではないかなと

子育てにおいても、時には人に頼ったほうがむしろまわりに迷惑をかけないこともある。さらに、日常生活においては、なんでも話せる友人の存在も大きいのだと言う。

「友人たちはみんな神みたいな人でして(微笑)。友人とは、月に一度ぐらいは会うのですが、みんな惜しみなく愛を伝えてくれるんです。会うと嫌な気持ちがすぐに吹き飛んで、こちらも『幸せになってほしい、大好き』という気持ちに。彼女たちはとても成熟した人なので、そこから学んだ感じもありますね。30代後半でできた友達も多く、大人になってからも一生ものの友人ができるんだなって」

友人やカウンセラーなど、自分を支えてくれる人たちによって、生きやすくなる。きちんと呼吸ができる環境で暮らすなか、犬山さんは、眞鍋かをりさん、坂本美雨さん、ファンタジスタさくらださん、福田萌さん、草野絵美さんをメンバーとした児童虐待問題に声を上げる著名人によるチーム「#こどものいのちはこどものもの」でも活動している。

「SOSを出すにも、まだ状況を話せない子どもには難しいことですし、社会的に力の弱い存在が虐待されているとなった時に、子どもの力ではどうにもできない。だから、大人がやるしかない。虐待のニュースに心を痛めているだけではなく、大人の私が立ち上がろうと思いました。調べていくと、虐待する親を処罰したい感情だけではどうにもならず、国に働きかけることや、家庭の経済状態、地域からの孤立など複合的な要素が絡み合った結果でもあるので、虐待が起こらない社会にするために、微々たる力ですが動いています」

現在はこうした社会活動も行うかたわら、もともとゲームや漫画などの2次元コンテンツが好きなこともあって、「自分の時間がある時はゲームをしていますね。ソーシャルゲーム『魔法使いの約束』をしたり、この間は『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEスターリッシュツアーズ』の応援上映へ行ったり。家でフィットネス用のバイクを漕ぎながら、『桃鉄ワールド(桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!)』をやったり」と、息抜きも忘れない。
桃鉄は子どもと一緒にやるのだそうで、「お金と地理の勉強にもなる」とにこやかに話す犬山さん。

話を聞いていると、毎日をすこやかに過ごしているようだが「もちろん、しんどい時もあります。でも、子育ては本当に楽しいですね」と笑顔を見せた。

photo_yoshimi text_Amiri Kawamura

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