勇気を出して寄席に行ってみよう! 落語ファンに聞く、落語の楽しみ方。【中級編〜応用編】 LEARN 2022.04.05

写真家の大森克己さんと小説家の木内昇さんは、ともに落語ファンとして知られる。あらたな落語の見せ方を写真集で提示した大森さんと、幕末や明治を舞台に数多くの作品を生み出す木内さん。自身の作品に落語のエッセンスを取り込むふたりに、その魅力を大いに語り合っていただいた。

【上級編】楽しみ方はそれぞれ?通にならなくたっていい!古典芸能と意気込まず、勉強ではない楽しみ方を。

木内:お話をするなかで大森さんとわたしで落語に対する目の付け所が全く違うことがわかりました。なので、人それぞれの見方や聴き方を発掘するところまでいければ、広がりがまた出るのかなと思いました。

大森:身も蓋もない言い方ですけど、あえて上級者にならなくてもいいのかも。以前、権太楼師匠が「たかが落語なんで」っておっしゃったんですよ。

木内:古典芸能以外でも地位が高まると、客側にも「こうすべきだ」ってプレッシャーがかかるけど、その前段階が一番面白いですからね。いまの漫画やゲームがそうであるように、明治時代には「小説なんか読んで」って言われていたわけで。

大森:伝統ある芸だから、大変な修業や困難の上に成り立つ深い世界ということはわかる。それでも、ぼくは封切りの映画をシネコンで観る感じとあんまり変わらなくて。通になってもいいし、ならなくてもいい。結局は、自分なりにどう楽しむか。その方法論を探すのが大事ですね。

【応用編】知っておきたい落語基礎知識

おふたりの対談で出てきた気になるキーワードをピックアップ。落語を聴き始めるのなら、まずはここをおさえておきたい。

〈新宿末廣亭〉は、都内にある定席のなかで唯一となる木造建築の寄席。いまも開業当時の面影を色濃く残す。「少しずつ落語の世界になじんでいって、いつかふらりと〈末廣亭〉に通えるようになったら最高ですね」(木内)
〈新宿末廣亭〉は、都内にある定席のなかで唯一となる木造建築の寄席。いまも開業当時の面影を色濃く残す。「少しずつ落語の世界になじんでいって、いつかふらりと〈末廣亭〉に通えるようになったら最高ですね」(木内)

1.寄席(定席)
都内には、〈新宿末廣亭〉〈上野鈴本演芸場〉〈浅草演芸ホール〉〈池袋演芸場〉という4つの寄席があり、これらを総じて定席(じょうせき)と呼ぶ。昼夜入れ替え制、通し営業、場の雰囲気もそれぞれに異なる。

2.枕
落語の基本構造は、枕、本編、オチ。枕では、本編への導入として現代ではわかりづらい予備知識を解説したり、一見関係なさそうな世間話が本題に繋がっていったりすることも。通になれば枕で演目がわかるようになるとか。

3.新作と古典
永く語り継がれてきた演目を「古典落語」、現代の落語家がイチから創作した演目は「新作落語」と呼ばれることが多い。ほかにも、広く知られた古典落語を改作することで噺に新たな息吹を吹き込む落語家もいる。

4.色物
寄席では落語以外にも、音曲や曲芸、紙切りやマジック、漫才など様々な演芸も披露される。そうした演芸を披露する人たちのことを「色物」と呼ぶ。落語以外にも、色物の芸を楽しめるのが寄席に行く魅力のひとつ。

Teachers

◆大森克己(おおもり・かつみ)/写真家。2020年、柳家権太楼が三遊亭圓朝による古典落語「心眼」を演じる一部始終を写し取った写真集『心眼』を上梓し、話題となった。

◆木内昇(きうち・のぼり)/小説家。編集者、ライターとして活躍した後、2004年に小説家デビュー。第144回直木賞受賞作『漂砂のうたう』には、初代・三遊亭圓朝も登場する。

(Hanako1206号掲載photo : MEGUMI illustration : Manako Kuroneko text : Mariko Uramoto, Satoru Kanai, Ami Murasakino edit : Kana Umehara)

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