「マジつまんなかった!」物語性よりそんな素直な感想の方が尊いと思う|戸田真琴さんと漫画談義・前編



ゲスト・戸田真琴
「いちばんさみしい人の味方をする」を理念に活動中。著書に『あなたの孤独は美しい』(竹書房)、『人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても』(角川書店)、『そっちにいかないで』(太田出版)、監督作に映画『永遠が通り過ぎていく』がある。
Instagram: @toda_makoto

2016年にテレビ朝日に入社。アイドル・アニメ・漫画好き。何かに一生懸命で、表現したいことがあるのにまだ光が届いていない女の子にスポットライトを当てたいとずっと思っている。やりがいは、一生会うこともないかもしれない、どこかにいる誰かの1日の数分でも寄り添えるような番組を作ること。現在は『あのちゃんねる』『サクラミーツ』『ホリケンのみんなともだち』などを担当する。

6年前に出会って以来ずっと、夜空に見える星のような存在。

最初の出会いはテレビのお仕事でしたよね?

そうそう、出川哲朗さんがMCを務める『出川とWHYガール』という特番を担当した際に出演していただいたのがきっかけです。

私が活動を始めてすぐの頃だったので、テリハさんのアンテナの鋭さには驚きました。

おじさんには理解し難い趣味などを持つ一般女性を紹介する番組だったのですが、まこりん(戸田真琴さん)がとっても面白くて。出川さんはいまだに「インパクトのある面白い子だったよね」とまこりんの話をされてますよ。

嬉しい!

その特番ではまこりんの握手会に密着させていただいて。想像以上に人間味溢れる方で、ぐっと惹き込まれてしまいました。それ以来ファンでもあり、戦友でもあるような気がしていているんです。頻繁に連絡し合ったりご飯へ行ったり、ということはしていないのですが、お互いにお互いの活躍を見守っているというか。“夜空に見える星”のような感じで、いてくれる存在だと思っています。

こちらこそ、テリハさんの活躍には勇気をいただいています。テリハさんの担当番組は見させていただいているし「TVer」のランキングに入ると嬉しくなりますね。不思議と繋がっている感覚があるので、漫画の好みや読んでいるものは結構被っているような気がして、今日おすすめする漫画はかなり悩んでしまいました。その中でも、まだ読んでいないのでは?と思うものを選んできましたよ!

作者: 三島芳治
出版社: 集英社
発表期間: 2014年
巻数: 全1巻
その学校では、毎年二年生が「レストー夫人」という演劇をする。しかも7つのクラスで同じ劇を違う台本にして、7種類の「レストー夫人」を上演するのだ。ヒロイン役のエキセントリックな少女しのを中心に、舞台の準備が着々と進んでいく。
物語の主人公のつもりで生きるということ。

『レストー夫人』は、毎年2年生が演劇「レストー夫人」を上演する学校を舞台に、生徒たちの物語を描いた作品。『週刊ヤングジャンプ』の増刊『アオハル』で第1話を出して「続きはオンラインで」という形で連載されたのですが、まったく同じ構成で私が小説を書いていることもあって興味が湧いたんですよね。

まこりんが勧めてくださるまでこの作品のことを知りませんでした。読了後には漫画というよりも、小説を読んだり映画を鑑賞した後のような余韻がありましたね。難しい作品ではありますが、すごくまこりんっぽい作品でもある。ヒロイン役のしのさんとまこりんは、どことなく似ているような気がしますよ。

「褒めすぎですよ〜!」と思いつつも、しのさんの存在の仕方には共感するところがあるんです。逆に言うと、共感できる人が少ない作品だとは思ったんですよね。

私は共感できませんでしたね。しのさんは少し浮世離れしているというか、儚くて手の届かなくて、きっと同じ学校にいたら憧れるような存在。作中、彼女が母親の教えで「物語の中を生きていた」と言っていましたが、そこがまこりんとリンクしました。以前、“イマジナリーフレンド”ほどではないけれど、思ったことをノートに書いているというお話をされていましたよね?

