娘から父へ…おいしい日本酒おしえます! 『伊藤家の晩酌』~第五夜3本目/甘みが際立ち、凛とした「ゆり 純米大吟醸」~
弱冠22歳で唎酒師の資格を持つ、日本酒大好き娘・伊藤ひいなと、酒を愛する呑んべえにして数多くの雑誌、広告で活躍するカメラマンの父・伊藤徹也による、“伊藤家の晩酌”に潜入! 酒好きながら日本酒経験はゼロに等しいというお父さんへ、日本酒愛にあふれる娘が選ぶおすすめ日本酒とは? 第五夜の3本目は、母娘が慈しんで醸したというやさしいお酒にほろ酔い。
(photo:Tetsuya Ito illustration:Miki Ito edit&text:Kayo Yabushita)
第五夜3本目は、女性杜氏が作り出す優しくも芯の強い「ゆり 純米大吟醸」
娘・ひいな(以下、ひいな)「次はその名も『ゆり』。素敵でしょ?
父・徹也(以下、テツヤ)「どんな味なのか気になるな〜」
ひいな「このお酒は、九谷の美しい盃で飲みましょ」
テツヤ「いいね、いいね」
ひいな「冷酒マストで」
テツヤ&ひいな「乾杯!」
テツヤ「うわぁ、これでとどめ刺された感じがする。グサッ!」
ひいな「刺されちゃった?」
テツヤ「意外と最後に強めのがきたね」
ひいな「ちょっと油断させとい、て、最後に…」
テツヤ「歩けなくなるやつだね、俺が(笑)。1本目、2本目の優しさからの、強さも感じるっていうか」
ひいな「でも、すっきりしてるでしょ?」
テツヤ「そうだね、凛とした強さっていうか。帰り際、さっと帰るみたいな。泥酔している俺を置いて(笑)」
ひいな「わかる(笑)。これをなぜ選んだかというと、私がこの酒で口説かれた経験があって…」
テツヤ「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
ひいな「うそだよ! あらあら、背中むけちゃった(笑)。恵比寿にある〈鶏しま谷〉っていうお店に行った時に、『一杯目の日本酒は何がいいですか?』って聞いたら、必ず『ゆり』が出てくるの」
テツヤ「1本目に?」
ひいな「そう」
テツヤ「酔わせる気だな」
ひいな「その『ゆり』に心を掴まれて、いつも食事が始まるっていう経験をしていて」
テツヤ「『ゆり』に口説かれちゃったわけだ」
ひいな「うん、虜になっちゃった」
「ゆり 純米大吟醸」に合わせるおつまみは、なんと「レーズンバター」!?
ひいな「なんと、このお酒には、レーズンバターを合わせます!」
テツヤ「えぇ!? あぁ〜でも、意外だけど、わかる! この甘みに絶対合うよね」
ひいな「そうそう、ウイスキーと合わせるイメージで」
テツヤ「レーズンバターってさ、僕らの世代にはうれしいものなんだよね」
ひいな「おいしいよね」
テツヤ「止まらないよね」
ひいな「ね」
テツヤ「この器はね、大分県の運天達也さんっていう木工作家のもの」
ひいな「え! 木でできてるんだ!」
テツヤ「しかもね、この運天さん、保育園を運営してて、どんな子どもでも受け入れるのと同じく、器もどんな素材でも、自分で加工して、器にするっていうポリシーの人。すごくいいでしょ?」
ひいな「この欠けさえも、愛しく思えるよね」
テツヤ「そう、すごくかっこいいんだよ」
ひいな「このレーズンバターは、レーズンをラム酒につけるところから自分で作ってみたよ。自家製レーズンバター」
テツヤ「この組み合わせ、日本酒でやったことないし、考えたこともなかったよ!」
ひいな「『ゆり』と合わせても、すっごくおいしいから」
テツヤ「確かに、うんまい! こんなおいしいレーズンバター、銀座のバーで頼んだらいくらするかわかんないよ。こんなに食べていいの? 健康に…」
ひいな「え(笑)? いまさら、それ気にするの?
テツヤ「バターをそのまま食べるっていう罪悪感がいいんだよな。ラムの味がしっかりしてて、うまいな〜。サーティーワンのラムレーズンの味がする!」
テツヤ「どうしてレーズンバターを合わせようと思ったの?」
ひいな「このお酒の甘いコクと、バターのコクが合うなと思ったのがきっかけかな。ラム酒と日本酒を合わせるって、ちょっと挑戦でもあって。でも合わせてみたらおいしいこと! 試作段階で一発で決まったの」
テツヤ「小さい頃さ、うちの親父の飲み会とかに遊びに行くと、さきいかとレーズンバターが必ずあって。ブランでーとかと合わせるのと同じ感覚だね」
女性杜氏の母娘が醸すやさしい日本酒は、伊藤父娘をやさしく酔わせる。
ひいな「仕込みは、杜氏の林ゆりさん、麹造りはお母さんの林恵子さんが担当していて、母娘2人でこのお酒を醸してるの」
テツヤ「お母さん、いくつなの?」
ひいな「知らないよ(笑)」
テツヤ「気になるな」
ひいな「(笑)。酒造技能士の母・恵子さんと、娘のゆりさんが大学で学んだ醸造学を生かして、女性ならではの優しい酒を醸してるんだって」
テツヤ「母娘が造った酒を、父娘で飲んでるわけだな」
ひいな「地元・福島の会津産の酒造好適米『五百万石』を使っていて、福島県産の『うつくしま夢酵母』を合わせているんだって。地元を愛してるんだね」
テツヤ「そういうお酒、好きだな」
ひいな「少し重めな感じもあるけど、甘めの味わいだから、食後酒にもいいかなと思って」
テツヤ「一口目は重めかなと思ったけど、だんだんと軽くなってフェードアウトしていく感じ、いいね。米の甘みが何より際立ってるし、優雅さもあって」
ひいな「〆の1本に、ふさわしいでしょう」
テツヤ「レーズンバターと合わせたら、もう、エンドレス!」
ひいな「こんなお酒を造る蔵にもいつか遊びに行ってみたいな」
テツヤ「『ゆり』を造る、母娘にお会いしてみたいね」