花井悠希の朝パン日誌 vol.3 夏のプランにそっと入れてほしい故郷三重県のパン屋さん~〈月の温〉と〈HOME COFFEE ROASTER〉~
パンを愛するヴァイオリニスト花井悠希(はないゆき)がお届けする「朝パン日誌」。7月も半ばに差し掛かり、気温も成長を続ける今日この頃。夏休みの予定が頭をかすめる季節になりましたね(私だけ?)。私の出身地の三重県も、容赦無く毎年暑い。伊勢神宮も、あのさらさらと流れる五十鈴川の川音とは裏腹にものすごく暑いです。今日は、夏休みに伊勢参りへ三重に来た時などに、寄り道してくれたらいいなと期待も込めて、三重県のパン屋さんを紹介します。訪れれば、その店の佇まい、おだやかさ、静けさから、涼を感じられること間違いなしの清々しいパン屋さんです。
シンプルmeetsノスタルジー=ポエジー…〈月の温〉の「蒸しぱんのあんバターサンド」など
近鉄四日市駅から車で5分ちょっと。海蔵川の堤防沿い、静かな場所にお店を構える、手包みおやつ「月の温」さん。週の後半だけオープンするこちらは、イートインもオススメ。
お店に到着するとそのノスタルジックな入り口と無垢な店内に、ハッとさせられます。
懐かしさと静けさが同居する空間は、少し背筋の伸びる気持ち
自家製酵素ドリンクのソーダ割り。こちらは甘夏
キュッと爽やかな甘夏ドリンクを飲めば、夏休みにタイムトリップ。扇風機に「あ"ーーー」とやりたくなるほどリラックスして、あんバターサンドを頂きます。
蒸しぱんのあんバターサンド
むぎゅっと密度の高い蒸しぱん生地に、丁寧に炊かれた餡子がこんもりと盛られ、その上に極め付けのバターが美しく乗せられ、サンドされています。お皿の上の様相も美しい。丁寧な手仕事を隅々まで感じる滋味深い味わいに頰がほころびます。
カカオと有機バナナの蒸しぱん
蒸しぱんと蒸しまんじゅうはお持ち帰りして、蒸し直して頂きました。蒸し器の蓋をあけると、カカオの香りがむくむくと立ち上り部屋ごと包みます。待ちきれないお腹がぐぅと鳴ります。たちこめるカカオの香り故、さぞしっかりとしたチョコレート味だろうと思い、一口食べると、驚き。甘さが全くありません!そうか、これはチョコレートじゃなくてカカオだったんだった。ほっこりとした見た目と裏腹に、カカオ冴え渡る大人味です。
苦味を感じられるカカオのおかげで、所々に散りばめられた、加熱され旨味が濃縮されたバナナの甘みが引き立ちます。バナナのもったりとした甘さって唯一無二だよなぁと、バナナを見直したくなる。
生地は、んぐんぐと、蒸しぱんらしい、押し返してくる強さのある粘度高い生地で、口内に絡みつきます。慌てて食べるのは、禁止!少しずつ手でちぎって、一口一口、旨味を噛みしめるように味わいましょう。
蒸しぱんまんじゅう (抹茶)
生地は同じ。こちらは抹茶の香りが華やかです。
はい、イメージするは畳の上、前にはちゃぶ台を思い浮かべましょう。(前にも聞いたなこのフレーズ)そしてこちらは、中に自家製のあんこが包まれているのですが、このあんこが本当に美味しい。
あんバターサンドでもまず感動したのはこのあんこの美味しさ。愛情深く、丁寧に丁寧に炊かれたことがその味わいからよく伝わってきます。愛情ってちゃんと味に現れるから不思議。粒が一粒一粒しっかりたっていて、ほくほくとしている。生き生きとしている。
しっかりと効かせられた塩気は、小豆の美味しさを引き立て、甘みは身体にじんわりと染み渡る心地よい甘さ。ああ、この甘み、身体が求めていたなって、食べることによって今の自分の身体を知れるよう。なんて優しい蒸しぱんなんだ。
開け放たれた窓の外に見える、緑や民家が当たり前の日常を映し、遠い日の記憶がクロスオーバーする。ゆらりふわりと、真っ白なカーテンが風に揺れる様は、とてもポエジー。優しい蒸しぱんと無垢な空間で特別の時間を届けてくれる〈月の温〉さん。心を空っぽにして、ぼんやりと眺めて、暑さのことなんて、意識の遠くへ置いてしまいましょう。
