「自分の気持ちより、結果が大切だった」アイドル時代、解散、家族のこと|古川未鈴さんと漫画談義・前編



ゲスト・古川未鈴
香川県生まれ。2008年に「でんぱ組.inc」の前身グループ「でんぱ組」として活動をはじめその後の「でんぱ組.inc」ではセンターを務める。2019年に結婚、2021年に出産のため産休に入り、翌年に活動復帰。2025年1月5日に、でんぱ組.incがエンディングを迎えて16年の活動の幕を閉じる。現在は、ソロで活動中。子育てをしながらイベントや配信などに出演している。
Instagram: @furukawamirin

2016年にテレビ朝日に入社。アイドル・アニメ・漫画好き。何かに一生懸命で、表現したいことがあるのにまだ光が届いていない女の子にスポットライトを当てたいとずっと思っている。やりがいは、一生会うこともないかもしれない、どこかにいる誰かの1日の数分でも寄り添えるような番組を作ること。現在は『あのちゃんねる』『サクラミーツ』『ホリケンのみんなともだち』などを担当する。

テレビで初めて、本当の自分を見せることができた。

『秋葉原ディアステージ』は私の原点ですね。元々ここでアルバイトをしていたので週5〜6で通っていたけれど、最近はなかなか訪れることもなくて。でも、秋葉原駅の改札を出た瞬間に「ここがホームだな」って心から思うから、今回この場所でお話できるなんて嬉しいです。

私も嬉しいです。それこそ私自身がアイドル好きで「でんぱ組.inc」さんのことも昔から拝見させていただいていました。

ありがとうございます! 私ずっと、テリハさんにはお礼を言わないと、と思っていたんですよ。以前、テレビ朝日で、ママでありアイドルである姿をテリハさんが担当された番組で密着していただいて。今までは密着があっても事実を湾曲されて放送されることが多かったから、私の生活に変な色を付けず、起承転結も求めず、自然な形で放送してくださったのが嬉しかったんです。本来の私とお茶の間がその番組のおかげで繋がれたような気がして、とても感動しました。

私はそういった密着をするときに「ありのままで伝えたい」と思いながら制作しているのですが、やっぱり一番気になるのはご本人がどう思うか、っていうところなんです。反響も良く、ご本人にも納得していただけるVTRを作るのは結構難しいというか、奇跡に近いものでもある。なので、放送当時に未鈴さんの反応を拝見して私もすごく嬉しかったです。

「でんぱ組.inc」がエンディングを迎えるタイミングも捉えてくださってありがとうございました。

密着中に「でんぱ組.inc」さんがエンディングを迎えることを教えていただいて。ご本人の仕事に対する思いをよりきちんと伝えるためにも、世の中への発表のタイミングは外せないと思って、発表をした4月20日にも追加で密着させていただいて、放送日も当初の予定からずらしたんです。

VTRの最後、テロップで「この先の未鈴さんの人生がよくなりますように」というメッセージをテリハさんが伝えてくれたんですよね。胸がいっぱいになりました。テレビ業界は怖いと思っていたんですけど、こんなにも温かく優しい一面もあることを知りました。自分が出演した番組は基本見返さないんですけど(笑)、このときの密着VTRは何度でも見返したいし、なんなら家族や友達にも「これが今の私です」と自信を持ってお届けできる。密着現場には別の方がいらっしゃったので、今日、テリハさんに直接お会いできるのをすごく楽しみにしてたんですよ!

作者: 大雪師走
出版社: 偕成社、白泉社
発表期間: 1990〜2017年
巻数: 全8巻
作者自身が自宅で飼っているハムスター達と作者の日常を書いた4コマ漫画。。素朴な視点に立った飄々とした作風が人気を博し、ハムスターブームのきっかけにもなった。
小学生時代のバイブル。

未鈴さんが『ハムスターの研究レポート』を私におすすめしてくださった理由が気になります。

一つに、人生であまり漫画を読んでこなかったというのがあります。『HUNTER×HUNTER』や『魔法陣グルグル』など、おすすめする候補もいくつかあったんですけど“漫画”と言われてパッと思い浮かぶのは『ハムスターの研究レポート』だなと思って。ハムスターにまつわる4コマ漫画がひたすら淡々と描かれているこの漫画を子供の頃にずっと読んでいたんです。

実は私も結構この漫画の影響をモロに受けていて。学校の図書館なのか、もしくは病院なのか。同世代の方ならきっと、どこかでこの漫画を目にしてるんじゃないかな。未鈴さんの学校ではこの作品自体が流行っていたりしたんですか?

