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苅田梨都子の東京アート訪問記#3 『石内都 初めての東京は銀座だった』資生堂ギャラリー

CULTURE 2023.10.04

ファッションデザイナー・苅田梨都子さんが気になる美術展に足を運び、そこでの体験を写真とテキストで綴るコラム連載です。第3回目は、資生堂ギャラリーで開催中の『石内都 初めての東京は銀座だった』展へ。

連載第三回目は、以前から気になっていた展示の一つ。
石内都『初めての東京は銀座だった』を観に銀座の資生堂ギャラリーへ足を運ぶ。

展示に伺う前、石内都さんのことはぼんやりと認識していた。思い返すと、2019年から2020年に開催していた『都とちひろ ふたりの女の物語』の展示をちひろ美術館で観ていた。自身の母親の身体や遺品を撮影したシリーズ〈Mother’s〉と、いわさきちひろさんの遺品を撮り下ろした〈1974.chihiro〉からは、お化粧品やワンピースなど長い間大切にしていたモノから“時間”や“気配”を感じる作品だった。可憐で、でもどこか芯のある強い印象を受けた記憶。そんな印象を携えて、本展へ訪れる。

資生堂ギャラリーには一度だけ訪れたことがあり、今回は久しぶりの再訪だ。資生堂銀座ビルに入り、正面奥にある地下の階段を降りる。薄ら暗い空間へと誘われた。

本展は、石内都さんが15歳の頃に初めて東京・銀座に訪れたことと、初めて開催した個展の場所が銀座であることがリンクして始まる。そして2022年6月から2023年5 月まで『ウェブ花椿』連載『銀座バラード』のために撮り下ろした写真から、未発表も含む約30点のオリジナルプリントが展示されている。

受付を通り過ぎると、まずはじめにシンプルでフラットに広がる白い空間に、写真が床に反射してぼんやりと写っている様がとても印象的に感じた。

『石内都 初めての東京は銀座だった』資生堂ギャラリー

まるでひかりの額縁に囲まれているような演出は、石内さんの頭の中を覗き込んでいる気がしてならない。夢の中に浮かぶ大切なものたちがぎゅっと並んでいるように見えた。

壁の一辺には入り口から順に、『香水 花椿』『銀座と帽子』『銀座のスカジャン』が並ぶ。少しだけ、飾られている写真について触れていく。まずはじめに私が気になったのは、この『銀座のスカジャン』だ。

『石内都 初めての東京は銀座だった』資生堂ギャラリー

“新橋ブルー”が目を引くスカジャンの写真。
(新橋色:明るい緑がかった浅鮮やかな青色のこと。洋色名はターコイズブルー。)

詳細は記載されているものの、写真のみで鑑賞した際にほんのり私の記憶と同じ匂いを感じた。それは約9年前、私が21歳の頃。着物生地を解体してブルゾンを作ったことがあるからだ。また、全て着物を使用したわけでなく部分的に用いたところも共通している。私の母は和裁を職としており、着物の反物が実家に眠っていた。それらをお裾分けしてもらいながら新たに古い着物や羽織を探し、買い付け、ほどいて部分的に用いた。その頃も普段から気軽に身につけられるラフなアイテムに古布を使用することに、私は新鮮さを感じていた。なんとなく、この『銀座のスカジャン』には自分と重なるものを感じながらうっとりするように眺めてしまった。

今はデザインした服を工場に依頼し生産するスタイルが定着したが、温もりがあり特別である 一点ものにもやはり惹かれるし、大好きだ。
『銀座のスカジャン』は新橋芸者の方から譲り受けた着物と羽織で仕立てており、石内さんは幼少期に横須賀で暮らしていたようだ(言うまでもないがスカジャンのスカは横須賀のスカである)。また、石内さんの故郷である群馬県・桐生では古くから繊維業が盛んで、スカジャンの素材も桐生で生産されていた。彼女のルーツにまつわるアイテムというところも大変魅力的で、興味をそそられた。 

続いて『銀座天一の天ぷら』『寿司幸本店の蛸引き包丁』『資生堂パーラーのオムライス』が並ぶ。食べ物コーナーだ!食べ物の写真は石内さんのイメージになかったが、構図に彼女らしさが溢れていたように感じた。特に『寿司幸本店の蛸引き包丁』の構図に惚れ惚れした。私のカメラに記録したが、敢えて載せないでおく。実際に足を運んで確かめてみてほしい。

続いて『銀座のミタケボタン』『壹番館洋服店の服』『銀座の草履』と続く。
おめかしや仕立て、資材のコーナーが。東京で服飾資材を探そうとすると、私は日暮里や浅草橋が思いつく。どうやら銀座にもボタン屋さんや刺繍糸屋さんなど幾つかあるそうだ。そういえば銀座には目的を持って訪れてばかりで、ふらりとあてもなく散歩するにもちょうど良さそうだ。手芸店を探しながら散歩してみたいとふと思った。

『石内都 初めての東京は銀座だった』資生堂ギャラリー

続いて今回のメインビジュアルにも起用されている『月光荘の絵具』

説明がなければ、私はハンドクリームのように見えた。愛用しているハンドクリームもこのような形状と素材感だ。また、石内さんがお化粧品を撮っているイメージも相まって。戦時中に販売されていたというデザインは、フランス語で名前が書かれているそうだ。私はライフスタイル上、絵具を必要としていない。けれども、このデザインが今も販売していたら思わず手に取っていただろうな。

『石内都 初めての東京は銀座だった』資生堂ギャラリー

ギャラリーの奥には森岡書店の森岡督行さんと石内都さんとのトーク映像が約20分ほど流れている。今回の写真に記録したアイテムについての紹介や、お店の跡地などを巡りながら楽しそうに話している。
最後まで鑑賞し、今回の展示は個人的に一人で訪問した方がベストだと感じた。理由として、自分と銀座と、そして人生と色々な気持ちに思いを馳せることができるからだ。自分が15歳の頃は何をしていた?私は15歳から数えるとプラス15年しか生きていないけれど、過去を振り返った時にどのような人生を送ったと言えるかな。

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『銀座の香り』と題された二種のカクテルは、この資生堂ビル11階でも飲めるそうだ。お二人のBAR Sで過ごした時間も最後のムービーに記録されている。それぞれの名前の由来や出来上がったカクテルのお話が堪らなかったのでこちらも是非訪れて確かめてみては。そしてお酒が好きな方はギャラリー帰りにBAR Sに訪れてゆったりと時を過ごすのも良さそうだ。

資生堂ギャラリーを後に、私はすぐ近くにあるという月光荘に訪れた。

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展示で見た絵具の販売は終了していたけれど、店内にこっそりと飾られていた。見つけた瞬間、心が温かくなった。今現在販売されているデザインは看板にあるラッパのマークがついている日本語表記の絵具たちだった。パッケージデザインは異なるけれど、ピカピカのアルミでシルバーの名残はある。店内にはお客様も多く、現在もたくさんの方に愛されているお店なのだと感じとれた。

変容していくのは、自分だけでなく街並みや品々など数多くある。今回の石内都さんが写した銀座の記憶を辿りながら、今身近にあるものもこうして時間が経過していくのだと立ち止まるきっかけや銀座の地を改めて認識するきっかけになると良いだろう。

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