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連載「拝啓、〈星〉へいらっしゃいませんか?」/第3回 お洒落シンガポーリアンが休日を楽しむ街「ティオンバル・エリア」の注目スポットへ。【元ハナコのシンガポール書簡】
結婚を機にシンガポールへ移住することになった元Hanako編集者による、星(=シンガポール)通信。東京23区ほどの大きさしかない小さな国。にもかかわらずアジア金融の中心を担うこの国には、各国から企業が進出し、活気にあふれています。ごはんもおいしくて、とってもアツい(暑い)国なのです。元ハナコが日々の生活で見つけた星情報、出張、観光の一助に……。第3回は「ティオンバル・エリア」をご紹介します。
日本への帰省中、久々にお会いできて嬉しかったです。目黒アトレ屋上でのBBQに、恵比寿のスナックでの朝までカラオケ。楽しい思い出の余韻に浸っていたいものの、徐々にシンガポール生活へと気持ちを戻すべく、先週末は街をぶらりお散歩しました。
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行った先は、お洒落なローカルが集まるティオンバル。静かな住宅街の中に素敵なカフェやベーカリー、本屋さん、ギャラリーなどがあるんです。ごく私的意見ですが、空気感としては代々木上原的だと思っています。
市場にパン屋にカレー屋に。ティオンバルの朝は早い
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ちなみにこの街、朝が早いんです。街の中心部にある〈Tiong Bahru Market〉という市場が、生鮮品が手に入るウェットマーケット(ショウケースや床を水でじゃぶじゃぶ洗浄することから名付けられた)なのですが、魚屋と肉屋が昼頃には閉まってしまうため、早朝から新鮮な食材を求めるローカルで溢れています。今年の春に建物がリニューアルされ、白く塗り直された壁にはイラストが描かれていたり、通路が広くなったりと、気持ち良くお買い物ができる環境になりました。
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この市場の向かいにあるのが、1946年創業の〈Loo’s Hainanese Curry Rice〉。海南カレーは粉状の香辛料を使って香りを強調するインドカレーとは違い、ブルージンジャーやイエロージンジャー、レモングラスを主体にした爽やかな辛みが特徴。カリカリのポークチョップや海老、甘く煮込んだキャベツなどのトッピングと、特製ルーを合わせていただきます。
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同店は7時45分開店、14時45分まで(週末は開店直後から行列!)。市場の目の前なだけに、魚の仲卸の胃袋を支えるべく早朝オープンする築地市場内の食堂のような役割のお店なのかと思って店主のルーさんに営業時間が早い理由を尋ねたら、「昼過ぎまで営業するのが年齢的に疲れちゃうだけだよ」と、笑い飛ばされました。
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さて、朝カレーがきまったら、人気のベーカリーへ移動。パリの名ブーランジェ、ゴントラン・シェリエ氏がプロデュースするベーカリー〈Tiong Bahru Bakery〉は、その建物も素敵。
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このエリアの建物は1936年から1941年にかけて建てられていて、曲線的な外形や角を特徴とする、アール・デコ様式から派生したストリームライン・モダンが採用されています。名物のクロワッサンを調達する前に、外観をパチリ。なお、店内にはカフェスペースも併設されていますが、ほぼいつも満席。よってテイクアウトがお薦めです。
良店が密集!Yong Siak Street歩き
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続いてYong Siak Streetという、お洒落ストリートを目指します。
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全長100mに満たないこのストリートの両側には、ミニカップケーキの〈Plain Vanilla Bakery〉(併設されたコミュニティ・スペースにヒップな若者が集ってます)や、シンガポールのサードウェーブコーヒーの第一人者であるハリー・グローバーさんが手がけるカフェ〈Forty Hands〉、外壁と地面に描かれたイラストが可愛い絵本専門店〈Woods in the Books〉などが軒を連ねます。
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必ず立ち寄るのは〈BooksActually〉。ローカルの人気作家作など、小説を中心としたセレクトが光るお店です。
