焼菓子がある時間。PART #1 ( CROSS TALK )
かわいさとおいしさの沼にハマる 焼菓子好きが気になるお店。
昨年から大流行しているクッキー缶をはじめ、マフィンやパウンドケーキなどの焼菓子が今、注目です。焼菓子屋さんがひしめく町があったり、作家さんの作品を包み紙にしたお店など、眺めていても、器に盛っても幸せな気分にさせてくれる、焼菓子を巡る世界へようこそ。
菓子研究家の福田里香さん、文筆家の甲斐みのりさんは、共に大の焼菓子好き。少しフィールドの異なる二人が語ると、焼菓子の持つ魅力がありありと見えてきました。
愛おしいと思える お菓子はいっぱいあります。
福田里香(以下、福) 今回のテーマは焼菓子。クッキー、ケーキ、プリンまで入れるとかなり広いですね。私の中で思い入れが深いのは地元福岡にある〈フランス菓子16区〉のダックワーズです。
甲斐みのり(以下、甲) ダックワーズって外国のお菓子だと思われがちですが、実はこちらのシェフが考案。あまり知られていないんですよね。
福 福岡は基本的に南蛮菓子なのですが、青森にある〈御菓子司 大阪屋〉の「冬夏」も焼菓子に入るでしょうか。歴史が込められていて、感銘を受けました。
甲 私の故郷・静岡には「あげ潮」が。創業者が戦後の闇市で出会ったコーンフレークを使って、クッキー生地にドライフルーツなどを合わせて焼いたものです。
福 あれ大好きです! 50年くらい前のアメリカの本を見ると、同じようなお菓子が載っていますね。
甲 アメリカンなら、〈エイミーズ・ベイクショップ〉が好きです。マフィンを朝食にしたり。
福 昔からあるお菓子のリバイバルも目立っている印象です。たとえば私が子供の頃はあまりおいしくなかったバターケーキ。〈サヴール〉ではそれがアップデートされていて、丁寧に作られたものがいただけます。バターサンドやカヌレも、リバイバルの一種ですね。
甲 バターサンドなら〈積奏〉。見た目がまずかわいくて、素材の組み合わせにも「こんなのがあるんだ!」と驚きが。「全部食べたい、全部食べてやる!」と思ってしまいます(笑)。焼き方もこだわっているサブレもきちんとおいしくて。
福 気になっていたお店です。すでにチェック済みとはさすが!
甲 ぜひ全種類食べてほしいです。
福 〈ノー・レーズン・サンドイッチ〉もおいしいですね。フードエッセイストの平野紗季子さんがディレクション、〈イコール〉などを手がけるパティシエの後藤裕一さんがレシピ監修をしています。
甲 パティシエが作るものだと、〈シヅカ洋菓子店 自然菓子研究所〉。〈ピエール・マルコリーニ〉出身の方が作っていて、素材のおいしさと、骨太な感じも素敵です。
福 いいですね。同じように焼き込んでいるものだと〈ツヅル〉も好き。クッキー缶やクッキー瓶もかわいいです。
甲 コロナ禍以降クッキー缶やバターサンドの盛り上がりはすごい。焼菓子ってアイドルみたいな存在なのですが、なかでも福田さんが手がけた「チージィーポッシュ」が素晴らしくて。おいしさはもちろん、缶やお菓子の佇まいがいいですよね。
福 甲斐さんにそう言っていただけてうれしい! 特にクッキー缶はアイドルだと思っています。缶はステージで、しおりはチケット。1種類ならソロアイドルで、3種類ならトリオのグループ、のような感じで。
甲 そう考えると楽しいですよね。では、「チージィーポッシュ」はソロアイドルでしょうか?
福 そうですね。二つの焼き加減があるのは、普段はアイドルだけど女優の顔もあるよ、というイメージ。チーズクッキーのバックダンサーとしてレモンのメレンゲがいるような。
甲 そんなふうにして作られたんですね。裏話が聞けて感激!
福 甲斐さんも本に書かれていましたが、推しだから買うっていうのはありますよね。買うこと自体に気分が上がる。
甲 応援したいし、見て幸せ、食べて幸せ、なんですよね。
甲 福田さんの最近の推しはどちらですか?
福 コロナ下に日本進出した〈オー・メルヴェイユ・ドゥ・フレッド〉ですね。家族6人で営んでいて、応援せずにはいられない。現地ではメレンゲ菓子は大きくて食べられないものもあるけど、それが日本サイズになっているのが新しいですね。近所なので、手土産の定番です。
甲 お菓子もパッケージもすごくかわいいですね。私も近所のパン屋さん〈しみずや〉で見つけたくまサブレが永遠の推し。
福 これはもうほかの誰も紹介できないほど、甲斐さんが見出したものとして有名ですね。
甲 レジ横に置かれているクッキーを〝町中華〟にならって「町クッキー」と呼んでいるのですが、この存在が愛おしくて。焼菓子って、食べたいものはどんどん増えていくのに、一日に食べられる量が限られているのが悔しいです。
福 年齢を重ねると特に。でも気になるお店はキリがないんですよね。