「初対面で『この人彼氏になるかも』と思えるのがすごい」|戸田真琴さんと漫画談義・後編

「初対面で『この人彼氏になるかも』と思えるのがすごい」|戸田真琴さんと漫画談義・後編
TVプロデューサー小山テリハの漫画交感 #8(ゲスト:戸田真琴さん)
「初対面で『この人彼氏になるかも』と思えるのがすごい」|戸田真琴さんと漫画談義・後編
LEARN 2025.05.02
「あのちゃんねる」「サクラミーツ」などを担当するテレビ朝日のプロデューサーの小山テリハさんは実は漫画好き。毎回ゲストをお迎えして、互いに好きな漫画を交換、感想を共有し合う連載です。ゲストは前回に続き、文筆家・映像作家の戸田真琴さん! 小山さんが戸田さんと語り合いたかったという、話題のホラーラブストーリー『青野くんに触りたいから死にたい』を取り上げます。
photo_Hikari Koki text_Nozomi Hasegagwa illustration_Serena Nagai
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ゲスト・戸田真琴

ゲスト・戸田真琴
文筆家・映像作家・元AV女優

「いちばんさみしい人の味方をする」を理念に活動中。著書に「あなたの孤独は美しい」(竹書房)、「人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても」(角川書店)、「そっちにいかないで」(太田出版)、監督作に映画「永遠が通り過ぎていく」がある。

Instagram: @toda_makoto

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小山テリハ
小山テリハ
株式会社テレビ朝日 番組プロデューサー・ディレクター

2016年にテレビ朝日に入社。アイドル・アニメ・漫画好き。何かに一生懸命で、表現したいことがあるのにまだ光が届いていない女の子にスポットライトを当てたいとずっと思っている。やりがいは、一生会うこともないかもしれない、どこかにいる誰かの1日の数分でも寄り添えるような番組を作ること。現在は『あのちゃんねる』『サクラミーツ』『ホリケンのみんなともだち』などを担当する。

https://www.tv-asahi.co.jp/barabara/
X: @teriha_oym

小山テリハさんが戸田真琴さんと語りたい漫画
『青野くんに触りたいから死にたい』

作者: 椎名うみ
出版社: 講談社
発表期間: 2016年〜
巻数: 既刊12巻

付き合って2週間で幽霊になってしまった青野くんと、青野くんに触るためなら死んでもいい、と行動する女子高生の優里ちゃん。断絶した世界の二人による、純愛物語であり、ホラー作品。

別れ際に改札前から離れられないカップルを見ている気分

戸田真琴 推し漫画談義 レストー夫人 小山テリハ 喫茶 閃光
小山テリハ

『青野くんに触りたいから死にたい』は純愛でもあり、ホラーでもある。まこりんは7巻の帯コメントを書かれているんですよね。本来は読んでいない作品をおすすめし合う企画なのですが、今回はこの作品の話をまこりんとしたいと思って選びました。

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戸田真琴

表現が秀逸で、ずっと面白いですよね。黒沢清の映画だっけこれ?と思うほどのカット割りで迫ってくることがあって、たまらない。本当にちゃんと怖いっていう。

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小山テリハ

グロいというよりも不気味。身に迫る恐怖を感じます。 ホラーの表現って不自然な黒塗りや文字の質感など、どこか違和感を感じさせることが必要だと思うんですけど、この作品はその魅せ方をすごく研究していることが伝わってきます。あくまで物語のベースは純愛。しかもコミカルなやり取りが多いから、そこで気を抜いて読んでいると「あっ、この作品ホラーだったわ」って突然思わされる感じがある。その計算され抜かれている感じが凄すぎます。

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戸田真琴

青野くんを追って優里ちゃんが死のうとする場面からも分かりますが、2人はそこまで“生”に執着がないんですよね。どんな道を辿ってきてそうなったのか、ということが巻を追うごとにどんどん描かれていくのですが、それは彼女たちの恋愛観や性的な感覚みたいなところにも繋がっている。そして驚くことに、優里と青野くんって性癖が合致しすぎてるんですよ。興奮する瞬間があまりにもぴったりだし、生と死の中に“性”が深く関わっている。それがこの作品のエンタメ性みたいなものを出しているとは思います。

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小山テリハ

この作品ではなんで優里ちゃんが青野くんのことを好きになったのか、どうして青野くんはほとんど話したことのない優里ちゃんの告白にOKしたのか、全然描かれていないじゃないですか。でも幼少期まで遡ると、二人が運命的な出会いを果たしているのが分かってくるんですよね。

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戸田真琴

そうそう。これまでの生き方と性的嗜好が地続きになっているからこそ、お互いのこともよく知らないのに、二人の相性ががっちりとハマるのだと読んでいて気付きました。作者の椎名うみ先生は二人の人生を丸ごと描き切ろうとしてますよね、きっと。

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そもそも初めて男の子と喋って「私、彼氏ができちゃうのかも」と思うのもおかしいし、その相手と本当に付き合えちゃうだなんて面白すぎますよね。最初から画力(えぢから)がすごいし、そこから告白して付き合うまであっという間なんですけど、その次のページをめくったら「青野くんは亡くなりました」と、突然悲しい展開になるのもすごい。

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しかもその後は、青野くんに会えない悲しみでリストカットしようとした優里ちゃんの元に、幽霊になった青野くんが登場して自殺を止めることで物語がさらに展開してくっていう。