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最近でこそ一帯にはカフェやスイーツショップがありますが、2005年の同店のオープン当初は住宅しかないエリアだったのだとか。オーナーのケニー・レックさんの勘のよさといったら! と思ったら、「家しかないから店には向かないということで、家賃が安かったんです」(ケニーさん)というのがティオンバル・エリアへの出店理由なのだとか。
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とはいえカルチャー好きのツボを押さえた選書ゆえ、このお店を目指してティオンバルを訪れる人が次第に現れ、そういった人びとをターゲットにした店が増えてきて今に至るというのだから、ケニーさんの選球眼、恐れいります。
穴場。非営利目的のカルチャースポット
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Yong Siak Streetを抜けたら、入り口を見落としてしまいそうなほど(実際、私は見落としました)ひっそりと、隠れ家的に営業しているアートスペースへ。〈GREY PROJECTS〉という非営利目的スペースで、ギャラリーや図書室を有し、カルチャーの発展に寄与しています。自由に出入りできるので、ふらりと寄るのにちょうどいい。思いがけず面白いローカル作家のアートが見つかることも。
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歴史的魅力も。抑えるべきポイントだらけ
可愛いお店が多いため、若者に人気のティオンバル。ここで、街の歴史について勉強を。この街は20世紀前半、隣接するチャイナタウンの人口増加の受け皿のような形で区画整理され、住宅街へと変貌を遂げました。その後、世界大戦が始まり、時折投下される爆弾から住民を守るため、住宅建築の下に防空壕を設置。防空壕付き建築は現存していて、建物番号、第78棟のMoh Guan Terraceは有名です。終戦後、一時は住民の倉庫として使われていたそうですが、現在は保存のため、地下は立ち入り禁止。第78棟は、これまた素敵なストリームライン・モダン建築なので、外観だけでもチェックしてみてください。
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とある筋からの情報によると、シンガポールの都市計画には風水が取り入れられていて、ティオンバルは空気を対流させるために中心部には高層ビルを建てなかった、らしい、です。新しもの好きなローカルを魅了しているのは、常にフレッシュな空気が入ってくる場だから、なのでしょうかね。
ではでは、このあたりで。
敬具
今回紹介したお店
〈Tiong Bahru Market〉
■30 Seng Poh Rd. Singapore 168898
■MRT「Tiong Bahru」駅より徒歩10分
■6:00〜
■店によって異なる
〈Loo’s Hainanese Curry Rice〉
■71 Seng Poh Rd. #01-49 Singapore 160071
■MRT「Tiong Bahru」駅より徒歩10分
■7:45〜14:45
■木休
〈Tiong Bahru Bakery〉
■56 Eng Hoon St. #01-70 Singapore 160056
■MRT「Tiong Bahru」駅より徒歩13分
■8:00〜20:00(金土〜22:00)
■無休
〈Plain Vanilla Bakery〉
■1D Yong Siak St. Tiong Bahru Estate Singapore 168641
■MRT「Tiong Bahru」駅より徒歩7分
■8:00〜19:00(日〜18:00)
■無休
〈Forty Hands〉
■78 Yong Siak St. #01-12 Singapore 163078
■MRT「Tiong Bahru」駅より徒歩6分
■7:30〜19:00(木金土〜22:00)
■無休
〈Woods in the Books〉
■3 Yong Siak St. Singapore 1686642
■MRT「Tiong Bahru」駅より徒歩6分
■10:00〜19:00(土〜20:00、日〜18:00)
■月休
〈BooksActually〉
■9 Yong Siak St. Singapore 168645
■MRT「Tiong Bahru」駅より徒歩6分
■10:00〜20:00(日月〜18:00)
■無休
〈GREY PROJECTS〉
■6B Kim Tian Rd. Kai Fook Mansion Singapore 169246
■MRT「Tiong Bahru」駅より徒歩5分
■13:00〜19:00(土〜18:00)
■日曜、月曜、火曜休