カフェと喫茶店には物語がある。「渋カフェ」その21 無理せず続けられる仕事を選んだ二人。西品川〈picnics*〉で絶品パンを!
Hanakoスイーツ担当が、普段訪れるカフェ&喫茶店の物語をご紹介しています。レトロなテーブル、懐かしくてかわいいメニュー。不思議と落ち着く「渋カフェ」。お茶をいただきながら、マスターやその店それぞれのストーリーに耳を傾けて。21回目は、雑貨の会社に勤めていた夫婦が始めたパンカフェ〈picnics*〉。
今回の渋カフェは西品川の〈picnics*〉。大崎駅、戸越銀座駅から徒歩10分以上歩いた少し先。住宅街の中に、その店はあります。
パン屋さん? カフェ? ちょっぴりミステリアスな佇まい。惹かれてドアを開くと、足元で、看板猫のユメちゃんがお出迎え。
バゲット、サンドイッチ、ピザ、食事パン。棚いっぱいに、いろんな味や形のパンが。ただしその数は厳選された売り切り。「だいたい2~3種類のパンの元から作ってるんですよ」と話すのは、オーナーの髙木文介さんご夫妻。2001年のオープン以来、周囲にあった商店もほとんど閉店してしまい、いまや陸の孤島状態に。でも、ランチタイムには次から次へとドアが開き、常連さんが訪れます。
雑貨やインテリアの会社に勤めていたご夫妻。パン店を始めたのは、「在庫を抱えると大変だって知ってたから、商売をするなら消えてなくなるものがいいなと思って(笑)」
もともと食べるのが好き。でもパンを作るのは苦手だったから、あえてそれを極めたいと思ったそう。誰かに習うわけでもなく自分たちの感覚でパン作りを始め、魚が入った食事パンは魚を一から捌いたり、ルールにとらわれずに好きな形のパンを焼いたり。
「とくに修行をしなかったのが良かったのかな」。二人が独学で作るパンの評判はじわじわと広がり、今では雑誌のパン特集の常連に。
お店の一角に4席のイートイン。珈琲や紅茶、スープも楽しめる小さなカフェ。
スープ300円、ホットドッグ300円。
コーヒーは、最近近所にオープンしたコーヒーロースター〈ドルチェ バッハ〉の、〈picnics*〉オリジナルブレンド。400円。カレーパンは220円。
「カレーパンは、どこのパン屋さんにもあるからずっと出してなかったんだけど、最近作った新作なんです」。インドのサモサにヒントを得た三角形で、ひき肉、ナス、豆入りの雑穀などが入ります。イタリアのピザ生地をベースにした、モチモチの食感。「高温で短時間に焼いた、水分多めのふっくらした仕上げ。甘いパンは、低い温度で焼いてボリュームのある仕上げにしています」
細やかな計算が、各パンに光る。サンドイッチ300円~。
よく催事に誘われたり、もっと手広くやってみたらと言われることもあるそうですが、「借金するならやらないほうがいいし、自分たちにできることを自分たちのペースで続けたいから。100人が100人気に入るパンじゃなくても、売り上げが少なくても、体を壊さずに続けられることが大事だなって」
「サステイナブル」という言葉が世の中に広まるずっと前から、二人はそれを自然に実現していたのです。
「とくに新しいことをしようとしてるわけじゃなく、自然な姿でいいんじゃないかって」
お二人の言葉は続きます。
「よく『雇われる』ってどういうことなんだろうって思うんです。大昔なんて、仕事を自分で見つけて、それで食べていたはず。毎月確実なお給料が入ってくることは確かに安定しているけど、それで自分の生活を縛られて疲れ果てても仕方ないし。出来ることをやって、それをわかってくれる人が少しでもいたら、それでいいんじゃないかと思うんです。みんな、昭和の個人店の時代のような、普通の暮らしに戻ったらいいんじゃないのかな」
美味しいパンが美味しいパンであるには、きちんと哲学があるのです。