そんなことはなく、家で個人的に楽しんでました。ちなみに当時流行っていたのはジャンガリアンハムスターだったんですが、私はこの作品に登場するゴールデンハムスターをお迎えしましたね。自宅のハムにこの漫画を齧られたことも覚えています。

私も、この作品を読んで小学生の頃にハムスターを飼いましたよ!(笑)


この作品の好きなところは、ハムスターをほぼデフォルメせず、ノーマルに描いているところ。素直でシンプルなところがいいんですよね。

ハムスターが照れたり汗をかいたり、アニメ的な表現は全くないんですね。あくまで研究対象としてずっと描かれていて、客観的にハムスターを見ている感じが強い。だから作中のハムスターの感情は分からなくて、自分のままに動いている。人間を気にせず生きている姿はたしかに魅力的。

どっちかっていうと人間を振り回している感じでもありますよね。ずっと登場している飼い主の顔が描かれないところも好きです。
ハム研と自分との、共通点。


作者の大雪師走先生は、かなり客観的に自分とハムスターの関係を見ていますよね。

最初から最終巻まで一貫して客観視してます。後付けかもしれないんですけど、プロデューサーのもふくちゃん(福嶋麻衣子さん)によく「客観的に物事を見れるタイプだよね」と言われてきて。もしかしたら、ハム研のDNAが私の中に刻まれているかもしれない……(笑)アイドルをしていた頃には自分がどう思うかよりも、周りから見た結果を大切にしていましたね。

「頑張ったからOK」というより数字を大切にしたり?

どれだけリリースイベントを頑張ってCDを売る気があっても、結局売れなかったら頑張ってるとは言えないよね、と思っていて。「こういうアイドルになりたい!」っていう、アイドルとしての理想像が高かったから、その理想とどれだけ近づけるかどうかを客観的に見ることが好きでした。

勉強はドリル3周やったら60点から80点に上がる、みたいなことがあるけどアイドルはそうはいかないですもんね。SNSの投稿を頑張ったり、写真をたくさんアップしたとしても、その分の成果がついてくる世界ではないじゃないですか。正攻法みたいなものがない中で続けられていく人は本当にすごいな、と思います。正解がないものを模索してやっていくっていうのは苦しいものですよね。

そういう時代が「でんぱ組.inc」は長かったから「どれだけ自分を信じてあげるか」が大切になってくる。最近はアイドルプロデュースしてみない?なんてお声がけいただくこともあるんですけど、「でんぱ組.inc」のようなグループを作っても売れるかなんて分からないし、アイドルをやっていく怖さも知っているから、人様の人生の大切な時間を私が奪うわけにも行かない、という気持ちにはなります。

でも未鈴さんが作るアイドルグループを見たいっていう方もいると思うので、そういったお声がかかるのもすごく分かります。エンディングを迎えて、その後の目標みたいなのを立てて動いたりはされているんですか?


「でんぱ組.inc」の活動が終了したのが2025年の1月5日で、その翌日には16年間頑張ったご褒美でシャネルのバッグを買いに行くことにしていたんです。ただ、価格帯を知らなかったので、行く前にネットで調べたら気になっていたアイテムが118万円って表示されていて。そっと検索ページを消して、その足でアコギを買いに行きました。

アコギ?!(笑)

ギターは全く弾けないんですけど、新しいことをやろうって考えたときにアコギが思い浮かんで。16年間アイドルしかやってこなかったから、いわゆるロスの状態になるのかな?って思っていたけれど、これから新しい生活が始まるかも、というワクワクが大きくて、「でんぱ組.inc」ロスはなかったですね。最近では「人生を楽しむ」が一番大切かもしれない、と思っています。自分が楽しむことで人生を充実させられるような気がして、今はそこを意識して生きてみようかな、と考えている最中です。

それこそ、ご自分の時間が取りやすくなったりはしましたか?

そうですね。「でんぱ組.inc」をやっていた頃は、子育ても夫に任せる時間が長くて。今、子供が3歳なんですけど、この一瞬に過ぎてしまう時期を一緒に過ごさなかったことを後悔しないためにも、最近はなるべく家族で過ごすようにしています。

私、この作品を勧めていただいたときに、子育てをされているから作品とリンクする部分があるのかな?って勝手に思っていました。大雪師走先生のような目線で、お子さんを見ているのかな、というか。

たしかに。毎日ガンガン成長していて、1日見ないだけでも変化があるので、ある意味研究をしているような気分にはなります(笑)。
この日の対談場所『秋葉原ディアステージ』


住所:東京都千代田区外神田3-10-9
HP: https://dearstage.com/
※営業時間は都度変更のため、HPを要確認。
2007年にオープンしたライブ&バー。アイドルやシンガーを目指す「ディアガール」と呼ばれるキャストのライブを楽しみながら、お酒を飲んだりキャストと直接会話を楽しめる。