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小山テリハ

本人たちはいたって真面目なんですけど、愛ゆえの行動が面白く見えることってあるじゃないですか。例えば、別れ際に改札前でずっと手を握っているカップルも、側から見ると面白い、みたいな。青野くんが乗り移った枕に抱きついて「好きな人と抱き合ったの初めて!」と自分の匂いを嗅ぎながら興奮している優里ちゃんはまさにそれ。とはいえなんだか共感もできてしまうんですよね。ともかく最初からその勢いのまま物語が進んでいくので、一気に引き込まれてしまいました。

優しい人ほど知っている、人を傷付ける方法。

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小山テリハ

私はあまりホラーが得意じゃないと思っていたんですけどこの作品は大好き。ホラーを楽しむのとは別で、優里ちゃんをずっと見ちゃう。彼女は愛を絶対なものだと信じているのですが、その姿にどうしても憧れてしまうんです。愛に向かってここまでまっすぐに走れる人ってなかなかいないですよ。

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戸田真琴

はい!私は青野くんがめちゃくちゃ好きです。すべての漫画の男の子の中で1番です。

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小山テリハ

エー!(笑)

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戸田真琴

青野くんを恋愛対象として読んでいる人って、あまりいなさそうですよね(笑)。1巻で優里ちゃんの「青野くんは優しい人だと思う」という発言に対して「優しい人ほど人を傷付ける方法をたくさん知ってるんだよ」と返していて好きになりました。私は“どうしたら人が傷つくか分かっているから優しくしていて、それを分かっている自分はいい人じゃないと思っている人”が好きなんだと思います。

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小山テリハ

まこりんと同じ目線で青野くんを見ている人はなかなかいなさそう。そもそも青野くんみたいな男の子が登場する作品ってあまりないですよね。

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戸田真琴

幼少期の経験によって立ち回りを覚えてしまった、という部分に関しては『スキップとローファー』の志摩くんと近いかもしれないです。でも青野くんは志摩くんと違って、立ち回りを覚えたとしてもどうにもならない状況になってしまったという……。ただ好きなだけじゃなくて、相手の機嫌を損ねないように行動して結果的に自分自身の心を失いかけている青野くんに対して、自己投影もしてしまっているかもしれません。

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小山テリハ

なるほど、それもあって青野くんに惹かれてしまうんですね。

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戸田真琴

青野くんって自分の感情に対してひねくれてるから、優里ちゃんに惹かれている藤本くんを見て「2人が付き合った方が幸せじゃん」みたいなことは言っちゃうんですよ。とはいえそこで詰められると、優里ちゃんが藤本くんのことを好きになったら嫌だっていうみたいな感情が登場する。その瞬間は特に儚いです。

性的な感情や接触は“好き”の延長に。

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戸田真琴

物語の途中に、子供の頃の青野くんが登場して、優里に話しかける場面があるんです。そこではものすごいわがままを言うんですよ。「僕、これができるよ。じゃあ好き?」から始まって、「僕が今、何考えているか分かる?」「僕が考えていること、言わなくても全部分かってくれないとダメ」と、子供の頃に言っているはずだったわがままがどんどん出てくる。そんな青野くんの発言を聞いたうえで、優里は「人と比べてこっちの方が優れているから好きなんじゃなくて、ただあなたが好みなの」という言い方をするんです。“好き”という気持ちが理屈ではないところに存在していて、それを認めるべきだっていうことなんですけど、この話は『レストー夫人』にも共有するところがあるのが個人的に熱くなるポイント。こんなやりとりを経て二人は「私たち会えてよかったよね」って感情を共有するんですけど、この作品は幼少期に子供でいられなかった子供たちの話でもあり、これまで傷付いてきた経験や本当はこうしたかった、みたいなわがままな気持ちを二人が寄り添って見つけ直していく愛の物語なんだ、と思いました。

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小山テリハ

性的な感情とか接触も、“好き”の延長にあるというのが分かるから、すごくいいなと思いました。作中で「エッチ」っていう言葉が出てくるんですけど、それも“好き”のうえで成り立っているものな気がする。優里ちゃんの考えに100%共感できるわけではないですけど、そういう感情を持っていてもいいよね、って肯定されている気分になれます。

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戸田真琴

セリフとシーンがここまで的確に作られている作品は、今これ以外なかなかないんじゃないかな。人と関わることってどういうことなのか、をすごく丁寧に描いていますよね。

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小山テリハ

ね!全員読んで欲しい、って思っちゃう。

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戸田真琴

私は自分ごととして読んでいるところが大きいのですが、ホラーとして、純愛として、みたいな、もっとライトに読むこともできる。いろんな楽しみ方ができる作品ですよね。

小山テリハさんから戸田真琴さんへのメッセージカード

この日の対談場所『喫茶 閃光』

間借り喫茶として2022年から営業を始め、2024年11月より西荻窪にて実店舗をオープン。
日替わりケーキやオリジナルのツイングラスで提供するツインソーダをはじめ、カルピス・バター・トーストといった軽食もあり。不定期でライブイベントも開催している。写真はアイスクリームのせプリン850円。
喫茶 閃光(きっさ せんこう)
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住所:東京都杉並区西荻南3-18-3 2階
Instagram: @senkou_kissa
X: @senkou_kissa

※利用方法や営業時間は都度変更のため、SNSを要確認。

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