「伊太利亜 ミラノ村からBuongiorno!」第13回 今年で71年!イタリア最高峰の歌の祭典「サンレモ音楽祭」【イタリアン・ポップス】

LEARN 2021.05.08

元ミラネーゼによる『伊太利亜通信』。国をまたぐことが遠い日常となっているいま、目下の楽しみはシンプル&素材勝負なイタリアの食を楽しむこと。そして、大好きなイタリアン・ポップスに浸ること。日本ではまだまだニッチな分野ですが、計り知れない魅力が詰まっているんです。ということで、第13回はイタリアで3月に行われた「サンレモ音楽祭2021」に迫ります。

イタリア・リグーリア州の港町「サンレモ」。

そんなサンレモで1951年から続き、毎年2月第一週目に5日間かけて開催されるのが、イタリア版「レコード大賞」のサンレモ音楽祭。ちょうど日本の「紅白歌合戦」と同じ年にスタートした長寿番組で、イタリア国民の関心を集める一大イベントです。

日本でもすっかりおなじみのあの曲「ヴォラーレ(原曲:Nel blu dipinto di blu)」を歌うドメニコ・モドゥーニョも、第8回サンレモ音楽祭(1958年)の優勝者。彼の歌はイタリア国内にとどまらず世界へと羽ばたき、多くの人に知られる名曲となりました。

サンレモを訪れた日、中心部のジェラテリアでジェラートを選んでいると…店内のBGMで流れてきたのは、第67回サンレモ音楽祭(2017年)の優勝曲!偶然とはいえ、この地で頂点に輝いた曲がタイミング良く飛び出してきたことに心を奪われた私。明るいノリとサンレモの印象がぴったりと重なった瞬間は、忘れもしません。

会場の「テアトロ・アリストン」。2019年1月末、第69回サンレモ音楽祭開催の1週間前にはすでに厳重な警備が。
会場の「テアトロ・アリストン」。2019年1月末、第69回サンレモ音楽祭開催の1週間前にはすでに厳重な警備が。

思えば…第70回サンレモ音楽祭(2020年)はイタリア、そして世界が混沌とする直前の、最後の穏やかな時間。1年の時を経てテアトロ・アリストンのステージが再びライトアップされたことを思うと、感慨深いものがあります。71回目の今年は、コロナ禍のため初の無観客開催。日程を一か月繰り下げ、3月2日~6日に行われました。スローガンは「LA MUSICA NON SI FERMA MAI(音楽は決して鳴り止まない)」。ウイルスが主にミラノのあるロンバルディア州を襲った2020年2月末、ミラノ市長がミラノを鼓舞する動画を配信したこともありSNS上には「#milanononsiferma(ミラノは歩みを止めない)」というハッシュタグが溢れましたが、当時と同じフレーズを音楽祭のスローガンに用いることで、舞台裏で働く人、出場者、それを画面越しに見る人、ひいてはイタリア中に「音楽の力」で希望を届けられるよう、願いが込められたのでしょう。

1.「Chiamami per nome」/Francesca Michielin, Fedez

デジタル起業家Chiara Ferragni(キアーラ・フェッラーニ)の夫としても知られるラッパーのFedez(フェデツ)と、シンガーソングライターのFrancesca Michielin(フランチェスカ・ミキェリン)の、3度目のコラボ曲。イタリア版オーディション番組X Factor(エックス・ファクター)出身コンビで出場した今年のサンレモ音楽祭で、2位につけました。音楽祭の数週間前、Fedezが曲の一部をSNS上で流出させ、出場が危ぶまれるハプニングもありながら…の快挙!

伊太利亜 13回

Fedezはコロナ禍の打撃を受けたライブエンターテインメント市場に共鳴し、事あるごとに“イタリア音楽界は舞台裏で働く人のおかげで成り立っている”とのメッセージを発信。コンサートのない1年を経て、出場するアーティストにとっての今年の音楽祭は、無観客とはいえフルオーケストラと共演しライブで歌うことのできる絶好の機会。“早く元の状態に戻り、ファンにも生きた音楽を楽しんでもらいたい”という強い思いが、ミラノの空っぽの劇場で撮影されたミュージックビデオに込められました。スケール感のある荘厳華麗な劇場の映像と、歌姫Michielinの発する美声は、鳥肌モノ。コラム第12回でご紹介しているラッパーのMahmoodも作詞作曲に参加しています。
サンレモ音楽祭の翌週にはイタリアで最もヒットしている楽曲へと昇り詰め、3月末には早くもプラチナ認定。さらには、この曲をはじめとする今年のサンレモ音楽祭で発表された4曲(完全にイタリア語で歌われているもの)が、Billboardのグローバル・チャートにランクイン。イタリアン・ポップス界で史上初の出来事となりました!

2.「Momento Perfetto」/Ghemon

実は、今年のサンレモ音楽祭で私が最も注目していたのがGhemon(ゲーモン)の歌うこの曲。出場の26組中21位という結果に終わりましたが…ラップやソウルミュージックが混じりあったサウンド、そしてミュージカルテイストのミュージックビデオに浸ることで、なんだかハッピーなひと時に!“今か今かと静かに待ち望んでいた瞬間がようやくやって来た、そしてそれはほかの誰のものでもなく自分にとってのベストなタイミング”と歌い、大変な2020年を過ごした後、大きなエネルギーを必要としながらもページをめくることでサンレモ音楽祭に向き合えた喜びを重ね合わせています。詰まるところ、“今を精一杯生き、人生を切り開いていこう”というメッセージに。音楽祭を直前に控えた頃、Ghemonから次のようなコメントが。「今年はみんなが家にいて、(画面越しに)より多くの人が聴いてくれることが嬉しい。無観客開催は残念だけど、ステージに上がる興奮を再び味わうことができる。長い歌手人生、観客なしで歌うことは初めてのことじゃないしね…(笑)」

伊太利亜 13回

Ghemonという芸名は、漫画『ルパン三世』のキャラクター、石川五ェ門(ゴエモン)にちなんで名付けられたそう。帰宅後にテレビをつけるといつも『ルパン三世』が放送されていて、そこに登場する生真面目な五ェ門に惹かれたとのこと。ちなみにGhemonは自他ともに認めるスニーカーフリークで、ミラノにある秘密基地になんと500足以上のスニーカーをコレクションしているのだとか…!

3.「Zitti e Buoni」/Måneskin

さて、歴代の優勝曲を覆すようなパンチの効いた一曲で第71回サンレモ音楽祭の頂点に躍り出たのは…なんと、初出場で平均20歳の若手ロックバンド、Måneskin(マネスキン)!これまでは暗黙のうちに“幅広い年代に受ける口ずさみやすいメロディー”が優勝への鍵とされてきたので、この結果には正直、仰天!メイクを施し奇抜な衣装を纏う彼らが“音楽で世界を征服したい”という願望を表現し、イタリア音楽界に活気をもたらしました。5月には、ABBAが優勝を果たし世界的に知られるきっかけとなったユーロビジョン・ソング・コンテストにイタリア代表として出場予定!将来性のある若者が織りなすメロディーを何度も耳にしていると、やはりどこかクセになってしまうものが…。まさに、「音」を「楽しむ」。音楽って、これだからやめられません。

伊太利亜 13回

「サンレモ音楽祭2021」Spotifyのプレイリストはこちら!

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