花井悠希の朝パン日誌 vol.60 2019年のパン納めは盛大に!…〈アテスウェイ〉と〈HEDIARD〉と〈Avranches Guesnay〉
これじゃあまるで冬じゃないか!(←冬です)おかげで私の身体もついに冬モードに突入してしまいました。そう、見るからに甘く暖かい飲み物やバターやリッチな味わいのものを欲するシーズンの到来です。身体が冬の蓄えを欲しているのでしょうか?あぁ冬って恐ろしい(被害妄想)。そしてそんな私を見透かすように街中が、ホレホレと可愛い飾り付けでそんな子たちを推してくるんだから、抗う方が罪ってものですよ(言い訳です)。ケーキ屋さんに、百貨店に、街へ繰り出せば美味しいものだらけ。食べたいものは今年のうちに。年の瀬なんだもの、欲張っちゃいましょう。シュトーレンも外せませんよ。
美術館に飾りたいクロワッサン…〈アテスウェイ〉
言わずもがなの名パティスリー〈アテスウェイ〉さん。もちろんケーキも素晴らしく美味しいのですが、こちらのクロワッサンが気になって気になってしょうがなかったのです。ある日曜日に訪れたらお店は大行列。店内に入って自分の番を待つ間にもずらりと並べられていたクロワッサンが目の前で飛ぶように売れていきます。人気の高さを目の当たりにしハラハラして生きた心地がしなかった(大袈裟)。でもよかった、、憧れのクロワッサン買えました!!
実に洗練されたクロワッサンです。もうこの見た目が全てを物語っているといってもよいのでは。とにかくシュッとしています(←関西弁)。周りの空気すらもキリッと変えてしまうようなこの品格、佇まい。誇り高き淑女のようです。美しい造形を崩す事に少し心痛めながらも、心してガブリ。外側が崩れるのと同時に耳に届いたのは木の葉を踏みしめる音に似た乾いた音。パリパリパリパリ。あぁ、この静かな響き、いつまでも聞いていたい!
断面の麗しさはもう鳥肌モノ。ふっくらと美しく立ち上がった内側は、真ん中の核のような空間を軸に外へと幾重にも柔らかな層が重なり、薄く広げられたその一枚一枚が己の立ち位置を守り続けるが故にしっかりと空気が入り込める部屋を確保しています。この部屋数、国内最大級に違いない(本当か?)。層と層の間にこんなに空気を閉じ込めておける部屋があるなんて、ここに重力はないのでしょうか(※あります)。
一枚たりとも同じ形をしているものはなく、くっついたり潰れたりもせず、それぞれの繊細な形を綺麗に保っているから、その閉じ込められた空気の粒も実に細やか。細かい空気の粒達を伝って、穏やかな温もりを感じさせる甘み、上品なバターの旨みが広がります。決して出しゃばらないさじ加減がなんとも粋です。〈アテスウェイ〉のケーキでハッとした、計算し面白い掛け合わせをしているのに足し算ではなく引き算の美学を感じること。それはこちらのクロワッサンにも脈々と繋がっていました。
気分は社交界の食卓…〈HEDIARD〉
パリで150年の歴史を誇る高級食料品店〈エディアール〉が伊勢丹新宿店にパン屋さんをかまえているのをご存知ですか?パン売り場とは別の所にお店があるので私もこれまで見逃してしまっていたのですが、この季節にぴったりかも!?と思いのぞいてみました。というのもこちらの顧客リストがすごいんです。ピカソやヘミングウェイ、歴代大統領がその名を連ね、晩餐会のケータリング等も担ってきた社交界御用達のお店なのです。街が華やぐ季節ですもの。〈エディアール〉のパンでキラキラとした世界を味わってみましょう。ごきげんよう、とパン片手に紳士淑女ごっこをしてみるのも楽しいかもしれません(←病)。
やれ、パリだ、高級食料品店だ、ヘミングウェイだとか言っておきながら、私が選んだものは「チーズとくるみと小松菜のチャバタ」。小松菜が入るだけで一気に社交界ではなく日本の食卓らしくなるのはなーぜー(遠い目)。そしてチャバタはイタリアパン(白目)。。
おやきか!一口食べてその中身の詰まりっぷりにツッコミをいれずにはいられませんでした。すごいです、この中身のぎっしりさ。外からの見た目以上に内側はひしめき合っています。まるっと大きなくるみがゴロゴロ、小松菜が滋味深い苦みを携えて矢の如くシュンシュンと入り(シュンシュンって何)、ブルーチーズがきっちり塩気とクセのある旨味を放ちます。この中のMVPは、自然な苦味で一段と深みある味わいに持っていく小松菜にあげたい所ですが、もうお一方見逃せない方がいらっしゃいます。それはくるみさん。
群を抜いた香ばしさなんですよ。コリっとした食感と香ばしさの内に滲み出るわずかな苦味が小松菜とは違うニュアンスの奥行きを作っていて、小松菜と堂々と肩を並べる存在感に圧倒されます。MVPが2人いるくらい主張が強くとっ散らかりそうなまとめ役を買って出るのはパン生地しかいません。たわわな中身達の間を縫うようにひっそりと間を埋める生地は、もちっと弾力のあるクッション性を発揮してみんなを強力に繋ぎとめています。でもこちら、食べごこちや味わいのパワー的には朝より夜向きかも?