口にはしないけれど、心の内で思ったことをノートに書いていて、たしかにそのノートが自分の一番の友達のような存在でした。

しのさんの育ち方は結構特殊に映るのですが、まこりんの過去のインタビューと照らし合わせると彼女の生き方も理解できるし、プリンセスになりきる子供のように、大人になってからも映画の主人公に自分を投影しちゃうことはあるな、と思いました。

「人生は一本の映画なんだ」という言葉がありますよね。実際に映画の主人公になりきってみると、すごく悲しいことが起きたときでも“今は涙を流すシーンだ”と思うと救われたり、今後の糧になることもあると思うんです。しかも、その振る舞いをすることで自分自身を魅力的にできるタイプの方もいる。

自分が物語の中にいる、と思うことで自分自身のことを客観的に見ることができそうですよね。

そうですね。私は人生の大半をそんな考え方で生きてきたのですが、「この映画の主人公だったらどう振る舞うんだろう」という俯瞰を持っていると、その場で感じる「悲しい」「苦しい」「好き」「嫌い」みたいな感情とは別のところで行動すべきものが見えてくるんです。それはすごくいいことでもあると思うのですが、自分自身がどこにあるかは見えない。しのさんもきっとそうだと思います。ちなみに私自身はここから1段階上を行くブームが来てるんですよね。「物語性の破壊」って言ってるんですけど。

なんですかそれ、気になります!
漫画だからこそできる会話表現も。


「私が私でいる限り、私の人生にはこれしかないのだ」というか。これまでは目の前で起こることに対して「これを反対側から見たらどうだろう」といったことを考え続けていたんです。でも最近は前後の出来事は関係なく「今、私が見ているものや感じていること」が一番重要だと思うようにしています。『レストー夫人』は、舞台が地続きでありながらも短編集として楽しめる作品で、喋らない女の子とそれを吹き替えする子の話も好き。「彼女らの自我がどこにあるのか」という疑問を持たせつつも、最終的には二人の関係性の中にひとつの自我が存在することが分かる。終わり方まで美しいんですよ。

それを漫画で表現しているのがすごいですよね。最初は吹き替えが二重括弧で本人の話が普通の括弧。でも途中から急にどちらでもない線になるんです。この手法には震えました。きっと音声だとできない、漫画だからこそできる表現ですよね。


そうですね。物語性を最重要視して生きるのは一旦やめてみよう、と行動する自分自身に通じる部分が、この作品にはあるような気がしています。

でも最近は、自分の感想を優先することが難しくなってきていますよね。例えば、SNSを眺めているだけでも映画やドラマのレビューがすぐに目に入ってしまうことがある。本来であれば自分の正直な感想が一番にあってほしいのに、他人のレビューや感想を先に見ると映画を観ている間から自分の感想もそっちに寄ってしまいません?SNSの中では特にその現象が起きやすいし、作品を見る眼差しとしてもよくない気がします。

世間的には正直な感想よりも「ここまで読み解けてないと恥ずかしい」とか「普通わかるよね」みたいなところを理解していることが、重要なことだと思われている節もありますよね。私は、自分なりの尺度で真剣に見た結果「マジつまんなかった!」みたいな、素直な感想の方が尊いと思うんだけどなあ。

私もそう思います! それこそが作品鑑賞なんじゃないかな。

先ほど私が昔書いていたノートの話をしてくださいましたが、その当時は書いたことに対して自分が返事をする、といった書き方をしていたんですよ。それは、当時は私が感じたことを誰かに話しても伝わらなかったり「そんなこと思うなんて変だよ」って言われるような環境にいたからなんですけど、もしそのときに伝えることを頑張りすぎていたら、自分の思っていたことの形がどんどんと変わってしまっていたような気もするんです。映画の感想もそうですけど、自分の思っていることを人に伝えない幸福もあると私は思っています。
この日の対談場所『喫茶 閃光』


住所:東京都杉並区西荻南3-18-3 2階
Instagram: @senkou_kissa
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※利用方法や営業時間は都度変更のため、SNSを要確認。
間借り喫茶として2022年から営業を始め、2024年11月より西荻窪にて実店舗をオープン。日替わりケーキやオリジナルのツイングラスで提供するツインソーダをはじめ、カルピス・バター・トーストといった軽食もあり。不定期でライブイベントも開催している。