「私たちは、私たちを救える」この漫画とでんぱ組.incが教えてくれたこと|古川未鈴さんと漫画談義・後編



ゲスト・古川未鈴
香川県生まれ。2008年に「でんぱ組.inc」の前身グループ「でんぱ組」として活動をはじめその後の「でんぱ組.inc」ではセンターを務める。2019年に結婚、2021年に出産のため産休に入り、翌年に活動復帰。2025年1月5日に、でんぱ組.incがエンディングを迎えて16年の活動の幕を閉じる。現在は、ソロで活動中。子育てをしながらイベントや配信などに出演している。
Instagram: @furukawamirin

2016年にテレビ朝日に入社。アイドル・アニメ・漫画好き。何かに一生懸命で、表現したいことがあるのにまだ光が届いていない女の子にスポットライトを当てたいとずっと思っている。やりがいは、一生会うこともないかもしれない、どこかにいる誰かの1日の数分でも寄り添えるような番組を作ること。現在は『あのちゃんねる』『サクラミーツ』『ホリケンのみんなともだち』などを担当する。

作者: 鳥飼 茜
出版社: 小学館
発表期間: 2018年
巻数: 全1巻
道を歩くだけで知らない男性から口笛を吹かれる、“フツー”になりたくてセックスとお札を交換する、恋をする……。様々な感情に溺れそうな10代の女の子たちを描いた、性と恋にまつわるオムニバス作品。
学生時代は、はみ出しものになりたくなかった。

初めて読んだとき、歌を聴いているかのような作品だなと思いました。2、3回読んでわかってきた。MVを見ているかのような、世界観をまず知るところから入りましたね。

疾走感があるし、コマの使い方が特徴的ですよね。MVっぽく見える、というのも分かります。ビジュアルも大好きな作品なんです。


もしかしたら私が、学校が本当に嫌だった理由が詰まってるのかもな、ってちょっと思いました。友達を作らなければいけない、とか。流行りのアイテムを持たないといけない、とか。放課後にみんなと一緒にカラオケに行かない人は陰キャだ、みたいな。そういう文化が死ぬほど嫌だったんですよ。私、高校を中退してるんですけど、中学時代も「学校に行く意味ってあるんかな」と思っていたほど、友達付き合いなどにポジティブになれなかった。でもその理由って説明しにくくて。その説明できないものがここに詰まっているように見えたんです。

分かります。「フツー」に欲しいとか。「フツー」にやばいとか。その会話の中に“普通”って本当はないはずなのに、普通って言葉を使う感覚はたしかにあるな、と思いました。いじめられないために、はみ出ないために、なんとなくの8割の中にいなきゃみたいな、雰囲気もありますよね。


休み時間に一人でいると恥ずかしいし、グループに入ってないんだ、って思われるのも嫌だった。小学校時代に覇権を握るグループがいたんです。その中のリーダーの子に手紙を書いて「あなたたちのグループに入れてくれませんか?」って伝えたことがあったんですよ。「あぁ、いいよ」って入れてもらったんですけど、そんなやりとりで入ったものだから結局仲良くなれることはなくて。

すごい行動力ですね……!

おそらくはみ出し側になりたくない、っていう思いが強かったんだと思います。この作品を読んでその当時のしんどかった記憶や嫌だな、と言う気持ちがフラッシュバックしました。作者の意図とは違うかもしれませんが、私が学校に抱く嫌な部分と、描かれているものがすごく似ていたのかもしれないです。

でんぱ組.incは、明るい未来を見せてくれる存在だった。

主に学生たちの日常を描いた作品だと思いますが、その中で若者たちは名前の付いてない苦しさとか、消化できない思いを抱いていて。とはいえそんなことは口に出さずに学校生活を送っているんですけど、最後に「本当に大丈夫なのか」を問われているじゃないですか。近年ようやく過去の苦しかった経験や嫌だったことを言えて、認めてもらえる社会になったと思うんです。すごくいいことだし、思い出したくない出来事を経験した人だって、その先に進める、と思わせてくれる。しかも作者の鳥飼茜さんのあとがきもあって「私たちは、私たちを救える」とメッセージを届けてくれているんですよね。

そういったあとがきがあるのは珍しいですよね。

私自身も誰にも言ってないけれど諦めたことや、この仕事をしているから出来なかったことが実際にあったので、救われた気持ちになりました。私は自分の周りに過去の私と同じような経験をしている子がもしいたら気付きたいですし、何かあったら声をあげていきたい、とこの作品を読んで改めて思いました。そして未鈴さんはアイドルで新しい価値観や生き方を提示されているからすごくかっこいいし、その背中を見て救われている方もたくさんいるな、と私は思っています。

ありがとうございます。会話の中で思い出したのですが、いじめられているときは笑っちゃうんですよね。その場で泣いたりとかは絶対にしなかった。ダメージを受けてないよ、って意味でやっていたのだと思うんですけど、今思えば全然大丈夫じゃなかったな、と思います。そんな経験をしてきたけれど、時を経て当時のことを笑って話せたり、歌にできたことは、よかったなと思います。

そういう意味でも「でんぱ組.inc」さんは時代を変えてくれた存在です。憧れのアイドルが色んな思いを抱えながらみんなの前でキラキラと輝いてくれることで「未来に不可能はない」と思わせてくれる。そんなアイドルの先頭を走っていらっしゃったなんて、本当にすごいです。

結成当時、メンバーの中にアイドルをやりたい子なんて私しかいなかったんですよ。自分の信念が強い子たちばかりで、本当の意味での個性だらけのグループでした。でも、武道館に立てたし、16年も続けることができた。先ほど、世の中が変わったとおっしゃっていたじゃないですか。私たちのやっていたことって誰にも見てもらえないとただの不幸自慢のようになってしまうんですけど、ありがたいことに自分の人生と重ねてくれる人がたくさんいたんです。中でもヒャダインさんが作ってくださった『W.W.D』という曲で、自分のマイナスな面を武器にできたのはすごく大きくて。「でんぱ組.inc」自体がマイナスからのスタートだったけど、1つの大きな剣をこの曲で持つことができましたね。

私のメンタルだったらきっと、未鈴さんのような動きはできない。そうやって16年間走り切って、その後も育児をしながら表舞台に立ってくださっているのがすごく嬉しいです。これからの活動も楽しみにしています。
小山テリハさんから古川未鈴さんへのメッセージカード

この日の対談場所『秋葉原ディアステージ』



住所:東京都千代田区外神田3-10-9
HP: https://dearstage.com/
※営業時間は都度変更のため、HPを要確認。
2007年にオープンしたライブ&バー。アイドルやシンガーを目指す「ディアガール」と呼ばれるキャストのライブを楽しみながら、お酒を飲んだりキャストと直接会話を楽しめる。