これは真昼の夢?…〈Home coffee roaster〉の「スコーン」
津市にある素敵なカフェ〈tayu-tau〉さんへ行った帰り道、足を伸ばして向かったのは〈Home coffee roaster〉さん。こちらは金・土・日だけ営業のお店です。
ナビが、導く先は山あいの住宅街。右も左も家々が静かに並び、進めども進めども、この地図間違ってないかな?という不安は拭えません。とうとう、ここだとナビが指し示す場所に着いてみても、景色の穏やかな印象は変わらず、目の前には一件のお家。でもぐるりと見渡すと、家の敷地の奥の方に小さく『HOME COFFEE ROSTER』のロゴを見つけることが出来ました。そろりそろりと奥へと進み、家の裏手へ回ると、真っ白な木の壁に、すりガラスと木で出来た扉が映える素敵な入り口が現れました。
先ほどまでの、長閑な時間の流れとはまた別世界の、どこかノスタルジーが香り、時が止まったかのような、物語に出て来そうなお店。さながら住宅街にひっそりと現れたパラレルワールドのようです。
私のお目当てはコーヒーも勿論ですが、スコーン。人気で夕方には完売していることもあるみたいです、この日は5種類残っていました。
手前:「シナモンロール」(シナモンを贅沢に使ったロールスコーン) 奥:「あんきなこ」
ロールスコーンって何だ!?私の中で好奇心の芽がむくむくと急速に育っていきます。スコーンが丸だったり、四角や三角に切り分けられて焼かれていたりするのは知っていても、ぐるぐると巻かれているなんて知らないぞ!?しかも大好きなシナモンロール!なんて出会い!と真っ先にチョイス。
ファーストインプレッションはクッキー。表面はカリッと角がたち、さっくり切れる。口内で表面が崩されていくと、さっくりとした食感の後に滑らかな口溶けがやってきます。もったりとゆっくり溶けていく。それは紛れもなくスコーンの舌触り。そこにシナモンロールのシナモンが芳醇に香り、私の心をかっさらい、シナモンロールなの!?スコーンなの!?クッキーなの!?と甘い甘い疑問の渦に巻き込まれます(シナモンロールなだけに)。朝パンにもいいけど、深いコーヒーと一緒におやつにもハマるスコーン。
あんきなこ
きなこのスコーンはあっても、そこに餡子をプラスしているのは初めて。餡子がスコーンに出会ったらどうなっちゃうの!?と、わたしの知的好奇心をピンポイントに突いてきます。こちらもさっくりしているのですが、餡子が折り込まれているからなのか、先程のもったりとした口溶けよりは、しっとりしつつもサラサラとした余韻が残る生地。そして間髪をあけず、驚きの錯覚が1つやってきた。
『あれ、これおはぎだっけ?』
全体的にきな粉の香りと味がたっているところに、サラリとした生地の口溶けは、きな粉そのものを彷彿とさせる。そこへ、餡子のざらりともっさりとした舌触りの層を掠めると、脳が勝手に和菓子を食べているような気になってしまったみたい。 ぜんぶ、きな粉のせいだ(言いたいシリーズ←そして古っ)スコーンだけど、只者じゃない。
今回頂いた2つは、新感覚のスコーンでした。
入口のイートイインスペースにて。アイスカフェオレもとっても美味しい
こちら、スコーンのアイスサンドもやっておられ、月替わりでメニューも変わっていくそうです。とてもフォトジェニックなビジュアルですよ!さっくりしたスコーンにアイスが挟まれているなんて、想像するだけでも美味しいに決まっている!!夏の間にぜひご賞味あれ。
今回紹介した2店は、種類は違えどどちらもノスタルジーを感じられるお店でした。三重観光の暑さしのぎに、あなたもぜひタイムスリップしてみては?
※今回掲載した内容は取材時のもので現在とは異なる場合があります。