ミロが挑戦し続けるように、自分の限界を決めつけずモノづくりをしたいと感じた。『ミロ展』東京都美術館

ミロが挑戦し続けるように、自分の限界を決めつけずモノづくりをしたいと感じた。『ミロ展』東京都美術館
苅田梨都子の東京アート訪問記# 17
ミロが挑戦し続けるように、自分の限界を決めつけずモノづくりをしたいと感じた。『ミロ展』東京都美術館
CULTURE 2025.03.24
ファッションデザイナー・苅田梨都子さんが気になる美術展に足を運び、そこでの体験を写真とテキストで綴るコラム連載です。第17回目は、東京都美術館で開催中の『ミロ展へ。
苅田梨都子
苅田梨都子
〈RITSUKO KARITA〉ファッションデザイナー

かりた・りつこ/1993年岐阜県出身。4年前に自身のブランドを〈RITSUKO KARITA〉としてリニューアル。

今回は上野にある東京都美術館で開催中の『ミロ展を訪れる。

本展は、1893年にスペイン・カタルーニャ州に生まれた画家ジュアン・ミロ(1893〜1983)の〈星座〉シリーズをはじめ、初期から晩年までの各時代を彩る絵画や陶芸、彫刻により90歳まで新しい表現に挑戦し続けたミロの芸術を包括的に紹介する大回顧展である。

ジュアン・ミロは太陽や星、月、鳥、人物など自然のなかにある事物を記号のように象徴的な形として描き、色彩豊かで詩情溢れる独自の画風で高く評価され、日本でも親しまれてきたそうだ。

私はミロの名は耳にしたことはあるが、代表的な作品のぼんやりとしたイメージしか思い浮かばない。青や赤色を使った絵画の印象で止まっている。今回の展示を通して、少しでも彼の描く世界に触れられたらと思う。

入り口からすぐ、自画像からはじまる第1章では、若きミロの作品が並ぶ。全体的に色鮮やかで太い輪郭が特徴的な絵が多かったように感じる。

『シウラナの小経』を観て、私だったら山景色に紫やピンク色を使う発想はなかなか思いつかないが、色とりどりの緑と融合されることで互いの色が引き立っているように見えた。大胆にウェーブする線と、鮮やかな色合い。

『赤い扇』はどこかアンリ・マティスを彷彿とさせるような色遣いやタッチにも見えた。色合いが絶妙で、とても心惹かれた。できることなら自分の部屋に飾りたいくらい素敵だ。

第2章では、1925年から1927年にかけて「夢の絵画」と呼ばれる100点以上の作品を制作する。モノクロや青、褐色の背景に文字や動的な線、様々な記号を描いた作品が特徴的だ。

《絵画=詩(おお!あの人やっちゃったのね)》1925年 油彩/カンヴァス 東京国立近代美術館

こちらはタイトルにインパクトがあり、ユーモア溢れる作品。褐色の背景に黒の線がゆるやかに走り、そこに印象的な青色が乗っている。

画面にはフランス語で「oh! un de ces/messieurs qui a fait/toutca(おお!あの人やっちゃったのね!)」と書かれている。ゆるやかな黒い線から、私は習字のような印象も受けた。大胆に余白を使うことで、全体的なバランスが取れているように感じた。

《絵画(星)》1927年 油彩/カンヴァスナーマド・コレクション

いくつか作品を眺めているうちに、白の背景にキャッチーなモチーフが描かれている『絵画(星)』に惹かれた。青の星が特に印象的だ。グッズ販売のショップには

別の作品になるが『女と鳥』に描かれている星モチーフが使用されたアクリルキーリングとピンバッジがあり、とても可愛らしかった。平面で見る印象と、グッズになって少し立体的になったモチーフとはまた印象も異なるのが面白い。

続いて第3章では、1936年にスペイン内戦が勃発した影響でミロの絵には陰鬱な背景や怪物のような存在が現れるようになる。その後、ミロの代名詞とも言われる〈星座〉シリーズ23点が描かれた。女性、鳥、星や星座などその後の生涯の作品にも影響されるようなモチーフを描く。

《カタツムリの燐光の跡に導かれた夜の人物たち》1940年 水彩、グワッシュ/厚い水彩用網目紙 フィラデルフィア美術館

本展のキービジュアルとなっている『カタツムリの燐光の跡に導かれた夜の人物たち』は怪しげな雰囲気を纏っている。しかし月のモチーフや線の繋がり、ミロの代表的な青や赤の色遣いが鮮やかで、私は夜のパレードのような愉快な絵にも見えた。

《夜の女》1945年 油彩/カンヴァス ナーマド・コレクション

『夜の女』では、ミロ自身の手をスタンプのように取り入れて自由に描いている。

私が保育園に通っていた頃、手や足に絵の具をつけて絵を描いた記憶が蘇ってきた。幼少期にしかしないようなことや、大人になって忘れてしまいそうな自由な遊び心を、ミロは忘れずに持っているのだなと尊敬の眼差しを抱く。

続く第4章では、陶芸や彫刻の作品にも情熱を傾けていく。また、1965年には長年の夢だった大きなアトリエを手に入れ、大きなサイズの作品に時間をかけ取り組むようになった。

《絵画(エミリ・フェルナンデス・ミロのために》1963年 油彩、アクリル/カンヴァス ジュアン・ミロ財団、バルセロナ(永久寄託)

こちらは1960年代はじめにお孫さんのダビッドとエミリのために描いた作品の一つである。他にはない横長のカンヴァスで、細いシンプルな線に色鮮やかな格子柄が描かれている。小さなカンヴァスに描いたものと、大きなカンヴァスに描いたものでは絵の示す意味合いも変わってきそうだ。

大きな絵画は、引きでゆっくり風景を眺めるように時間をかけて自分の中に落とし込む時間がとても有意義に感じる。美術館に行く醍醐味は、大きな絵を眺めることができるということだと思っている。

ラストの第5章では、改めて西洋の伝統的な絵画技法に挑戦するために、オブジェ作りやますます大きなサイズの作品に取り組むようになる。

右:《焼かれたカンヴァス2》1973年 アクリル/切られて焼かれたカンヴァス ジュアン・ミロ財団、バルセロナ

『焼かれたカンヴァス2』はカンヴァスをナイフで切ったり燃やしたりと、かなりインパクトのある新しいアプローチで作り上げる。

第5章までを通して見てきたミロの作品たちは、詩や立体的な絵、自身の手などを用いるなど、さまざまな技法で描かれている。

その技法の意味として常に新しい景色を見たいという気持ちや、自分の表現のレパートリーを決めつけないような気持ちが垣間見えてくる。

私はブランドを運営するにあたって、こういうイメージがあるから守らなくてはいけないという気持ちと、新しいことに挑戦したい気持ちとでいつもせめぎ合っている。作品の何が正解かはどこにも答えがない。ミロが挑戦し続けるように、私も自分の限界やレパートリーを決めつけすぎず、のびのびとモノづくりをしたいと感じた。

本展では今回の写真や文章に掲載できなかったいくつもの素敵な作品がたくさんある。ぜひ会期中に足を運んでみてはいかがだろう。

『ミロ展』
会期:2025年3月1日(土)〜7月6日(日)
会場:東京都美術館 企画展示室
開室時間:9:30~17:30、金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
休室日:月曜日、5月7日(水)※ただし、4月28日(月)、5月5日(月・祝)は開室
HP:https://miro2025.exhibit.jp/

edit_Kei Kawaura

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