世田谷・赤堤通りのカフェ【愛騒】
”古びたショッピングモールの見放された切なさ”や”仕事終わりの夕暮れの駐車場”、感情から離れた情景の音楽を。
| ある日、あの店のプレイリスト#7
雰囲気の良い、おいしいお店には、心地のよい音楽も流れている気がする。
"食のある場所"の、ある日のミュージックプレイリストをおすそわけしてもらった。
第7回目は世田谷線エリアに潜むカフェ【愛騒】へ。
Spotifyのプレイリストを流し始めれば、あっという間にあの店気分に。ひと休みのお供に。
プレイリストのこだわり|”古びたショッピングモールの見放された切なさ”や”仕事終わりの夕暮れの駐車場”、感情から離れた情景の音楽を
昨年2023年1月にオープンしたという「愛騒」は、世田谷線山下駅から徒歩で約10分ほどの場所にある白枠の大きな窓が目印のカフェ。アンティーク食器や雑貨、本も揃え、レコードプレイヤーからは常に心地のよい音楽が流れこむ店内は、訪れる度に発見のある、まさに行きつけにしたくなるお店です。
そんな愛騒の店主である石川さんに、お店を立ち上げた経緯や想い、とっておきのプレイリストを教えてもらいました。
「普段はクラシックからヒップホップ...本当に様々なジャンルをきいています。でもやっぱり、お店では一応”コーヒーと合うか”を基準にして音楽を探すので、アンビエントっぽいものを流すことが多いかな。お店を始めてから、さらに環境音楽に興味を持つようになりました。歌詞がないものは自分からその時の気分を合わせにいけるのがいいなと思って。お客さんにとっても、そういう音の中での方がお店で自由に過ごしてもらえるのかなと。自分は歌がある曲を聴くときでも、楽器の一部として声があるんだっていう姿勢で聞いています。発語として歌詞を美しいと感じることはあるけれど、その言葉の意味や内容に自分が寄りかかることはないんです。この店の名前である『愛騒』も、漢字の配置の良さと、口に出した時の気持ちよさで決めました(笑)。
あとは、お店が今まさに現在進行形で動いている新しい場所だから、音楽もなるべく新しいものをかけるようにしていますね。今はもちろんデジタル音楽配信サービスがあるから、色々調べられるとは思うけれど、環境音楽のような音楽性って意外とまだまだ世に出てないものが沢山ある。自分で見つけに行かないと本当にいいものとは出会いにくいから、なるべく自らの足を使って探しにいくようにしています。よく行くのは、三軒茶屋と駒沢大学の間にあるKankyo Recordsで、お店の方がおすすめを教えてくれたりもして、いい場所です。
でも最近は、若い人の中でも環境音楽って身近に聞かれるようになった気がしますよね。今は言葉が溢れてる時代だし、例えば落ち込んだ時、ものすごく自分を啓発してくれるtwitterの投稿とかを見た後、さらに続けて自分を励ます言葉尽くしの曲なんて聞こうとは思えない(笑)。だからもしかすると、時代と共に音楽をきく目的自体もメッセージを受け取るというよりかは、単純に音に浸りたいみたく変わっていっているのかもしれない。
今回のプレイリストにセレクトした曲は全部、2024年に発表された新譜です。中でも最近よく聞いているのは、Joseph Shabasonというアーティストの曲。いわゆる聞いていてメロディーが良い曲とかではなく、だんだんと音がその場所に馴染んでいくから、自分もその空間にいることが心地良くなっていくような良さのある音楽なんですよ。
あとは、彼の歌もののアルバムもまた面白くて、ラブソングのような情緒的なものではなく、”仕事終わりの夕暮れの駐車場”、”営業時間外の看板の傾向灯の光”とか、”古びたショッピングモールの見放された切なさ”とかを歌ってるんです。感情とは離れた、人が関わってくる以前の情景や様子を曲にしているから、自然とまわりに滲んでいくような音楽になっている。
僕自身、カフェに一番求めるのは、気取らない環境や居心地の良さだからそういう音楽が見つかると理想だなと思います。うちのコースターの絵は、羽を休められるところを探してるおじさん天使が書かれているんですけど、カフェに寄るだけじゃ日頃のストレス全部が解消できるわけじゃなくても、コーヒーを飲んで甘いものを食べて、音楽に身を任せて、ちょっと羽を休めてまた外に出ていけるような休憩場所になればいいな、と思ってお待ちしています」