「鎌倉とわたし2」 後編 「時代に合わせて進化することが大事」。鎌倉の名店〈イワタコーヒー店〉、人気メニューの裏側とは?
銅板で丁寧に焼くホットケーキや美しい庭など、70年にもわたり人々に愛され続ける名店の3代目オーナー、岩田亜里紗さん。自然体の笑顔で店を切り盛りする姿からは一見わからない、深い思いを伺いました。前編はこちら。
幼い頃からの居場所だったお店、またその象徴だった、祖母の存在。脳裏をよぎる思い出の数々が、亜里紗さんを店の再建へと立ち向かわせた。
まず最初に徹底したのは、節約。庭の手入れや、花の入れ替えも自分たちで行った。そうして効率化を図る中、折しもパンケーキブームが訪れ、銅板で焼いた分厚い名物のホットケーキが爆発的な人気を呼んだのが、追い風となった。
そして少しずつ貯めたお金を、今度は還元すべく、店の改装費にあてた。メニューにおいても「変えていないふりをして、実はすごく変えてきた」という。たとえば「プリンアラモード」は値段はそのまま、フルーツをふんだんに盛り、プリンのサイズを大きくした。「フルーツサンド」など新メニューも開発。これは亜里紗さんが小さい頃ランチに持たせてもらった、まかないからの着想だという。「ホットケーキも、より丁寧に焼いていますし、前よりもいいものが提供できている自信があります」。
お店を良くしていくと同時に「良い中小企業でありたいという気持ちが、自分の中では一貫して強いです」と亜里紗さん。従業員の労務管理や福利厚生など、経営者の視点での積極的な取り組みが店に活気を取り戻す。「こういう話はともすれば生々しく感じるのですが」と亜里紗さんは控えるものの、すべての根底に横たわる思いは「お店を続けていくため」。
「これから先10年、20年と長く生き残っていくためには『ここなら間違いない』と安心感を与える存在であること。同時に、時代に合わせて進化することが大事だと思っています」。
鎌倉に〈イワタコーヒー店〉あり。その遺産を守り続けるため、どん底の状態から立て直すこと12年。凛々しく前を向き、ひたむきに走り続けてきた。
「私、多分この店の苦難を知らずに、守られて生きてきたんですね。今度は自分が守る番。昔はわからなかった叔父の苦悩も、こんな感じだったのかな?と、ようやく今、理解できる気がしています」。
■前編はこちら。
〈イワタコーヒー店〉
■0467-22-2689
■神奈川県鎌倉市小町1-5-7
■10:00~17:30LO
■火、第2水休
■87席/分煙(2019年4月3日より全面禁煙に)
(Hanako1158号掲載:photo : Akira Yamaguchi text : Mitsuharu Yamamura)