連載〈HOME SWEET HOME〉 食のプロのセンスをインテリアから学ぶ。
CASE19 平林 愛

LEARN 2024.06.06

おいしいものを作る人、おいしい場所をプロデュースする人。
食に関わるプロフェッショナルのセンスを、プライベート空間のインテリアから学びます。

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三代のおもてなし精神を引き継ぐ、夢のある家。

居住空間はミニマムだけれど、広い庭とつながり、光があふれる。かつて最大9人で暮らした大きな実家を建て替え、小さな家族の周りに、大勢の人が集まる家に。

可動式のアイランドキッチン。家族が3人になってから、ここで食事をすることも多いという。窓の外には広い庭があり、室内にも至るところにグリーンを配している。
可動式のアイランドキッチン。家族が3人になってから、ここで食事をすることも多いという。窓の外には広い庭があり、室内にも至るところにグリーンを配している。

ダイニングキッチンとリビングはどちらも吹き抜けになっていて、明かり取りの窓がある。「朝の光がすごく気持ちいいんです」と、平林愛さん。キッチンは大きな窓を介して外の庭とつながり、「駐車場なら4、5台分」ある庭はウッドデッキ敷きと贅沢で、「5メートルの流しそうめんができるんですよ」とうれしそうだ。名付けて〝ポケットパーク〟。
「吹き抜けにしなければ2階の部屋を広く取れたし、庭を削れば家自体をもっと大きくできた。でも建築家の方に言われたんです。ただ大きいだけの家なんて夢がないですよ、って」

インスタでアクセスした理想の建築家との家作り。

随所にアーチのデザインがあり、シンプルなインテリアのアクセントに。写真は渡り廊下。
随所にアーチのデザインがあり、シンプルなインテリアのアクセントに。写真は渡り廊下。

夫と当時小学2年生だった娘と、自分の父親と4人で暮らす実家を建て替えたのは3年前。ダイニングキッチンを料理の教室など、仕事に活用することは決まっていたが、平林家に集うのは生徒さんばかりではない。娘の友達にパパ友、ママ友と幅広い。
「私は一番多いときで9人、三世代の大家族で育ちました。台所を預かる祖母の料理はいつも手が込んでいておいしかった。祖父の代からガソリンスタンドも経営していて、従業員にも手料理を振る舞っていたそうです。私たちが大きくなってからも来客は多く、行事のたびに親戚が集まり、食卓はいつもにぎやかでした」
 昔の家もそれだけ立派だったから、父は当初、建て替えに反対したという。けれど今や4人暮らしで、家族構成も生活スタイルも変わった。結婚を機に一度は出た実家に戻ったのは、父を一人にさせたくないという想いからだったため、話し合いを重ね、建て替えが決まったのだ。
 ゼロからの家作りはもちろん初めてのこと。大手のハウスメーカーの提案はしっくり来ず、建築家と建てた家が素敵でインスタグラムをフォローしていた人に思い切って「今のお住まいはどうですか」とDMを送った。すると「最高です。毎日新鮮で楽しい」と返信が。その家を建てたのが、〈acaa建築研究所〉の岸本和彦さんで、夫と娘と3人で事務所を訪ねた。するとまず出てきたのがポケットパークの提案。そして冒頭のアドバイスが続いた。広さより「楽しくて、夢のある家を」。その言葉に大きく舵を切り直し、結果、大満足の家が完成した。

粋な父の愛した味を、ゆっくり、自分のものに。

キッチンとパントリーとの間にもアーチの小窓。飾りのつもりが、物の受け渡しなどにも意外に便利なのだとか。
キッチンとパントリーとの間にもアーチの小窓。飾りのつもりが、物の受け渡しなどにも意外に便利なのだとか。
ダイニングの右側は畳の小上がり。キッズルームにも、飲み過ぎた大人の仮眠所にも。
ダイニングの右側は畳の小上がり。キッズルームにも、飲み過ぎた大人の仮眠所にも。

岸本さんの提案で、かつて家の一番奥にあったキッチンを、入口のある庭側に移した。大量に買い物をした際の搬入も、庭での食事の準備や片付けも格段に楽になったし、キッチンにいながら、食事をする家族やゲストの顔が見えて会話もできる。収納を兼ねた作業台は正方形で、可動式! イベントやワークショップのときは端に寄せれば、大勢でも床を広々と使える。シンクやガステーブルの裏側に設けたパントリーは、左右どちらからも出入りできる回遊式にしたのが大正解。棚板の端をデスクにし、窓際にミニオフィスを設けた。

パントリー。調理家電や消耗品を整理収納。
パントリー。調理家電や消耗品を整理収納。

  父の希望もちゃんと叶えた。ミニキッチン付き、麻雀卓とパーソナルチェアを備えた個室はリビングのすぐ隣に。「高級老人ホーム」と冗談を言いながら家族との時間も一人時間も、行き来はご自由に、という形だ。友人が来たときも、食卓には必ず父が加わり、共に暮らしを楽しむ家が完成した。
 その父が残念ながら病に倒れて亡くなってしまった。「今も寂しい」と話すが、おいしいもの好き、料理好き、人をもてなすのが好きな自分を育ててくれたのは祖母と父で、心から感謝している。味噌造りから蕎麦打ちまで楽しむ粋な趣味人だった父の味も受け継ぎ、自分の料理とおもてなしの幅を、この新しい家から広げたいと思っている。

2階は子供部屋と夫の書斎がシンメトリーに並び、渡り廊下を挟んで主寝室と多目的ルームがある。「1部屋は、自由に使える部屋を」というのも、父のアドバイス。
2階は子供部屋と夫の書斎がシンメトリーに並び、渡り廊下を挟んで主寝室と多目的ルームがある。「1部屋は、自由に使える部屋を」というのも、父のアドバイス。

友人たちが「旅館だ!」と喜ぶ朝ごはん。

朝ごはん

小学生の娘が和食好きなこともあり、朝食は和食。納豆、ぬか漬け、焼き魚に小鉢が数品。この日は夫の実家の長野から送られてきたコシアブラのナムルや若竹煮、牛のしぐれ煮、自家製のフキノトウ味噌という豪華版。食事に来て泊まっていった友人たちからは「旅館のよう」と大評判。

ESSENTIAL AI HIRABAYASHI

学び受け継いだ、大切な一生もの。


( TABLEWARE )
盛り付けの楽しさを学んだ器。
会社勤めをしながら「料理を仕事にしたい」と通い続けた料理教室で出会った三谷龍二さんの器。美しさに感動し、松本まで足を運んで求めたものも。

器


( SOBA TOOLS )
父が愛した、蕎麦打ちの道具。
家での宴会の締めは手打ち蕎麦で、父の名から「修蕎麦」と呼ばれゲストにも大好評だった。愛用した道具を生かすべく、蕎麦打ちを習い始める予定。

蕎麦打ちの道具


( NUKAZUKE )
大きな容器で漬けるぬか漬け。
ぬか漬けも父の管轄だった。4人家族には大きすぎるように思えるぬか床だが「きゅうりは縦に入れるんだ」という謎の教えを守り、味を継承中。

ぬか漬け

photo_Norio Kidera illustration_Yo Ueda text & edit_Kei Sasaki

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