編集Tが通う、心やすまるカフェ&喫茶店。「渋カフェ」その17 元麻雀店!? 早稲田の〈早苗〉で珈琲を飲みつつ人生を考える。
Hanakoスイーツ担当が、よく訪れるカフェ&喫茶店をご紹介しています。レトロなテーブル、懐かしくてかわいいメニュー。不思議と落ち着く「渋カフェ」。ウッディな世界でのんびりしたひとときを。前回の本郷〈万定〉はコチラ。連載トップはコチラ。17回目は早稲田の雀荘を改装した異色の店〈早苗〉。
今回の渋カフェは早稲田の〈早苗〉。早稲田大学の南門の前にあるお店です。と言いつつ、いつもご紹介しているカフェと少しだけ様子が違うことに気づくはず。二階の窓わきにあるマークは、麻雀のパイ? 中央にコーヒー豆が見える! そう、こちらは雀荘と喫茶が一つの建物に同居する店。かつて早稲田の名物店だった雀荘を改装した喫茶店なのです。
近くに寄ると「1Fcoffee/bar」「2F麻雀」の文字が。青いランプは麻雀の「テーブル空いてます」の意味。洒落てます。
コーヒーを淹れている方がマスターの宇田川正明さん。かつて勤めていた広告代理店を56歳で退職し、こちらのお店を開きました。ここは実は宇田川さんの生家。昭和32~33年頃にご両親が開いた雀荘〈早苗〉を数年前に引き継いで改装し、一階に喫茶店を開いたのだそう。梁やガラス窓は当時のままを活かし、自ら図面を引いてリノベーション。
「広告代理店でいろんな人と仕事した時間も楽しかったかったのですが、いまはお客さんと一人の人間として対峙している時間がおもしろいですね」。確かに、お店のどこにいてもマスターと会話ができてしまいそうな、ほどよい距離感。
かつては一階が雀荘で、二階が住居だったそう。
丁寧に一杯ずつハンドドリップで淹れていくコーヒーは、深煎りのオリジナルブレンド。500円。
ホットサンドも人気メニューです。中にボロニアソーセージとチーズが。550円。
表から2階に上がると麻雀卓が登場。ありそうでなかった麻雀と喫茶の複合。最近は学生の麻雀人口も減ってしまい、60~80代のグループで麻雀をしに来る方も多い。「『よっこいしょ』『そんなに麻雀パイが重いの?』なんてやり取りも聞こえてきたりして、みなさん楽しそうですよ」。
確かに、頭も使うし友達にも会えるし、シニアの方たちも、ますます元気になれそうです。
こちらは喫茶の2階。ここが宇田川さんの家だったかと思うと、ちょっと不思議な感じがしますが、そういう目で訪れてもおもしろいつくり。ちなみに左奥の席は押入れだった場所。
一階には以前の名残が多数。モザイクの擦りガラスは、いまはなかなか無いもの。
ハンガーフックは、かつて天井裏にあった送電線のパーツ。
コースターは奥様の手作り。こういう細やかさも、この店に漂っている居心地の良さにつながっている気がします。
時計は、大学時代の映画サークルのメンバーが、開店祝いにプレゼントしてくれたもの。宇田川さんがおもしろいのは、小学校から高校まで早稲田界隈で通い、大学も早稲田。なので学生時代に一度も定期を持ったことがないというところ!
今でも大学時代の第二外国語のクラスメートたちと仲が良かったり、小中高のクラスメートはもちろん、町内会の方たちとも子供時代からの長い付き合い。単に物理的な距離だけでなく、人との縁を大切にしているからこそ、こういう店ができるのだと気づかされます。
時間を問わず、お酒もオーダーできる大人の憩いの場でもあります。このオリジナルカクテルの名は「大三元」900円。麻雀をやらない人もその言葉ぐらいは聞いたことがある役(上がるときのパイの組み合わせ)の名前から。麻雀パイの三色をモチーフに。
飲むときは、生クリームとウォッカを足してシェイカーで仕上げ。こちらも美しい。
宇田川さんの最近の楽しみは、好きな落語の会を自らの店で開くこと。落語界のスターたちの名が、たくさんHPにありました。
ちなみに、このチラシや表の看板にある「早苗」の文字は、かつて近所の早稲田鶴巻町にあった宇田川さんのご親戚の喫茶〈早苗〉のロゴを継いだもの。
喫茶〈早苗〉は戦後すぐに人気を博した喫茶店。宇田川さんのおじさんにあたるマスターは常に新しもの好きで、ソニーの前身となるメーカーのテープレコーダーで音楽をかけたり、水冷式の空調で早くから冷房を取り入れたり、なかなかハイカラなお店だったようです。
「ここはカフェというよりは喫茶店かな」という宇田川さんの言葉は、そういう自身のルーツにもつながっているのかもしれません。
宇田川さんがかつて、大手広告代理店に就職面接に行ったときのこと。初めはよくある面接のやりとりだった会話が、面接官の「おばちゃん元気?」という一言から急に盛り上がり、最終的にその会社に就職することが出来たとのこと。
おばちゃんとは、9年前に他界した宇田川さんのお母さまのこと。雀荘〈早苗〉の名物ママで、学生たちといつも楽しく言葉を交わし、メンバーが足りないときは麻雀に参加したり、明るい人気者だったそうです。
話を伺っていると運のいい人のように感じる人もいるかもしれませんが、自分は、お母さまの人間味のある人柄や、その横でニコニコしていた宇田川少年の姿が目に浮かんで、偶然ではない気がしました。
人との縁を大事にする宇田川さんの性格も、お母さまから引き継がれた財産なのかも。
そんなエピソードも自然に聞けてしまうほど、〈早苗〉は居心地のいい店。「早苗、いまもやってるの?」なんて入ってくるOBもいれば、Wi-Fi電源完備の席で卒論を書く学生もいるし、最近は各国の留学生も多い。宇田川さんとの会話を楽しみに訪れる大人たちも多数。
このお店にいるだけでも、生き方について何か感じられることがあるはず。
〈早苗〉
■東京都新宿区戸塚町1-102
■ 03-6265-9454
■11:00~23:00(22:30LO)
■日休(大学が休みの時期は不定休)
■1階17席、2階10席、雀荘4卓
■1階喫煙、2階禁煙、雀荘は喫煙
■http://waseda-sanae.com/