ハナコラボSDGsレポート 心意気をまとう。日本の伝統技術が詰め込まれたジュエリーブランド〈KIPPU〉
ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。第70回は、ライターとして活躍する五月女菜穂さんが、ジュエリーブランド〈KIPPU(きっぷ)〉の中野秀則さん、関谷日向さんに話を伺いました。
「かわいい」や「きれい」というライトな入り口から
ーー〈KIPPU〉が始まった経緯を教えてください。
中野秀則さん:元々、私と〈斎藤鍍金工場〉さんが「下町」に地縁があるということで、つながりがありました。それとは別に、私は関谷さんとも仕事をしたことがあって、斎藤鍍金さんのところに工場見学へ行ってみようということになって。工場にはいろいろなパーツがあったのですが、その中の一つに御神輿のパーツがあったんです。
とても緻密で美しかった。その御神輿のパーツを使って、何か新しいことができないかなと話が進んでいきました。ちょうどそれはコロナ禍が始まる直前で、2年前ぐらいの話です。
ーーなぜ御神輿のパーツをジュエリーブランドにしようと?
中野さん:実は最初はインテリアとして活かせないかということを模索していたんです。実際には、海外の展示会でのモビール製作を一つのゴールにしていたのですが、試行錯誤をする中で、もっといろいろな人に届けられたらいいよねということになって。それならジュエリーがいいのではという話になったんです。
御神輿のパーツをつくっている会社さんは何社かあるのですが、浅草にある老舗ということで、〈宮本卯之助商店〉さんを口説きました。
流れは、関谷さんが牡丹や唐草など御神輿のパーツに使われる文様を活かした〈KIPPU〉のジュエリーデザインをして、それをもとに〈宮本卯之助商店〉さんに手作業で掘り上げていただく「彫金」という工程を経て、それを〈斎藤鍍金工場〉さんでオリジナルの「鍍金」をするというものです。
ーー〈KIPPU〉というブランド名をつけられた理由は?
関谷日向さん:〈KIPPU〉は〈斎藤鍍金工場〉さんのブランドという形をとってるんですけれども、代表の斎藤功さんがすごく気風のいい、江戸っ子気質の人なんです。他に候補もあったんですけど、御神輿自体が昔から受け継がれているものですし、江戸っ子らしいつながりを感じさせるブランドにしたかったので〈KIPPU〉としました。
中野さん:斎藤社長はもちろんですが、実際の製作にあたってくださる職人さんなどの心意気も感じます。私らの世代も、そういう気風の良さは受け継いでいきたいなと思うんですよね。
関谷さん:そうですね。あまり下町に馴染みがなかった私にとってはすごく新鮮でした。だからこそ、この雰囲気を活かした名前にしたいなと思ったんです。
中野さん:最初は斎藤社長や職人さんとのコミュニケーションにもドキドキしていましたけど、今は関谷さんの言うことは絶対ですよ(笑)。すごく良い関係性ができています。
ーー具体的にどんな〈KIPPU〉を展開してるのでしょう?
関谷さん:指輪やブレスレット、カフ、ネックレスが中心です。今後はヘアアクセサリーやメンズサイズの展開を考えています。また、今は真鍮製ですが、シルバーでつくった〈KIPPU〉も展開していきたいと思っています。
ーー今はECでの販売が中心ですか?お客様からの反応は?
関谷さん:ときどきポップアップで販売していますが、基本的にECサイトでの販売と、〈宮本卯之助商店〉さんの店頭販売が中心です。
20代後半から60代まで幅広いお客様にお買い求めいただいています。年配の方はもともと御神輿やお祭りに興味がある方が多い気がしますね。コロナ禍でなかなかお祭りに行けず、フラストレーションが溜まっていたり、がっかりされていたりするんですが、そういう方が「御神輿のパーツで出来ているジュエリーだ」と喜んで買ってくださる。
一方、若い方はもともと御神輿やお祭りにそんなに興味があるわけでもないけれど、〈KIPPU〉を見てくださって、格好いいなと思って買ってくださるケースが多いです。
ーーコロナ禍でお祭りが減ってしまいましたよね。〈KIPPU〉は職人さんを経済的に支える役割もあるのでしょうか?
