前田エマの秘密の韓国 vol.5 BROWNHANDS GAEHANG-RO IN INCHEON
この連載では、韓国に留学中の前田エマさんが、現地でみつけた気になるスポットを取材。テレビやガイドブックではわからない韓国のいまをエッセイに綴り紹介します。第5回目は、古い建物をリノベーションしたカフェ「BROWNHANDS GAEHANG-RO IN INCHEON」へ。
このカフェがある場所は、歴史や文化を垣間見られる街なのだろう
今回も前回と同じく、空港のある街・仁川(インチョン)へやって来た。
前回訪れた写真の図書館「LA BIBLIOTECA DE FOTO」でワークショップを見学させてもらった日、そこに参加していた韓国人の女の子に声をかけられた。1回目で訪れた「雨乃日珈琲店」でも似たようなことがあったと書いたけれど、どうやら私は、声をかけられやすいようだ。
日本にいた頃はそんなことなかった。日本では「エマちゃんって、結構近寄り難い感じだよね」と言われることが多いので、不思議な気分だ。
隙があるのか、もしくは親しみやすそうな雰囲気なのか、それとも日本に対して興味を持っている若い女の子が多いのだろうか。
理由はどうあれ、語学学校には先生しか韓国人がいないので、とてもありがたい。
私はクラブなどに行かない割に、韓国人の(しかも素敵な!)友人がポツリポツリといるので、愉快に過ごせているけれど、正直な話、語学学校の友人たちのいちばんの悩みは“韓国人の友人ができない”ことなのだ(特にヨーロッパ圏の子たちが苦労しているように思う)。
彼女とお茶をすることになったある日。
いくつか挙げてくれたカフェの中に、なんだかとても気になる店があった。Instagramにアップされている写真を見ながら、かつて訪れたことがあるような、懐かしさを感じたのだ。
「BROWNHANDS GAEHANG-RO IN INCHEON」。
ここは長い間、耳鼻咽喉科の病院として使われていた古い建物をリノベーションしたカフェだ。4階まであり、とても広々とした店内には、ところどころ病院として使われていた頃の名残がある。屋上はルーフトップになっている。
韓国ではここ数年、昔からある韓屋(韓国の伝統様式で建てられた家)や病院といった建物をリノベーションした店が増えており、若者にとても人気がある。そのひとつとして有名なのが、ソウルからKTX(新幹線のようなもの)に乗って2時間半ほどの港町・釜山(プサン)にある「BROWNHANDS BAEKJE IN BUSAN」だ。今回訪れた「BROWNHANDS GAEHANG-RO IN INCHEON」は、ここの姉妹店である。
私が初めて韓国の地を踏んだのは、昨年。2022年の秋の終わりに、ひとりで釜山ビエンナーレを見に行った時だった。
憧れの地にわくわくしつつも、心細い私を夜の街へと連れ出してくれたのが、釜山で暮らす翻訳家の女性だった。お会いしたことは一度もなかったのだが、私の突然の連絡に心よく応じてくださり、映画『オールドボーイ』のロケ地となった中華料理屋でビールと餃子と酢豚を食べ、その次に案内してくださったのが「BROWNHANDS BAEKJE IN BUSAN」だったのだ。
KTX釜山駅からすぐのところにあるのだが、この辺りはチャイナタウンもあり、ロシア系の店も多く、独特の雰囲気がありドキドキした。
「BROWNHANDS BAEKJE IN BUSAN」は100年前に開院した病院をリノベーションしたカフェだ。日本の植民地時代から現在までの間に、中華料理店、日本軍将校の宿舎、治安隊事務所、中華民国領事館、結婚式場とさまざまな歴史を歩んできた建物だそうだ。現在は大韓民国の近代文化遺産にもなっていると言う。1階がカフェ、2階が本屋になっており、ここでもまた、偶然、私は不思議な出会いと巡り合ったのだが、それはまたどこかで話せたらいいなと思う。
そんなこんなで、韓国各地にあるというBROWNHANDSは、私にとってなんだか思い出の場所になっているのだが、このカフェがある場所というのは、古い建物が残っている、つまり歴史や文化を垣間見られる街なのだろう。
ここ仁川には、日本が植民地支配していた時代に建てられた銀行や郵便局が現存していて、日本人街と呼ばれている通りもある。神保町のような本屋が集まる通りもあれば、昔ながらの商店街、映画館もある。どうやらオールド仁川とニュー仁川とに、大きく街を分けることができるそうだ。歩いていると、さまざまな国の言葉が聞こえてきて、私の地元である川崎と少し似たようなものを感じる。ここはソウルのベッドタウンなのだろう。ソウルで仲良くなった友人たちの何人かは、この街の出身だ。
こうやって少しずつ、いろんな街の表情を知れるといいなと思う。