スタイリッシュなお寺を回ろう。 【東京】隈研吾が手がけるお寺〈瑞聖寺〉/有名建築家が手がけるお寺を巡ってみよう。
歴史を重ねる本堂や現代建築家が設計した棟などの建築や、お守りやお札、絵馬などの授与品は、訪れる人を魅了する。デザインという側面から神社仏閣を訪ねてみれば、きっと新たな発見があるだろう。今回ご紹介するのは、隈研吾が手がけるお寺〈瑞聖寺(ずいしょうじ)〉を訪れました。その佇まいでも存在感を放つのが建築家によるお寺。お寺の歴史的背景を知り、参拝だけでなく建築も楽しみながら、心を鎮めておうちへ帰る。そんな一日が過ごせます。
重要文化財とモダン建築が融合したアートな空間。
東京・白金台にありながら、一歩足を踏み入れるだけで都心にいることを忘れてしまうような感覚になる瑞聖寺。寺院の周辺を見回せば高層マンションが立ち並んでいるのだが、境内は静まりかえり、すっと背筋が伸びる。国の重要文化財に指定されている大雄宝殿(本堂)が漂わせている、趣ある佇まいだけがそうさせているわけではない。
隈研吾が2018年に再建した、住職の居間や台所として使われる庫裡(くり)も、寺院の歴史を重んじて建てられただけあって、モダンさの中にも情緒を感じさせる。2020年に創建350年を迎えた瑞聖寺。その記念事業の一環として、築50年になり老朽化していた旧庫裡の改築を、現代美術に高い関心のある住職が依頼した。建築家が寺院の庫裡を再建するにあたって、どのように考えていたのか話を聞いてみると「寺院は都市に残された貴重な宝物です」と返ってきた。
まず彼が注目したのが、重要文化財に指定されている大雄宝殿から延びる軸線。隠元和尚によって、江戸時代に中国から伝えられた禅宗・黄おう檗ばくしゅう宗の東京の中心寺院ということを意識し、中国の寺院建築独特のデプス(奥行き)を強調した軸性の強い伽藍(がらん)配置を再現している。
さらに「宝物はその地域に開かれたものがあるべきだと考えて、中庭を大きな水盤としてデザインし、街に開きました」と話す通り、一辺が開かれたコの字型の回廊空間を作り上げ、その中央には水に浮いているようなプラットフォームを設けている。地域で行われるさまざまなイベントやパフォーマンスが、この場所で開かれることを期待しているのだそうだ。
隈建築の大きな特徴のひとつは、材料に木材を使うことが多いこと。瑞聖寺の庫裡もその特徴が大きく出ており、建築自体は、最小限の鉄骨による透明な構造体と、垂木(屋根板を支えるために棟から軒に渡した木)との組み合わせで支えられ、軽やかですっきりとした印象を与える。垂木と外壁の木製ルーバー(羽板を平行に複数枚並べたもの)が共鳴することで、幾何学的なリズムを奏でるように設計されている。
「アートが大好きな住職の力で宝物がアートに昇華しました」と隈が話すように、国の歴史的な建造物とモダン建築が融合したアートな空間に仕上がっている。その名の通り、国の宝物である大雄宝殿に参拝して心を鎮めてから、モダン建築を見つめ、触れることで日本の歴史を感じてみてはいかがだろうか。
Profile…隈研吾(くま・けんご)
1954年生まれ。東京大学特別教授・名誉教授。30を超える国々でプロジェクトが進行中。自然と技術と人間の新しい関係を切り開く建築を提案している。『点・線・面』、『ひとの住処』ほか著書多数。
〈瑞聖寺(ずいしょうじ)〉
祀られた布袋尊は無病息災などの御利益があり、山手七福神の一つにもなっている。2021年で創建351年を迎えた。
■東京都港区白金台3-2-19
■03-3443-5525
■9:00~16:30