ハナコラボSDGsレポート 劇場映画第一弾『せかいのおきく』が公開。作品に散りばめられた〈YOIHI PROJECT〉のおもい
ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。今回は、ナチュラルビューティーハンターとして活躍するシナダユイさんが、〈YOIHI PROJECT〉代表・原田満生さんに話を伺いました。
映画『せかいのおきく』とは?
“おきく、22歳。声を失ったけれど、恋をした。彼に伝えたい言葉がある。だから今日、どこまでも歩いて会いに行く。つらく厳しい現実にくじけそうになりながら、それでも心を通わせることを諦めない若者たちを描く、愛おしい青春物語。”
江戸の循環型社会を背景に描かれた人間ドラマで、その制作には数多くのおもい、意図が込められています。そこに目を向けて映画を鑑賞するのも一興かもしれません。
映画人としての視点。自分ができることで伝えていくことの重要性
ーーSDGs関連の取材をする中で、開発やアイテムはおもしろいけど、心を動かす内面の部分にも興味・関心が出てきて。そんなとき、100年後の地球に残したい「良い日」を「映画」で伝えていくという〈YOIHI PROJECT〉さんにとても希望を感じ、発起されたことについてぜひともお話伺ってみたいと思いました。まずは、立ち上げの経緯をお聞かせください。
「プライベートな話になってしまいますが、数年前に私は大病を患った時期があり、色々と考える時間ができました。同じ頃、コロナで世の中の価値観が転換期を迎えていたタイミングで、今後、映画とどう向き合っていくか考えていたとき、地域のコミュニティの中で学者の先生たちと出会って話す機会がありました」
ーーサーキュラーバイオエコノミー(持続的で再生可能性のある循環型の経済社会のこと)の研究をされている藤島義之さんや東京大学大学院農学生命科学研究科の五十嵐圭日子教授ですね。
「よくある話かもしれませんが、そう言った研究や活動は、なかなか一般の人たちまで広がらず、SNSも限られたフォロワーしかいない状況。私の中では“伝えている”ことにならなかったんです。そこで『映画というコンテンツを利用しながら伝えていくというのはどうですか』と提案。画期的でおもしろいから、まずはプロジェクトを立ち上げて地球環境などの諸問題を伝えるきっかけに映画をつくろうということになりました」
ーーそれが今作の『せかいのおきく』ですね。これまで環境についての映画って何か問題を訴えるといったものしか見たことなかったので、人と人との関わりやユーモアが救いになる、心が温まる作品は初めてでした。
「ドキュメンタリーで環境問題に触れるものは過去に多々ありましたが、問題が大きい分、複雑で頭でっかちになりがちなんですよね。それ以外のテレビ番組もそうなんですけど、どうしても問題部分の方が大きくなってしまい、押し付けられるような感じになるので、私たちのプロジェクトは中心にまず人間ドラマがあること。ドラマという軸があり、そこに色々な要素を細かく散りばめています」
ーーなるほど。環境に対した訴えなどで騒つくことなく、スッと心に染みるような内容でした。
「学者サイドから言うと、もっとアカデミックな部分を厚くするという視点もありますが、そうではなく、あくまで粋な感じに伝えたいことを散りばめていく。この映画で1番気にしたのはそのレイアウト(構成要素の配置)のバランスです」
ーー映画人としての視点ですね。自然の描写や音の細部まで、こだわりを感じる映像でした。
プロジェクトを機に集まった、志のある名俳優たち
ーー正直なところ、私は名俳優さん揃いで豪華だったことも観るきっかけになったのですが、キャスティングに関してどのように出演の依頼やおもいをご説明されたのでしょうか。
「〈YOIHI PROJECT〉でやろうとしていることを説明しました。出演者の方にはプロジェクトに共感してもらい、『だったら僕も応援します』『私もやります、何か手伝います』と言っていただけましたね」
ーー原田さんのおもいに共感や賛同されての出演ですね。
「プロジェクトの映画ということもあり、資金の面で最初から長編映画を撮ると決めていたわけではありません。どこで公開するのかもわからない、何も決まってない中でこのクラスの俳優は絶対に出てくれないですよね。先に短編を撮り、それをパイロット版(公表予定のものに先んじて製作されるもの)にして資金を集めるという、今までとは違うアプローチの仕方でやりたいということは直接交渉させていただきました」
ーー信頼関係があるからこそですね。糞尿を題材にしていますが、これはモノクロだったこともあり、あまり不潔な感じがしませんでした。美術監督としての狙いもあったんですか?
「今モノクロ映画は観る側に敬遠されるため、企画の段階でなかなか通らないんです。でも、今回はプロジェクトの映画で自由に判断できたため、あえてそうしました。モノクロだと映像からの情報が削られて逆に観る人は集中して表情を見たりするという効果も出ますし、若い世代の方たちに観てほしくてつくっているので、今となっては新しいと感じてもらえるのでないかと、他との差別化も狙ってのことです」
ーー映画の途中で一瞬カラーになるところがありますが、あれはなんでだろう?というのが、個人的に気になった点です。
「あれは監督的な意図でいうと、全部モノクロっていうのも王道の一つではありますが、この作品は現代の人に伝えたいから、一瞬“古臭い映画じゃないですよ、実は新しい映画なんですよ”というメッセージでカラー映像を入れたました。ハッとさせるという効果の一つとしてなんです」
伝えていく。子供、そして海外にも
ーー映画ならではの伝え方や手法なんて、おもしろいですね。そう言ったことも交えつつ、江戸の循環型社会を写していますが、本作品は海外でも上映されたんですよね。
「日本は自然とどう向き合うか、自然に生まれたものをどう活用するかということを積極的にやっていた、歴史的にみても自然としっかり共生していた国民です。だけど、今は忘れられつつあり、海外の方が知識があるので『これは循環型社会の話だよね』って伝わりやすいみたいで、上映した国ではいい反応をいただきました」
ーー映画をきっかけに「こんな暮らしもあったんだ」ということが世代や場所を超えて広く伝わるといいですね。
「そうですね。ただの映画ではないので、プロジェクトとして色々あるコンテンツの一つとして、海外と交流するところまでが目的です」
ーー〈YOIHI PROJECT〉の今後が楽しみです。他の作品についても聞かせてください。
「映画以外にも絵本『うんたろう たびものがたり』をつくりました。伝えるということでいうと、映画だけではターゲットが偏ってしまう。色々な世代に伝えるためでもありますし、絵本というのは持続してつながっていくアイテムだと私は思っています。他にはアニメ版もありますし、ドキュメンタリーも2本制作しています。1本はU-NEXTで配信されているドキュメンタリー『MATAGI-マタギ-』。もう一作品は、炭焼き職人のドキュメンタリー『MARUMO(仮)』で、どうやって人と自然が共生して暮らしていくんだろうという姿と、地域に残っている文化や歴史を若者が継承するのかどうか、葛藤を描いています」
ーーエンターテイメントが何かのきっかけになることを願っています。お忙しいところありがとうございました。
〈YOIHI PROJECT〉
映画『せかいのおきく』絶賛公開中
脚本・監督:阪本順治
出演:黒木華 寛一郎 池松壮亮 眞木蔵人 佐藤浩市 石橋蓮司
企画・プロデューサー:原田満生
2023年4月28日(金)GW全国公開
配給:東京テアトル/U-NEXT/リトルモア
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