冷水希三子、渡辺康啓など6人の料理家に聞く。料理を好きになった、きっかけの一品。 FOOD 2022.12.04

11月28日(月)発売 1215号の料理特集では、最前線で活躍する料理家6人が集結。肩ひじ張らないときに作りたい、あなたの毎日をちょっと楽しく健やかにしてくれる料理を紹介しています。そんな今や大人気の料理家たちにも、料理の楽しさを知った一品との出合いがありました。彼らのターニングポイントとも言える料理を、当時のエピソードとともにお届け。

4.ウー・ウェン×卵とトマト炒め「家中の卵を焦がしても怒らなかった母に、料理の仕組みを教わりました」

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少ない素材、シンプルな調味料で魔法のようにおいしい料理を作り出すウー・ウェンさん。その料理のルーツは、卵焼きにあるという。
「小学校低学年の頃だったかな。学校から帰って、お腹が空いているのに母がいなくて、何も食べるものがない。いつもチャッチャと作ってくれる卵焼きなら自分にもできるかもと思って、真似して作ったんだけど、真っ黒焦げになっちゃって!」
小さなウーちゃま、おかしいなと思いながらも焦がしては焼いてを繰り返し、家中の卵を台無しに。
「まだ卵が貴重な時代ですよ。でも母は全然怒らなかった」
帰宅して家中焦げ臭くて驚いただろうに、黒焦げの卵の山を築いた娘ににっこり笑い、「じゃあ、一緒に作ってみよう」と熱したフライパンに油をひくことから教えてくれた。
「そう、油もひかずに焼いてたの!」
フライパンを熱すること。油をひいてしっかり温めること。卵がじゅっとなったら少しずつ寄せるようにまとめていくこと。ウーさんの定番で、今も家族に作り続ける「卵とトマト炒め」。その基本も、母に教わったことが土台となっている。
「料理は仕組みを知ることが大事。それがわかって初めて、身につくものなんだと思います」

ウー・ウェン/料理研究家。ウー・ウェン クッキングサロン主宰。医食同源に根ざした、シンプルで滋味深い中国の家庭料理を伝える。最新刊『10品を繰り返し作りましょう』(大和書房)ほか、著書多数。
ウー・ウェン/料理研究家。ウー・ウェン クッキングサロン主宰。医食同源に根ざした、シンプルで滋味深い中国の家庭料理を伝える。最新刊『10品を繰り返し作りましょう』(大和書房)ほか、著書多数。

ウー・ウェンさんが教える、卵とトマト炒めの作り方

〈材料〉2人分
トマト…(中)2個
卵…3個
粗塩…小さじ1/3
こしょう…少々
はちみつ(好みで)…小さじ1
片栗粉…小さじ1/2(水大さじ1で溶く)
にんにく…1片
油…大さじ1と1/2

〈作り方〉
1. トマトのヘタを除き、乱切りにする。
2. フライパンに油を入れてしっかり熱し、溶いた卵を流し入れる。油をなじませるように、かたまりつつある卵液を、繰り返し箸でゆっくりフライパンの手前に寄せるようにし、大きな塊を作っていく。
3. 卵をよけてトマトを加え、蓋をするように、よけた卵をトマトの上にのせる。トマトの角が取れて、水分が出始めたら、粗塩、はちみつ、叩いたにんにくを入れて炒め合わせ、水溶き片栗粉を加えて、こしょうをふる。

5.アベクミコ×和梨と胡瓜の生春巻き「ホームパーティで作った生春巻きが料理人の原点。食べる人の笑顔を目の前で見るのがうれしくて」

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2018年に東京・東中野で完全プライベートダイニング〈DDD〉を構え、ケータリングや各地でワークショップなども行うアベクミコさん。
「学生時代から旅行好きだったことに加えて、アパレルブランドで働いていた頃に海外出張が多く、行く先々で出合うアジア料理の魅力に取りつかれたのが最初。日本ではまだ珍しくて、ぐいぐい引き込まれましたね。そのうちに、自分で作ったり、数少ない教室に通ったりしました」
友人と同居をしていた時期があり、週末になると知人たちを招いてホームパーティを開いていたそう。
「その当時、東京にエスニックブームが訪れ、“エスニック料理=生春巻き”が合言葉のように流行った。とにかくよく巻きましたね。皆とおしゃべりをしながら料理を作るのも楽しかったのですが、自分が作った生春巻きをおいしそうに食べてくれる姿を見るのが喜びでしたね」
料理研究家ではなく“料理人”として、お客さんの前で料理をして食べてもらうスタイルのきっかけとなった生春巻き。意外に手間がかかるので今はめったに作ることがないそう。今の気分で作るとしたら? に応えてくれたのが旬の和梨と国産レモンを使い、ブームを超え大人っぽくスマートな姿へと昇華した逸品だ。

アベクミコ/タイ料理人。東中野で完全予約制のプライベートダイニング〈DDD〉を運営。出張料理、料理教室なども行う。近著に『エスニック料理。屋台飯もスパイスカレーも』(成美堂出版)。
アベクミコ/タイ料理人。東中野で完全予約制のプライベートダイニング〈DDD〉を運営。出張料理、料理教室なども行う。近著に『エスニック料理。屋台飯もスパイスカレーも』(成美堂出版)。

