娘から父へ…おいしい日本酒おしえます! 『伊藤家の晩酌』~第十一夜3本目/するする飲めるマイルドな口当たり「松嶺の富士 家紋ラベル 純米吟醸 からくち 無濾過生原酒」~
弱冠23歳で唎酒師の資格を持つ、日本酒大好き娘・伊藤ひいなと、酒を愛する呑んべえにして数多くの雑誌、広告で活躍するカメラマンの父・伊藤徹也による、“伊藤家の晩酌”に潜入! 酒好きながら日本酒経験はゼロに等しいというお父さんへ、日本酒愛にあふれる娘が選ぶおすすめ日本酒とは?第十一夜の3本目は、すっきり辛口、飲み口やわらかな純米吟醸酒。
(photo:Tetsuya Ito illustration:Miki Ito edit&text:Kayo Yabushita)
第十一夜3本目は、すっきり吟醸感と純米の旨味が好バランスな「松嶺の富士 家紋ラベル 純米吟醸 からくち 無濾過生原酒」。
娘・ひいな(以下、ひいな)「この『松嶺の富士』ってお酒、つい1ヶ月前に知った山形のお酒なの」
父・徹也(以下、テツヤ)「おぉ、これは酒田の酒か。酒田といえば、学生の頃、合宿免許も取りに行ったな〜。庄内、いいところだよね」
ひいな「これは無濾過生原酒だから、新年が明けてから出るお酒なんだけど、都内でも扱っているところが数軒しかないんだって。この間、〈今田商店〉の角打ちで飲んだらすごくおいしくて。これは載せないわけにいかない!と思って」
テツヤ「じゃ、いただきます!」
ひいな「これがね……おいしいんですよ!」
テツヤ「うわ、うまい!」
ひいな「これは日本酒度が+9度って言われてて」
テツヤ「辛口だ」
ひいな「そうそう、よくわかったね。ラベルにも “からくち”って書いてあるけど、+9度はしっかり辛口っていう印象ってかな。日本酒度って一概には言えないけれど、+になればなるほど辛口で、−になればなるほど甘口に。純米吟醸は甘口が多いんだけど、このお酒は純米吟醸で辛口なの」
テツヤ「確かに。米の旨味もきちんと感じつつ、辛口ですっきり。いや〜、純米吟醸っておいしいねぇ」
ひいな「この徳利セット、かわいいでしょ?」
テツヤ「Hanako編集長の田島さんにもらったやつ!」
ひいな「ありがとうございます!」
テツヤ「これさ、俺、燗で飲みたい感じ」
ひいな「わかるー! これ燗でもおいしいよね、きっと。でもね、これは冷酒でまずは飲んでみてほしい。無濾過生原酒だけど、燗にするのもいいと思うんだよね」
テツヤ「これ、うまいねぇ。3本目なのにグイグイ飲んじゃうなぁ」
ひいな「ね。おいしいね。これは3本目にぴったりなお酒だと思って」
テツヤ「うん、それわかる。三次会でさ、もう一回飲み始める時にぴったりみたいな(笑)。一からやり直さない?みたいな」
ひいな「(笑)。三次会で仕切り直しする時にね」
テツヤ「ぬる燗くらいでどう?」
ひいな「うん、いいと思う。40度くらいにしてみよっか。この間、60度くらいに一度温めて、そこから冷ましながら飲むっていう人がいて。これが、いわゆる“燗冷まし(かんざまし)”ってやつか!と」
テツヤ「燗冷ましの世界はまだわからないな。深すぎるよ」
ひいな「うん、深すぎる。一回温度を上げることでアルコール感を飛ばして、飲みやすくなるんだと思う。確実に飲みやすくなるし、旨味も出るのは確か」
テツヤ「予約がなかなか取れない渋谷の居酒屋〈高太郎〉に初めて行ったんだけどさ、ソムリエの人が、燗冷ましをもう一度温めてたよ。そこまでいくとよくわからないよね(笑)。一度上げて下げて、また上げるなんて」
ひいな「うわ〜、それはすごいね! 雑味を飛ばすことで、どんどんクリアになっていくのかな」
テツヤ「水出しコーヒーをホットにするみたいな感じ?」
ひいな「たぶん(笑)。まずは冷酒のまま、おつまみと合わせてから、後で燗にしてみよう」
「松嶺の富士 家紋ラベル 純米吟醸 からくち 無濾過生原酒」に合わせるおつまみは「カマンベールチーズ入り干し柿」!