こちらのスコーンはパンよりもクッキー寄り(当社比)。今、特賞で特大クッキーをゲットした時のようなルンルンとした気持ちです。(どんな時だ)。こんがり焼けた表面がサクッと軽快に崩れるとほろほろさらさらと目の細かい生地がほどけ溶けていきます。粒子が細かいから、みっしり詰まっている生地なのに圧迫感がなくて、口どけの良い上質なクッキーを少し落ち着かせたようなしっとりした口溶けです。
そして粒子の小ささに合わせるように紅茶の茶葉も細かいものがたっぷり。赤い缶に入った紅茶のイメージも強い〈エディアール〉。さすがの香り高さです。高貴で重厚感のある茶葉の香りが鼻いっぱい肺いっぱいに広がりもううっとり。そこに時を見て顔を出すクランベリーが弾ければ一気に冬の香り、冬の味。暖かいミルクティーやカフェオレがきっと一番似合う、そんな味。
初めて出会うフレッシュなシュトーレン…〈Avranches Guesnay〉
白く閉ざされた雪山のようにも、かまくらのようにも、冬の景色を思わせるルックスのシュトーレンは、やっぱりクリスマス前のアドヴェント期間に食べたい。カトリック系の中高に通っていたので、アドヴェント、待降節は身近な行事でした。クリスマスに向けて毎週1つずつロウソクに火を灯し、クリスマスミサではロウソクの灯を全生徒でリレーしていくキャンドルサービスがあって、静けさの中でクリスマスを待つこのアドヴェントの期間はいつもよりちょっとだけ凛とした特別な時間に感じていたことを思い出します。
白いお化粧で下の顔は表面からは見えないけれど、舌の温度で溶解する砂糖の溶けざまが美しい。前のめりも後ずさりもなく従順に、ゆるやかな速度でなだらかに溶けていきます。そして広がる砂糖の味はスキッと澄んだ冬の空を思わせるクリアさ。こんなに砂糖が分厚いのに清々しいのはこの雑味のないクリーンな甘さのおかげですね。
雪山を抜けた先は少しスノーボールクッキーにも似たほろほろと崩れる質感で、新雪のようにサラサラと軽やかで細かな粒子が砂糖の口溶けとリンクしていきます。スパイスも洋酒もサラサラと崩れる風にのってふわりと届く穏やかなものでこれまた清々しい。
こちらのシュトーレンの他と大きく違う個性はフリュイルージュが入っていること。ポルト酒やスパイス等に漬けられたジューシーないちごやクランベリーなど赤の果実達がたくさん閉じ込められて、ふくよかな甘酸っぱさが口いっぱいに広がります。この可愛い赤の戦士たちに敬意を評してラブベリー!(世代!)と呼びかけたい衝動に駆られましたが自粛しておきました。ご安心ください(何を?)。
そしてもう一つ書いておかなければいけない奴がいます。それはアーモンド。空炒りされているのか香ばしさをぐんと引き出され、カリッッ!と大豆みたいな音で弾けるこの子は、実はフリュイルージュと互角にやりあうほど旨味が強いのです。脇役かと思っていたら大間違い。男の中の男、アーモンドの中のアーモンドでした(謎)。
フリュイルージュの果実味なのか、アーモンドの力強い香ばしさなのか、はたまた砂糖の澄んだ口どけのおかげなのか。こんなにも透明感のあるフレッシュなシュトーレンは初めてでした。シュトーレンの濃密な味わいが苦手な人にもきっと美味しく頂けるはずです。薄くスライスしてチビチビ一杯やる(紅茶を)とはまた少し趣が異なるかんじ。買ってすぐ食べているからこの印象なのかもしれません。もう少し置いたら熟成が進んでまた違った美味しさに出会えるのかもしれませんね。でも待ちきれなくて熟成する前になくなっちゃうだろうな。だって残りはもう3分の1…
良いお年をお迎えください!
2019年最後の朝パン日誌は、クリスマスムードを感じられるパンを中心に盛りだくさんでお届けしました。今年はクリスマスもクリスマスイブも平日。年の瀬の慌ただしさを前に、ゆっくりディナーはできなくても朝のひと時にこんなパンをプラスしてクリスマスを感じるのもおすすめです。次の更新は2020年。2019年もたくさんのパンとの出会いがありました。変わらずテンション高くパンを愛で楽しめているのは、ここ「朝パン日誌」があるから。いつもお読みくださり楽しみにしてくださっている皆さまありがとうございます。それでは2020年にお会いしましょう!良いお年をお迎えください!!
■前回の記事「人気店のあのオヤツでとっておきの朝食を…〈mameshiba coffee〉と〈Equal〉」はコチラから