アベクミコさんが教える、和梨と胡瓜の生春巻きの作り方

〈材料〉3本分
ライスペーパー(今回は直径15cmくらいのものを使用)…3枚
鶏胸肉…約120g
レモングラス…1/2本
胡瓜…3本
和梨…1個
グリーンカール、サニーレタスなど…3枚
大葉…3枚
国産レモン(スライス)…3枚
ディル…適宜

ソース(ニョクマム、ライムなど酸味、塩味がそれぞれ違うので、必ず味見してお好みのバランスに)
ニョクマム…大さじ1
粗糖…大さじ2
ライムの搾り汁…大さじ2
水…大さじ3
唐辛子(小口切り)…適量

〈作り方〉
●STEP#1 具の準備をする。
1. 鍋に鶏肉がかぶるくらいの水を入れ、沸騰したら斜め切りにしたレモングラスと塩少々(分量外)、鶏肉を入れる。再沸騰したら蓋をし、弱火にして火が通るまで茹でる。鶏肉を茹で汁ごと冷ましてから、食べやすい大きさに割く。
2. 胡瓜は半分の長さに切り、1本はピーラーで薄切りにし、キッチンペーパーに挟み、水気を取る。残りの2本は種の多い部分は取り、幅約5㎜の拍子木切りに。和梨は皮をむいて芯を取り、幅約5㎜の拍子木切りにする。
3. 大葉、グリーンカール、ディルは洗った後に水気をよく取る。レモンもキッチンペーパーなどで余分な水気を取る。

●STEP#2 ライスペーパーで巻く。
1. 乾いたふきんなどの上にライスペーパーを並べる。ライスペーパーが柔らかくなるまで、霧吹きなどで少しずつ水をかけて戻す。少し固めに戻すほうが巻きやすい。
2. 1にレモン、胡瓜の薄切りと拍子木切り、グリーンカール、大葉、鶏肉、梨、ディルを並べる。端から具材を押さえながら強めに巻く。

6.若山曜子×ニューヨークチーズケーキ「小学生の時に初めて作り、今につながる成功体験に。“自分で作る”喜びを教えてくれた大切なケーキ」

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「昔から食への興味は人一倍あった」若山曜子さん。岡山で暮らした子どもの頃は、東京で単身赴任をしていた父を訪ね、おいしいものを食べるのが何よりの楽しみだった。
「それまで食べていた味と一番ギャップがあったのは洋菓子。東京には未知のお菓子がいっぱいで、それはもう魅力的でした。岡山で食べられないなら自分で作ってみようと、挑戦したのがこのチーズケーキです。小学校年生の時だったかな」
お手本にしたのは、藤野真紀子さんや渡辺みなみさんのアメリカンベイキングの本。混ぜて焼くだけの手軽さで「東京のレストランで食べた味が作れた!」と大感激。
「私は実は大雑把で不器用。そんな自分でも作れた喜びも大きかったですね。それからは本を見てお菓子や料理を作ることに夢中になりました」
濃厚なコクと爽やかな酸味が印象的なこのケーキは、クリームチーズを贅沢に使うのがポイント。混ぜ方を少々失敗しても、たっぷりチーズを使えばおいしくなると、若山さん。
「どんなお菓子や料理も『これをこんなに入れるの?』と思ってもまずレシピ通りに作ってみて。失敗なく作ってベースの味を覚えてから、少しずつ量を調整して好みの味を探っていくと作る楽しさが広がりますよ」

わかやま・ようこ/エコール・フェランディを卒業後、パリで研鑽を積み、帰国。初心者でもおいしくできる再現性の高いレシピに定評があり、著書多数。『はじめまして、おやつ』(弊社刊)が発売中。
わかやま・ようこ/エコール・フェランディを卒業後、パリで研鑽を積み、帰国。初心者でもおいしくできる再現性の高いレシピに定評があり、著書多数。『はじめまして、おやつ』(弊社刊)が発売中。

若山さんが教える、ニューヨークチーズケーキの作り方

〈材料〉直径15cmのケーキ型1台分
クリームチーズ…400g
サワークリーム…180㎖
卵黄…2個分
卵(全卵)…SまたはM玉(50g以下)2個(100gより多い場合は卵白を取って調節)
グラニュー糖…130g
バニラビーンズ…1/3本
コーンスターチ…20g
無塩バター…40g

〈作り方〉
1. バニラビーンズは縦に切り、グラニュー糖の中でタネをしごいておく。
2. クリームチーズを耐熱ボウルに入れ、ラップをかけて600Wの電子レンジで1分加熱する。
3. 1のグラニュー糖とサワークリームを2に加えてなめらかになるまで泡立て器でよく混ぜる。ダマになるようなら再度電子レンジにかける。
4. バターを小さめの容器に入れ、ラップをして30秒から1分、様子を見ながら600Wの電子レンジにかけて溶かし、3に混ぜる。
5. 4に卵と卵黄を加えてよく混ぜる。コーンスターチを入れてさらに混ぜる。
6. 底の取れない型に、バター(分量外)を軽く塗り、粉をはたく。太めの十字形にオーブンシートを敷き、5の生地を流し入れて、湯煎焼きする(バットにキッチンペーパーを敷いて型をのせ、2cmほど湯を注ぐ)。
7. 180度に予熱したオーブンで30分から40分、表面が狐色になるまで焼く。そのままオーブンの中で冷まし、粗熱が取れたらアルミホイルをかぶせて1日冷蔵庫で休ませる。

photo:MEGUMI, Norio Kidera, Nao Shimizu styling:Makiko Iwasaki text:Yumiko Ikeda, Yuko Ota, Asami Kumasaka

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