軒先に揺れるとうもろこし、八幡さま…金沢に息づく暮らしの縁起物。私の知らない、もう一つの金沢を巡る旅。
おもて・ももか/「目の前の日々を留めて置く作業」をライフワークとしながら、東京を拠点に活動。2024年3月には、自身、2冊目となる写真集『traverse(r)』の出版。ハナコラボパートナー。
Instagram:@fantasy_omote
HP:https://www.momokaomote.com/
私の生まれ育った町は、どこへ行くにもまず山を越えなければならない。そんな辺鄙な場所で過ごした学生時代の楽しみは、週末に高速バスに乗って遠出すること。日帰りで行ける場所となると、夜行バスを使って東京か大阪、気軽に名古屋、そして金沢くらいだった。他の子たちが遠出先にあまり選ばない金沢に行くことが、自分の中では粋な気がして、定期的に足を運んでいたことを覚えている。金沢へ行く機会はすっかり減っていたけれど、思い立てば行ける距離。肌寒い季節に訪れたのは久しぶりだった。

冬支度を始める金沢で見つけた、地域も守るとうもろこし。
冬はほとんど曇り、という金沢らしい空模様の中、まずはひがし茶屋街を散策することに。趣のある街並みを歩いていると、ふと目に入ったのはお店や家の軒先に吊るされた不思議なもの。これは「門守」と呼ばれる風習で、魔除けの効果があるものを軒先に飾って、家内安全を祈念するものだそう。年に一度、〈長谷山観音院〉の四万六千日(しまんろくせんにち)と呼ばれる縁日にて手に入れることができる貴重なもので、江戸時代から続く由緒あるお守りだ。

路地を歩いていると、松の木に美しい手さばきで雪吊り作業をしている庭師のおじいさんがいた。話しかけてみると、〈兼六園〉が雪吊りをすると街中の家が同じように冬支度を一斉に始めるのだと教えてくれた。金沢は季節の風物詩が暮らしに深く根付いているのだと実感する。

次に向かったのは〈高木糀商店〉。この時期のみ店頭で手に入れることができる「かぶら寸し」は、お目にかかれたらラッキーな人気商品。午前中ですぐに売り切れてしまうという。塩漬けにした蕪と鰤を甘酒で漬け込んだ、北陸を代表する漬物。正月料理には欠かせない一品だ。
住所:石川県金沢市東山1-9-3
TEL:076-252-7461
営業時間:9:00~19:00
定休日:年中無休
HP:https://www.takagikouji.com/
車に乗って、兼ねてより行ってみたかった場所にも立ち寄った。〈niguramu〉は、プロダクトを中心に日本各地からセレクトした日用品や雑貨を手に取ることができるお店。主に台所で使える日用品が多くセレクトされているので、引越しを控えている身としては欲しいものばかりで気分が高まる。


住所:石川県金沢市高岡町18-13
営業時間:11:00~19:00
定休日:木曜ほか不定休
HP:https://www.niguramu.jp/
日がくれた頃に向かったのは〈PLAT HOME〉。築100年以上の蔵をリノベーションした趣のある店内で、旬の地元食材を使った和食ベースの創作料理を楽しむことができる。加賀野菜のひとつ、加賀れんこんは金沢市の特産品だ。カニの旨みが凝縮された濃厚な白味噌仕立てのソースでいただく、至高の一皿をお願いした。

住所:石川県金沢市彦三町1-3-4
TEL:076-256-5075
営業時間:17:30〜22:30
定休日:月曜ほか不定休
Instagram:@plat_home
1日目の〆は、ナチュラルワインとコーヒーが飲めるバー〈伊東商店〉へ。音楽好きの店主が選ぶレコードの音楽に耳を傾け、心地良いひとときを過ごす。気がつけば3杯もワインを飲んでいた。最後に店主がドリップしてくれたコーヒーをいただき、身も心もポカポカになって宿へ戻った。
住所:石川県金沢市長町3-8-37
営業時間:14:00〜22:00(最終入店)
定休日:木曜ほか不定休
Instagram:@110shoten
2日目は冬の金沢の醍醐味、老舗料亭でいただく絶品朝食から。

翌日、少し早起きをして車を出発させた。そう、金沢で最も歴史のある料亭〈つば甚〉のかに粥を食べるためだ。11月から年末にかけての2ヶ月間だけ、香箱ガニを使った特別なお粥を食べることができるという。
お部屋へ案内されると、窓の外には美しい眺めが広がっていた。〈つば甚〉の朝食は、この景色をより多くの方に眺めてもらいたいという女将の想いからはじまったそうだ。

