向田邦子に憧れて始めた水泳と、そのための水着。|前田エマの、日々のモノ選び。#13
30代という年齢は、“モノを選ぶ眼”が育ち養われてくる年齢ではないだろうか?流行りものやブランドものではなく、自分が心地いいモノを選びたい。生産の背景を知り好きになるモノだったり、多少値が張っても人生をかけて大切にしたいと思えるモノだったり…。そういった視点でモノを選ぶ前田エマさんが、ご自身の私物とともに「モノの選び方」について綴る連載です。第13回目は“水着”について。
大学を卒業してすぐの頃、水泳教室に通い始めたのだが、それは向田邦子のエッセイを読んだからだった。
彼女のエッセイ「手袋を買う」には、給料3ヶ月分の値段の水着を買うために、慎ましやかで意地っ張りな貧乏生活を送った日々のことが書いてある。
彼女が憧れた水着は、黒いとてもシンプルなもの。
その水着を着て写真に写る彼女は、健康的な色気あふれていて、非常に惹かれるものがあった。
「私も黒い水着を着てみたい」
そんな気持ちが、ぐっと胸の奥から湧き出てきて、私は海外の通販サイトで黒い水着を取り寄せ、そして水泳教室に入会した。
適当な泳ぎしかできなかった私は「いつかこの水着を着て、プールをスイスイと泳ぐのだ」と、心に決めた。
水泳教室には半年ほど通い、決して上手とは言い難いが、クロールまで(一応バタフライも習ったが…)泳げるようにはなった。
週に2回ほど、おばあちゃんおじいちゃんたちに混じりながら、一生懸命やった。
最初に買った黒い水着は、とても気に入っていたのだが、どういうわけか失くしてしまった。
次に購入した黒い水着は、どこかしっくりこなくて、手に取る回数が減ってしまっている。
ここ最近私は、市民センターのプールでよく泳いでいる。
以前はショッピングセンターで購入した4000円くらいのスポーツ水着を着ていた。
キャミソールのようなトップスと、短いレギンスのようなショーツがセットになっているものだ。
脱ぎ着は楽だし、泳ぐ際にもストレスはないのだが、どうにも気分は上がらなかった。
向田邦子に憧れ今までに購入した2着は、ビキニではない。
この水着、バカンスの際なんかにはいいのだが、泳ぐとなるといくつか難点がある。
肩紐が細すぎたり、胸元がV字なって広く開いていたり、シャレているからこそ、安定感がない。
胸が豊かな人であれば、胸元がカパカパしないのだろうが、私のように華奢で貧相な体型だと、気が気でない。
また、このタイプのデザインは、泳いでいるときに水着がお尻にどんどん食い込んできてしまって、それも嫌なのだ。
そんな私が現時点で妥当だと思って愛用しているのが、〈H&M〉で購入したこの黒いビキニだ。
肩紐は細めだが、胸元がきちんと隠れるので、安心感がある。
周りの人に不快感を与えない健康的なデザインも、気に入っている。
値段は2000円しなかった。安すぎて心配な気持ちもあるのだが、今のところ大丈夫。
プールが終わった後、着替えるのが面倒な私は、この上にゆるいワンピースや大きめTシャツを来て、家まで帰ることもある。
また、このビキニは夏に“見せるインナー”として着用してもいるので、非常に助かっている。
ただ、ここでひとつ皆さんに伝えなくてはいけないことがある。
今回の写真で着用しているショーツ、実は水着ではない。
私がピラティスの時に履いているレギンス(〈H&M〉で購入)なのだ。
写真で着用しているようなデザインのショーツの水着をずっと探しているのだが、まだ出会えておらず、私は例のショッピングセンターで購入した水着のショーツを履いて、市民センターで泳いでいるのだ。
〈H&M〉のビキニと、ショッピングセンターのショーツ。
このチグハグを早く卒業したく、今もまだずっと探し続けている。
最近はヨガやピラティス、ランニングのウエアに、水陸両用で使えるものが多く出ている。
この間購入したNERGYのパンツは履き心地もなかなか良く、日常的によく履いているのだが(この夏、いちばん出番が多いくらい)、水泳の時はもう少し短い丈だと便利だなと感じている。
健康的なデザインのビキニが、なぜこんなにも世の中に存在しないのか。
早くお気に入りを着て、スイスイと泳ぎたい!
1992年神奈川県生まれ。東京造形大学を卒業。オーストリア ウィーン芸術アカデミーの留学経験を持ち、在学中から、モデル、エッセイ、写真、ペインティング、ラジオパーソナリティなど幅広く活動。アート、映画、本にまつわるエッセイを雑誌やWEBで寄稿している。2022年、初の小説集『動物になる日』(ミシマ社)を上梓。6月20日に韓国カルチャーガイドブック『アニョハセヨ韓国』(三栄)を刊行。
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