カルチャー発ソーシャル行 Meet #16/
『スマイルあげない』+『TAR』
映画、小説、音楽、ドキュメンタリー…あらゆるカルチャーにはその時代の空気や変化が反映されています。そんな「社会の写し鏡」ともいえる、秀逸な作品を編集部Sが紹介。
社会の同調圧力に挑むあの、潰されても立ち上がる『TAR』の主人公。
昨年冬、地元の図書館が「コロナ対策」としてすべての窓を全開にしたことがあり、寒さに耐えきれなくなったお年寄りたちが朝から晩まで近所のマクドナルドの店内で暖をとっていた。彼らを優しくケアしていたのがアジア系のスタッフで、一つのセーフティネット的なるものが成立していた。必ずしも「公」が利他的で「私」が利己的とは限らないわけで。そのマックの新CMソングが、anoの『スマイルあげない』。私は「あの=令和のKYON²」とずっと言い続けていて(2人とも心根がパンクだ)、この歌もCMとは思えない尖り方。歌詞の「僕はニコっとスマイルあげないぜ僕は僕のままのキャラクターで世界をジュワっとあげちゃうぜ」には「笑顔、コミュ力、協調性」といった社会の同調圧力を真正面から叩き斬るような爽快さがある。
あのとケンモチヒデフミの共作によるマクドナルドタイアップソング。CMとMVには店員のあのと、お客さんのあの、2人が登場。キレキレのダンスも話題に。
「スマイルあげられないときがあってもいいやん」という時代の空気を映し出したのがマックだったとしたら、映画『TAR』の主人公、ケイト・ブランシェット演じる大物指揮者には「どんな権力者もいつかは時代から取り残され裏切られる」という宿命が降りかかる。それは残酷だが、不幸か幸福かは私にはわからない。映画館で聴いてほしい音の作り込みをはじめ、この作品の魅力はあまりに重層的なのだが、一つ言えるとしたら、私は人生で初めて同じ映画を2回観に行ったのだった。
映画『リトル・チルドレン』のトッド・フィールドが16年ぶりに監督。今年のアカデミー賞で主要6部門(作品賞、監督賞、主演女優賞など)にノミネート。全国順次公開中。(公式サイト)
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