心あたたまるパン屋の家族の物語 【京都】売り切れ必至の人気パン屋
〈まるき製パン所〉の誰からも愛されるコッペ
いつ食べても懐かしい、またすぐ食べたくなるコッペパン。次々売れるから次々作る。焼きたて、挟みたて、揚げたてがうれしい。どこにでもありそうでどこにもない、そのおいしさがクセになる。
京都の味-家族物語-
次から次に人が来る、自転車が来る、車が来る。開店するなり、行列が途切れない。店頭では常にスタッフ4、5人が入れ代わり立ち代わり、客の対応に忙しい。「特別感なく、ごく普通にお小遣いで買えるパン」の一番人気はハムロール。キャベツもたっぷりだ。カツロールにコロッケロールから、あんパン、クリームパンといった甘いパンまで、ウインドーに並ぶ姿も愛らしい。
奥のキッチンでは次から次に生地をこね、発酵させては焼き上げていく。コッペパンの数、一日約1000個にもなるという。スタッフは店頭とキッチンを行き来しながら、次々とパンに具を挟む。みんな手際がいいから、行列ができてもさほど待たないのでありがたい。
〈まるき製パン所〉は1947年開業。現当主は3代目となる木元陽介さん。2代目の父・廣司さんと母・幸子さんは、高校は違ったが同学年。近所のバス停で知り合った。父は長男だったが、高校時代から母ラブだったので、躊躇なく婿養子に入った。「家業の、自転車、バイクの販売は弟が継ぎました」
結婚後、初代の薫陶を受けてパン作りを始めた父だったが、半年後、初代がガンを発病。死期を悟った初代から、集中的に昔ながらのシンプルなパン作りを教わった。「覚えは早いほうだったから」と2代目。あれよあれよという間に後を継ぐことになる。ラブラブな父母は、力を合わせて頑張った。
店は、近くにあった高校の生徒たちがお昼時に一斉にやって来て、毎日大にぎわいだった。ところが高校が移転することになり、事態は一変。客足が途絶え、静まり返ったが、雑誌の取材が来てくれたおかげで、息を吹き返したのだという。
3代目は、「パン屋をやれと言われたことはないけれど、いずれは継ぐもんやと思ってました」。そして、大阪・阿倍野にあるおしゃれなパン屋に修業に出る。数年後、今度は2代目の父がガンになり、入院加療が必要となった。そこで、父は息子の勤めるパン屋に挨拶に行く。「修業途中で申し訳ないが、自分はこのあと、どうなるかわからないから、どうか、息子をやめさせてほしい」。そう頼みに行ったのである。
陽介さんは京都に戻り、3代目となった。ラッキーこの上ないことに、1年後に結婚した妻の明素加さんもパン職人だった。職場の後輩だったのである。店にとって、こんな喜ばしいことがあるだろうか。現在は、父も無事帰還。パン作りは父と明素加さんが中心に。陽介さんは、パン作りと店のマネージメントで多忙を極める。
両親ともに76歳。父は朝3時半に起きて4時には仕事場に入る。「技術は息子のほうが上」と言うが、本心は「息子には負けんぞ」という感じだろう。初代の娘である母も現役。まめまめしく動き回る。陽介さんの娘さんたちも、学校が終わると手伝うこともあるそう。3世代で、同じ仕事に関わることができるのは幸せなことに違いない。
まるき製パン所
住所:京都府京都市下京区松原通堀川西入ル北門前町740
TEL:075-821-9683
営業時間:6:30~20:00(日祝~14:00)
定休日:月休(祝を除く)
売り切れ次第終了なので早めに。ハムロール200 円、カツロール250 円、あんパン180 円など。2 代目が昔から好きだったニューバード200円は、カレー味の生地にソーセージが入った揚げパンだ。