発酵の個性が光る パン好きにはたまらない
オリジナルの酵母にこだわるベーカリー3軒
パン作りの工程の中でも発酵に着目し、酵母を自家製したり組み合わせを研究したり。職人はそれぞれに信念を持って生地を発酵させ、焼いている。なかでも独自の技術を見せる職人を訪ねた。
BAKER Aoyagi
理想の酵母を見つけたシェフの楽園
パンを発酵させるのに欠かせない、酵母。天然酵母といわれるものの中には、自家製酵母とイーストがある。イーストはパン作りに適した1種類の酵母を純粋培養したもの。それに対し、自家製酵母は材料に付着した菌のほかに空気中を漂う菌も混ざってできる。「イーストは英語、ルヴァンはフランス語で『酵母』と、実はどちらも同じ意味なんです。通常ルヴァン種は小麦粉やライ麦粉を発酵させたものを指すので、ややこしいのですが」と教えてくれたのは、〈BAKER Aoyagi〉の青柳吉紀シェフだ。
製造工程の中で、発酵のタイミングは何度もある。自家製酵母を使っていれば種起こしから、ミキシング(材料を混ぜ、グルテンを作り出すこと)後の一次発酵、パンチしてガスを抜いた後の二次発酵、分割した後のベンチタイム(成形前に生地を休ませる時間)。材料の一部を混ぜて発酵させておく中種法を採用すれば、さらに発酵の手順は増える。「ほとんどの時間を酵母の力に頼っているといえますね」。だから、どんな酵母を使うのかが重要になる。
「自家製酵母には空気中の菌も取り込まれるということは、同じ酵母を違う場所で育てれば全く違うものになるということ。たとえば私はイタリアのパネットーネ種に憧れて輸入したこともありましたが、現地で食べた味は再現できないんですよね。だから私は日本だからできるパンを作ろうとしています」
BAKER Aoyagi
住所:東京都目黒区駒場4-6-2 Y-5 yamagatayaビル1F
TEL:なし
営業時間:9:00~20:00(売り切れ次第終了)
定休日:月火水休
席数:4席
青柳シェフがパン作りの要にしているのが、青森のりんご農家から見つかったという「パラダイス酵母」。糖に強く、パネットーネ種のように発酵させることができるという。
Bakery bank
人気パティシエからバトンを渡された新世代。
一ツ星レストラン〈レストランシンシア〉でシェフパティシエとしてパンも手がけた〈Pパティスリーâtisserie ease〉の大山恵介さんがプロデュースする店。現在は、大山さんからルヴァン種を受け継ぎ、2月にシェフに就任した須貝文智さんが腕をふるう。須貝さんは〈ザ・ペニンシュラ東京〉のベーカリー出身で、さまざまなコンテストで受賞歴がある人物だ。
「これまでパンの種類はあまり多くなかったのですが、酵母の組み合わせを変えた生地の種類を増やし、毎週新作を出しています」。その一つに角食がある。イーストにレーズン種を加え、フワフワしつつ歯触りのいい仕上がりに。天然酵母の力で、むっちりとした食感が加わっている。
Bakery bank
住所:東京都中央区日本橋兜町6-7
TEL:050-3593-0834
営業時間:8:00~18:00
定休日:水休
席数:4席
看板アイテムのサワードウ「BANK」の生地を使ったソフトクリームなどユニークなアイデアがあちこちに。平日は地下のカフェ&バーで飲み物を注文すれば、パンをイートインできる。
No.4
湯種の限界を超えた、発酵との出会い。
日本人好みの食感に仕上がるパン製法といえば、「湯種」。これは小麦粉とお湯を混ぜて寝かせたもので、生地をもちもちとさせ、甘みを引き出す作用がある。通常、湯種自体は発酵はさせず、生地に混ぜ入れていくのがセオリー。だが、〈No.4〉の川原司シェフは湯種それ自体を発酵させてしまう、常識破りの製法に行き着いた。「湯種の生地はもっちりする分噛み切りづらいというネガティブな側面も。それを解消させるのが、発酵湯種なのです」
No.4
住所:東京都千代田区四番町5-9
TEL:03-3234-4440
営業時間:8:00~ 21:00(カフェは20:30LO )
定休日:無休
席数:48席(テラスあり)
店はオフィス街の一角に、オアシスのように佇んでいる。平日朝から行列を作るのは、朝限定のカフェメニューがお目当ての人々だ。