花井悠希の朝パン日誌 vol.13 迫りくる年の瀬、束の間の逃避行・・・〈EPEE〉と〈八天堂〉
来ました、年末。12月も半ばに入ってくると、年末の忙しなさに追いかけられるような毎日になってきますね。その慌ただしさに、クリスマスも年末も全部ぜーんぶどうでもいいっ!ってなりかけている私がいます。でも、街中のドリーミンなクリスマスの飾り付けに、少なからず心弾む自分もいて…。よし、こんな時は、「助けて朝ごパンー!」。クリスマス気分を少しでも朝パンに高めてもらいましょう!
吉祥寺で見つけたクリスマス…〈EPEE〉の「カンパーニュ」「かぼちゃブルーチーズはちみつ」「フリュイ」。
カンパーニュのあの丸み、ズシリとした重さ、内側の柔らかさとそれを守るように包むバリッと焼かれた表面。カンパーニュは、まるで冬眠している動物のようで私にとっては冬のイメージ。ほかほかあったかいスープとも相性いいから寒くなると食べたくなる率高しです。
はぁぁぁ。肺いっぱい吸いこめば、惚れ惚れする香りに甘いため息が漏れてしまう。逞しい腹筋のような(注:特に筋肉フェチではない)、なんとも守ってくれそうな包容力を感じさせるキタノアカリと全粒粉の力強さよ。かっこいいぜ。
噛じった跡、生地同士が糸を引きながら離れていく姿から、この生地の粘度の高さを感じます。ねっちり。よく焼かれた表面の苦味と、ねちっとした内側からじわじわ広がる酸味が、これぞカンパーニュ。
バターは、板でのせるのがオススメ。少し温めたカンパーニュに、縁が少し溶けつつもまだ冷たさもあるバターのひやあつ感がよく合います。今の時期なら真っ赤なイチゴやベリーのジャムを添えるのもいいですね。
チーズにはちみつなどの濃厚な味も寒くなってくると欲しくなります。かぼちゃが好き。ブルーチーズが好き。はちみつが好き。ブルーチーズにはちみつの組み合わせはもっと好き。そんな私が<EPEE>のシックな黒い扉を開けて、まず目に飛び込んで来たのがこの子でした。
かぼちゃの甘みが届くや否や、追い越せ追い抜けとばかりに駆け込んでくるブルーチーズ。それをまぁまぁゆっくり行きましょうや、となだめるはちみつさん。そんな三角関係(!?)が浮かんで、ふふって微笑みが漏れてしまいました。
血気盛んなブルーチーズさんは、ガツンとチーズの旨みとコクを、ねっとりと舌に絡みつきながら訴えてきます。掴んだら離さないぞ!的な。でもはちみつがまったりとしたテンポでフォローにまわり、かぼちゃが穏やかに見守って……うーん、いい関係♪ブルーチーズ好きなあなたの挑戦、待ってます♡(←誰)
一目惚れしたこちら。クリスマスですねぇって思わず店員さんに話しかけてしまいました。シュトーレンのようにふんだんに果物が詰まっています。くるみ・マカダミア・ピスタチオ、レーズン・オレンジ・アップル・パイン・白桃・チェリー、計9種類もこの小さな中に入っているんですって。偉いなぁ(誰目線?)。
薄くスライスして、カフェオレと共に。外側と内側の二層が見た目にも味にもくっきり分かれていて面白い。外側はかすかに塩気のある、ソフトクッキーのような食感でさっぱり。対する内側はねーっとりと、香りと味わいが芳醇で実に華やか。生地とフルーツから滲み出たエキスとが半々なんじゃないかと思うほど、しとしとと水分保持率が高くて、心なしか体感温度が外側より2度くらい高い。(※私調べ)
果物たちの間から顔を出すマカデミアナッツは驚くほどホクホクです。ナッツの食感の違いも楽しくて、舌を器用に使って、1つ1つ果物やナッツを洗いざらい見つけたくなります。そして、ピールの苦味が鋭利じゃないのも好ポイント。甘さの中に見え隠れするくらいの苦味で口内の調和を乱さないあたりが、絶妙なバランス感です。夜にワイン片手で、とかも合いそうな色気あるパンでした。
食パンもとろける!?・・・〈八天堂〉「とろける食パン」。
八天堂といえば「くりーむパン」。ですが、先日「とろける食パン」というものに出会いました。くりーむパンの「とろける」は想像に容易いけど、食パンの「とろける」を八天堂さんがどう作ったのか興味津々です。
いざ実食!
断面を見るとデニッシュ生地のように渦を巻いています。そのままで食べても優しい甘みを感じて美味しいですが、ちょっと質感がぎゅっとしていたので、トーストしてみました!
ほほーう。
お口に入れた途端にシュクシュクシュクと崩れ離れる生地。軽やかに、快く解け、その印象のままに溶けていきます。通り抜ける風のごとく、ぼーっとしていたら掴み損ねちゃうほどリズムよく走り抜けます。デニッシュのトゲトゲした生地感や、しっかり甘いテイストを想像して少し身構えていた私は、その柔らかな口当たりと穏やかな甘みに少なからず驚きました。デニッシュというよりは、クロワッサンのようなサクサク感とバターのリッチな味わいが、食パンの柔らかさと出会った、という感じでしょうか。このエアリーで儚い質感が「とろける」なのかしら?それとも、食べた人の気持ちが「とろける」なのか…?