テツヤ「うわ! 何それ?」
ひいな「干し柿の中にカマンベールチーズを入れちゃいました! そのまま手で持って、かじってほしい」
テツヤ「ひいな、そもそも干し柿好きだったっけ?」
ひいな「子どものころ、別に好きじゃなかったけど……」
テツヤ「干し柿といえば、俺が家族の中で一番好きなの知ってるよね?」
ひいな「家族の中で一番って、1/4だけど……(笑)。ドライフルーツとチーズの最高の組み合わせを感じてみて!」
テツヤ「え、このチーズ……しょっぱい!」
ひいな「そう。カマンベールなのがポイントなの。クリームチーズじゃなく」
テツヤ「最高にうまいよ、これ!」
ひいな「この組み合わせ、もっと広めたい」
テツヤ「いちじくとバターとかさ、ドライフルーツと乳製品ってなんでこんなにおいしいのかな。この組み合わせ、ほんとに最高」
テツヤ「これ、ヤバいよ……」
ひいな「ね。ヤバいもの発明しちゃったね」
テツヤ「どうしてこの組み合わせに気づいちゃたの?」
ひいな「ドライフルーツとチーズが合うのはわかってたけど、干し柿に何を合わせるといいかなって考えた時に、クリームチーズじゃなくて、カマンベールにしてみたくて。カマンベールって熟成感があるし、きっと干し柿に合うなと思って」
テツヤ「そもそも、どうして干し柿だったの? ひいなは干し柿好きなイメージなかったんだけどな」
ひいな「ドライラフルーツは好きだよ。前に、干し柿とマスカルポーネがおいしいって聞いたことがあって。でも、しっかりとした味わいの生原酒には、カマンベールみたいな少しクセがあるチーズのほうがいいんじゃないかなと思って」
テツヤ「うん、塩気があるほうがうまいな」
ひいな「でしょ? 熟成感もいいよね。日本人が好きな甘じょっぱさだよね」
テツヤ「家にある、ほかのチーズとも合わせてみようよ」
ひいな「おいしいねぇ。チーズと日本酒って、こんなにも合うっていうのをもっと広めたいな」
一升瓶で日本酒を買って、毎日少しずつ、味の変化を楽しみましょ。
ひいな「燗酒にしてみましょうかね」
テツヤ「断捨離したらさ、昔キャンプに行ってた時に使ってた道具がいろいろ出てきて。あの、コーヒーつくるやつ、名前何て言うんだっけ?」
ひいな「コーヒーケトル? コッヘル?」
テツヤ「あぁ、名前出てこない! 捨てられなくてさ。いい味出してるでしょ、これ。あ! パーコレーターだ!」
ひいな「あぁ、すっきりした」
テツヤ「パーコレーターってさ、フィルターとかいらないんだよね。これ使ってさ、燗にしようよ」
ひいな「パーコレーターに熱湯を入れて、そこにちろりを入れて温めます。あ! 46度までいっちゃった!」
テツヤ「意図せず、燗冷ましになっちゃったね」
ひいな「ま、いいか(笑)。40度に下がるまで待とう」
テツヤ「いいよ。おいしいよ、きっと」
ひいな「日本酒はちょっとした温度で味が変化しちゃうけど、その変化も楽しめるのが日本酒のいいところだもんね」
テツヤ「いいこと言うねぇ。どんな味でも受け止めてやる!」
テツヤ「あれ? 思ってたより、アルコールが強く出ちゃったかも」
ひいな「うん……私もそう思う。最初の香りはいいんだけど、存在感がなくなっちゃった」
テツヤ「旨味が消えたのかな」
ひいな「うん。そうかもしれない。何でもやってみないとわからないねぇ」
テツヤ「おいしさを追求するにはさ、何回も試して失敗して、見つけるしかないね」
ひいな「うん、探究心あるのみ、だね」
ひいな「この蔵が目指すお酒の系統は、口の中で丸く広がってのどごしの切れのよい酒を造ることなんだって。すごい軟水で仕込んでるらしくて」
テツヤ「酒田でしょ? 庄内といえば鳥海山のおいしい軟水なんだろうな」
ひいな「佐藤正一さんという東北では有名な杜氏さんがこのお酒の製造に携わってるんだって。佐藤さんは、酒田酒造の『上喜元』っていうお酒を造ってる人なの」
テツヤ「へぇ、そうなんだね。今回さ、このお酒を一升瓶で紹介した理由ってあるの?」
ひいな「ううん、四合瓶の在庫がなかっただけだよ」
テツヤ「でもさ、一升瓶ってさ、ほんとにルックスがいいよね」
ひいな「うん、わかる」
テツヤ「どのお酒も一升瓶で撮影したいけど、なかなか家に置けないよな」
ひいな「冷蔵庫に入らないもんね。野菜室に入れたりする人もいるらしいよ」
テツヤ「野菜が入らないな、そりゃ(笑)。うちはセラーがあるから大丈夫だけどさ」
ひいな「お酒を開けた後に味が変化していくのを楽しむ余裕もほしいよね」
テツヤ「そうそう。四合瓶だとすぐに飲み干しちゃうから」
ひいな「ね(笑)」
テツヤ「ナチュールワインもさ、開けた後1週間寝かせちゃうこともあるんだよ」
ひいな「あえて置いちゃうっていうこと?」
テツヤ「そう、抜栓してから置いておくと、どんどん味が違ってくるのよ」
ひいな「日本酒も開けたらすぐに飲まなきゃっていうイメージがあるけど、味の変化も楽しんでみてほしいな」
テツヤ「毎日5〜6本をローテーションで飲んでいくときっと楽しいんじゃない? やってないけど(笑)」
ひいな「それだと伊藤家の晩酌が日本酒とナチュールワインで、毎晩大変なことになっちゃう(笑)」
テツヤ「やっぱりさ、その味は、その瞬間にしか出会えないっていうことだよね」
ひいな「本当にそう思う!」
→次回:4月26日(日)更新予定
【ひいなのつぶやき】
一升瓶で色んな温度帯や開封してからの経過も楽しんでいただきたいです!
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