中野さん:職人さんたちに話を聞くと、コロナ禍で仕事が減ったというわけではないようですから〈KIPPU〉が経済的な支援になるという狙いはありません。
一方で、御神輿は大変高価なものですから、毎年、毎年新規でつくるわけにはいきません。修理が基本だそうです。今は彫金も鍍金も熟練した職人さんがつくってくださっていますが、今後は若手職人さんが「御神輿をつくる技術を学ぶ場」にはなり得るのかなと思っていますし、〈KIPPU〉を知ってから御神輿に興味が出て、そこそ職人さんになるきっかけの一つになったら素敵だなと思っています。
ーー職人さんの後継者として若手がいないという現状はあるのでしょうか?
関谷さん:ご一緒している〈斎藤鍍金工場〉さんや〈宮本卯之助商店〉さんを見ている限り、そのような人手不足は感じませんね。特に斎藤鍍金さんには、バングラデシュなど外国の方も働いていらっしゃいますし、元プロボクサーのチャンピオンの方などもいらっしゃいます。
ーー改めて〈KIPPU〉というブランドにどのような思いをこめていらっしゃるのですか?
関谷さん:実は、私自身今回のプロジェクトに関わるまで、「御神輿がものすごく好き」とか「お祭りがなくては生きていけない」というわけではなかったんです。でも、御神輿をパーツとしてみたときに、とても素敵だなと思いました。
御神輿って塊で見ることが多くて、パーツ一つひとつを見る機会はそこまで多くないと思うんですけど、パーツで見ると、ちゃんと手打ちされているし、模様にもちゃんと意味があったりして、すごく細かく作られていることを知りました。
また、鍍金に関しても拘っています。通常、均一に鍍金するのですが、〈KIPPU〉はあえてヴィンテージ感を出すために色むらを出していただいています。〈斎藤鍍金工場〉さんの技術あってこそできることです。
〈KIPPU〉を通じて、そういった技術の素晴らしさや御神輿の魅力が伝わるといいなと思っています。
中野さん:やはりファッションで終わらずにスタイルになっていけたらいいなと思います。インディアンジュエリーやハワイアンジュエリーのように、伝統の技術を生かしたジュエリーブランドとして定着できたら。
「おかげ」というと語弊があるかもしれませんが、コロナ禍によって、改めて日本の「内」に興味を持つ人が増えましたよね。この風潮が追い風となって〈KIPPU〉がより多くの人に知っていただけたら嬉しいです。
ただ、一方であまり深くなりすぎないことも意識してます。「THE伝統工芸」となりすぎると、敷居が高いというか、壁ができてしまう気がするので、あくまで入り口は「かわいい」とか「きれい」とかそういう単純なところでいいんだと思います。
「もっとガツガツやったら?」とも言われるんですけど(笑)、1回売れて終わりではなく、徐々に徐々にゆっくり長くやっていきたいので。
ーー無理しないところがサステナブルですね。
中野さん:そうですね。持続性はよく考えます。「1回に100個注文があって、次からゼロ」より「毎月10個ずつ注文がある」方がいいですからね。
関谷さん:〈KIPPU〉は手打ちにもこだわっているので、そういう意味でも、数に限りがあるんです。〈斎藤鍍金工場〉さんの方でも在庫を抱えすぎないように気をつけています。
ーー今後の展望をぜひ教えてください。
中野さん:浅草の三社祭も今年は開催されましたけど、まだまだコロナ禍で、御神輿を担がずに曳いての開催だったんです。来年こそはもっと活気が戻って、〈KIPPU〉を身につけた方が御神輿を担ぐ姿をみたいですね。〈KIPPU〉を通じて、より日本の良さを知ってもらえたら嬉しいです。
〈KIPPU〉
■宮本卯之助商店:https://www.miyamoto-unosuke.co.jp/
■斎藤鍍金工場:https://saito-mekki.com/