東京でもなく、埼玉でもなく、神奈川(!!)の魅力、再発見。 児玉雨子のKANAGAWA探訪#1 「週末ショッピングモール人生」―鴨居の<ららぽーと横浜>で映画三昧
神奈川県というとどんなイメージがあるでしょうか。横浜、川崎、横須賀、鎌倉、藤沢、茅ヶ崎、小田原、箱根……などなど、メジャーな観光地が多く、都道府県別の人口では東京に次ぐ第2位の県。「神奈川を制するものは全国を制す!」なんていう高校野球の名言もあったり。でも、「なんとな〜く」わかるけれど、よく知らない県でもあったりします。そこで、神奈川県で生まれ育った作家・児玉雨子さんが地元の魅力を再発見すべく、ゆる〜くぶらっと探訪する新連載を始めます。第1回目は横浜の巨大ショッピングセンターを訪れてみました。
ららぽーと横浜
横浜市都筑区池辺町4035-1
*JR横浜線「鴨居」駅から徒歩7分
https://mitsui-shopping-park.com/lalaport/yokohama/
※映画『しん次元!クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦〜とべとべ手巻き寿司〜』、『バービー』のネタバレがございます。
三連休最終日の日曜日。都内での用事を済ませ、東横線の菊名から横浜線に乗り換えた。
ひそかでゆるやかな趣味のひとつに、巨大ショッピングモール巡りがある。といっても、それに目覚めたのはつい最近。まだまだビギナーだ。ショッピングモールに馴染みがないことを話すと都会出身かと思われるのだが、私の地元はローカルでありながら横浜駅へのアクセスもいい、痒いところだけを抑えてくれる絶妙な郊外であったので、そういった施設が今も作られていないらしい。大きな資本によって画一化された施設だからこそ、地域性が浮き彫りになるような気がする。この神奈川県の街歩きエッセイのお話をいただいたとき、まっさきに浮かんだのが、ららぽーと横浜だった。
2007年に開業したららぽーと横浜の最寄り駅の鴨居は、横浜線というドがつくほど神奈川ローカル線の駅だ。私はちょうど2000年~2010年代に横浜線を使って町田まで通学していて、鴨居は毎日通過する場所であった。しかし映画も服も食事も横浜や川崎のほうが家から近いのもあって、途中下車したことは一度もなかった。
鴨居駅に降りて北口に出ると磯の匂いがする。駅のすぐそばに流れている鶴見川から、その匂いが風に乗って流れてきていた。磯の匂いはプランクトンが発するもので、海じゃなくて川でもその匂いがする時があるらしい。ららぽーと横浜へ行くには、鶴見川にかかっている鴨池橋を渡ってゆく。徒歩五分程度とかなり駅近であるものの、ららぽーとへの道には日差しを遮る屋根のようなものが一切なく、日傘を忘れたこの日は首の後ろをじりじりと太陽が照りつけている感じがした。
ららぽーとに着いて、まずはフードコートに入った。メニューを眺めていると梅蘭という文字が目に飛び込んでくる。梅蘭は横浜中華街に本店がある中華料理店で、名物のやきそばは餡が麺に覆われているのが特徴だ。そういえばここ数年は食べてなかったなぁと思い出して、海老チリ焼きそばセットを注文する。アラームが鳴るあの機械を受け取り、席をぐるりと周りつつ水を取りに行っていた、そのほんの数分でアラームが鳴り出す。なんちゅう早さだ。早足でトレーに載せられた海老チリやきそばを受け取った。
大変失礼ながら、私は梅蘭のやきそばを目玉が飛び出るほどおいしいものだと思っていない。それでも、見つけるとついつい食べてしまう。まったく味がついていないそばの蓋の端っこが妙にくせになる。途中で味に飽きるのも私的梅蘭やきそばあるあるだが、がんばって残さず平らげる。
「おいしい」と「もういい」を繰り返しながらお腹を満たし、TOHOシネマズに入って公開中の映画を探す。約30分後にクレヨンしんちゃんの新作映画、その後に『バービー』の空席もあったので、今日は夜まで映画を二本まとめて観ることに。チケットを先に買い、腹ごなしにショッピングモール内をぐるりと歩けば、ちょうどいい時間になる。そんなに大きなスクリーンではなかったが、席は7割ほどファミリー客で埋まっていた。
テレビアニメ・映画三十周年を記念し、初の3DCGで制作されたクレヨンしんちゃんの『とべとべ手巻き寿司』は、正直言って私は好きじゃなかった。昭和のセクハラジジイが平成のキャラの着ぐるみを被って令和に生きるアラサーに説教する、といった感じで、何度も途中で席を立ちたくなった。これに関してはいつまでもあげつらうことができるので、愚痴はここまで……。
野原家の解釈違いに苛立ち、観なきゃよかった! とさえ思いながら、またショッピングモール内をぐるぐると歩き回った。少し動いて小腹が空いたので、ポップコーンSと爽健美茶を買って今度は『バービー』を鑑賞する。バーベンハイマーの一件があったからか、それとも日曜日の夜だからか……半分も席が埋まっていなかった。
バービーよりリカちゃん派だったので一抹の不安を抱いていたが、始まってみると子供のようにゲラゲラ笑ったりグスグス泣いたりして、あっという間に終わってしまった。奇しくも、しんちゃんもバービーも「かつて幼少期に共にいた存在」ということが強調され、虚構の世界から現実へ言及することも共通していたが、しんちゃんは平成初期の5歳児のままで、一方バービーは現実世界で老いて死ぬ人生を選択することが描かれる。私が慣れ親しんだのはしんちゃんだったけれど、バービーの心境の変化や選択のほうが好きだった。
ポップコーンでお腹が満たされているので、夕飯は家で適当に済ませよう。そう思いながらイヤフォンを耳に押し込める。数時間前まではあんなにイライラしていたのに、Apple Musicで『バービー』のサントラを聴きながら、機嫌よくららぽーと横浜を出た。駅に近づくと、また磯の匂いが漂う。ここにないはずの夜の海の気配を感じていると、『バービー』の主題歌「Barbie World」の「想像するの、人生はあなたが創造するの」というアウトロが流れてきた。