まず一膳目は、やさしい味わいの湯斗。だし巻き卵や自家製豆腐、香の物が並ぶ素朴で滋味深いお膳だ。

そして二膳目は、待ちに待ったかに粥。一杯目は香箱ガニとズワイガニの出汁が染みたシンプルな味わい。二杯目は、煮詰めた出汁を餡にして外子(そとこ)を乗せた濃厚な粥に変わる。偉人たちが眺めてきた景色を前に、代々受け継がれてきた伝統の味をいただく。自然と背筋が伸びるような、特別な朝になった。
住所:石川県金沢市寺町5-1-8
TEL:076-241-2181
営業時間:11:00〜14:00、17:00〜21:00
定休日:水曜、年末年始12/23〜1/4
HP:https://tsubajin.co.jp/
〈つば甚〉を後にし、今回どうしても訪れたかった〈安江八幡宮〉へ。この神社は、縁起物としても知られる金沢の郷土玩具「加賀八幡起上り」発祥の地だ。
加賀八幡起上りは、八幡さん(応神天皇)が生まれた時に深紅の真綿で包まれてお顔だけを出した姿だったことから、その姿を形取った人形をつくり子ども達に与え、幸せを祈ったという一人のお爺さんの想いから始まったそうだ。土着的な郷土玩具には人の祈りや時間が宿っている気がして、つい惹かれて集めてしまう。

紫、白、赤、黄、緑の5色にそれぞれ異なる意味が込められているので、自分の込めたい願いに合わせて八幡さんを選ぶことができる。だるま好きの11歳の妹には、健康と成長を願って緑を。自分用には、安全と安泰の赤、達成と縁結びの白を選んだ。願いが叶ったら、八幡さんを返しに来るという楽しみができた。

住所:石川県金沢市此花町11-27
TEL:076-233-3688
参拝時間:9:00〜16:00
HP:https://www.yasue-hachimangu.or.jp/
この八幡さんの絵付け体験ができると聞き、そのまま〈近江町いちば館〉にある〈中島めんや〉に足を運んだ。江戸時代から加賀人形や八幡起上りなど、金沢の郷土玩具を作っている老舗だ。
店内にはさまざまな時代に作られた八幡さんが展示されていて、お手本に一体選ぶこともできる。私は、かなり古い時代に作られたであろう、素朴で味わい深い八幡さんを手本に、顔だけ絵付けをした。

細い筆を使って絵の具で絵付けていくのだが、細い線を描くのが意外と難しい。ちょっと幸薄そうな、なんとも愛嬌のある八幡さんが完成。これはこれで愛らしい。そう思うことにした。だるま好きの母に、新年の贈り物として渡そう。

住所:石川県金沢市青草町88 近江町いちば館地下
TEL:076-232-1818
営業時間:9:00〜18:00
定休日:火曜
HP:www.nakashimamenya.jp
学生の頃に夢中で歩き回っていた金沢の街は、手しごとや祈りの気配が行き交う、まったく別の顔を見せてくれた。年を重ねるほど、旅の楽しみもまた変わっていくのだと思う。

道中、観音町へ訪れた際の出来事。軒先に飾られたとうもろこしの門守を再び発見した。羨ましく眺めていると、「この町の住人は5色の水引で結ばれた門守がもらえるんです」と教えてもらった。たしかに思い返すと、ひがし茶屋街で見た門守は紅白の水引だった。長谷山観音院のふもとに暮らす住人だけの門守があると知り、移住もありかもしれない…。一瞬そんなことを思ってしまった自分がいた。

「来年は、とうもろこしの門守を求めてまた金沢へ」という旅の理由ができたことが、なんだかうれしい。帰路に着く前に駆け込んだお寿司屋で旬のネタを頬張りながら、手に入れるための作戦を立てた。

【予算2,000円】縁起のいい新年の贈り物。〈甘納豆かわむら〉の「豆壺」


金沢にし茶屋街にある〈甘納豆かわむら〉。「豆壺」に使われている美濃焼の壺は季節によって色が変わるそうで、今は黄色の壺。とうもろこしの門守もそうだが、豆は健康や厄払いとして古くから縁起物とされてきたので、新年の贈り物にピッタリだ。
住所:石川県金沢市野町2-24-7
TEL:076-282-7000
営業時間:9:30〜18:00(日祝9:30〜17:00、12/28〜30 9:00〜18:00)
定休日:第1火曜(1月・5月・12月は営業)、年末年始12/31〜1/3
HP:https://mame-kawamura.com/
※店舗や施設の営業情報は取材時のものです。詳しくは各施設へご確認下さい。
text&photo_Momoka Omote coordination_Tomohiro Okusa


















