まちをつなげるパン屋さん by Hanako1177 谷中の古民家に現れた、最先端のベーカリー〈VANER〉。外国人も驚く、国を超えて追求する“パン”とは。
パンラボ・池田浩明さんによる、Hanako本誌連載「まちをつなげるパン屋さん」を掲載。今回は、谷中にある〈VANER〉をご紹介します。
昔ながらの日本家屋に、最先端のベーカリーが現れた。
ここに来ると、自分がいまどこの国、どこの時代にいるのか、わからなくなる。古い路地に入り、奥へと進むと、突き当たりの古民家はなんとベーカリー。
しかも、そこに並ぶのは、濃厚な焼き色でつややかに光る、でっかいサワードゥブレッド。まるで時空を超えているみたいだ。「外国の人によくびっくりされます。『こんな古民家で本気のパンを作っているんだね』って」と宮脇司ヘッドベーカー。
本当の衝撃は食べてからだ。めまいがするような発酵の香り。皮に激しい香ばしさ、やわらかでみずみずしい中身が舌にのれば途端に泡のように溶け、旨味や酸味の渦が巻き起こる。もっとも古くて、もっとも新しいパン。米西海岸の〈タルティーンベーカリー〉から世界中に広がったサワードゥのムーブメント。宮脇さんは、ノルウェーの〈イルブロ〉を皮切りに、インスタグラムでつながった8カ国15軒のベーカリーに次々と飛び込んだ。出会ったベーカー誰もが、惜しげなく自分の知るすべてを教えてくれた。現代のパンの最先端はSNSを通じて情報交換し、オープンイノベーションで進歩をつづける。心を開くこと。
宮脇さんはいつも英語でさまざまな国の人と楽しそうに話をしている。なぜ作り手が接客までこなすのか?「なにかを好きで楽しんで作っている人と話すと、感じるものがありますよね?」心と心がつながり、ヴァイブレーションが走り抜けるとき、国境も世代の壁もない。〈VANER〉が時空を超えているように感じられるのは、きっとそのせいだ。
谷中人気を牽引してきた名物カフェで甘味を。
谷中の象徴、創業80年の〈カヤバ珈琲〉、実は、〈VANER〉と同じ会社が再開させた。これら古い建物を残す「NPOたいとう歴史都市研究会」の活動に共鳴してのことだ。ただ見て歩くだけではなく、実際に店の中に入り、コーヒーやフードを楽しんで、人と人が触れ合える、まるでテーマパーク。古い建物が機能し、現役の「街」であることはこんなに楽しい。
〈カヤバ珈琲〉
■東京都台東区谷中6-1-29
■03-3823-3545 8:00~18:00(金土~21:00)
■40席/分煙
〈VANER(ヴァーネル)〉
小麦から自家培養したサワードゥ、ノルウェー産小麦を石臼挽きで使用するパン。宮脇シェフの作業を見たり、パンと〈フグレン〉のコーヒーをベンチで楽しんだりも。
■東京都台東区上野桜木2-15-6
■電話番号非公開
■9:00~18:00(売り切れ次第終了)月火休
池田浩明 いけだ・ひろあき/パンラボ主宰。パンについてのエッセイ、イベントなどを柱に活動する「パンギーク」。著書に『食パンをもっとおいしくする99の魔法』『日本全国 このパンがすごい!』など。 パンラボblog
(Hanako1177号掲載/photo:Kenya Abe)
☆前回のパン屋さん〈Lumière du b〉はこちらから。
【お知らせ】Hanako.tokyoでは基本的に本体価格を掲載しておりますが、2019年10月1日の消費税率改定以前に取材・掲載した記事にある(税込)表記の金額については、旧税率での掲載となっております。ご了承下さい。