豊かな未来のために、今、みんなで考える。 「幼稚園お受験では、専業主婦=良い母?」4人の賢者が答える、未来のための相談室。
全ての人が尊重される未来の実現のためには、わたしたちの悩みの解決も大切な一歩なはず。すぐには解決しなくても、どう考えればいいのかだけでも、教えて賢者たち!
Q.「幼稚園のお受験で、「専業主婦を装え」と言われた。」
幼稚園のお受験をする際、幼児教室で「この園は専業主婦のお母様を好みますので、面接の際はできれば専業主婦と言ってください」と言われたことにモヤモヤ。世の中(世界)では働く女性=正義!日本の幼稚園では専業主婦=良い母!という、どちらもそれぞれ偏った構図ができているように思いました。(ももあいす/33歳)
A.1 鈴木涼美「あまり近づかないことをお勧めします。」
私の通っていた私立の小学校では、私ともう一人を除いてクラスの全員の母親が専業主婦でした。学校もそれを想定してバザーなどのイベントや小物の手作りなどを色々強制してくるので、母は大変苦労して人を雇ったり仕事を休んだりしていました。もちろんお子さんのことを考えて選んでいらっしゃるとは思うのですが、「専業主婦を好む」園や学校にはそういう慣習がありそうなのであまり近づかないことをお勧めします。というのは、ステレオタイプを緩やかに強制する場所というのは、子供に対しても知らず知らずにステレオタイプを植え付けると考えられるからです。長い目で見れば、多様化していく社会の中で、子供が生きづらくなる可能性すらある気がします。
A.2 イシヅカユウ「少し無理をしてでももっと考えのあう幼稚園を受験なさる方がよろしいのではないでしょうか。」
その幼稚園しか近くに幼稚園が無くて選べないなど、相談者様のやむを得ない事情があるのだろうと想像して、本当に大変なのだろうなと思います。しかし、受験の段階で偽らなくてはならない幼稚園でなく、どうせ受験なさるのなら少し無理をしてでももっと考えのあう幼稚園を受験なさる方がよろしいのではないでしょうか。入園した後も、そういった考え方でモヤモヤさせられたりストレスを感じてしまうことがたくさんあると思うし、母親がそれで消耗しなくてはならない現状にも、私はモヤモヤします。
A.3 太田啓子「入園後もぜひそのモヤモヤを無くさず葛藤し続けてください。」
その幼稚園が「専業主婦のお母様を好む」のはどういう理由なのでしょうね。おっしゃるように、賃労働をしているかしていないかで母親としてのありようをジャッジするということ自体ナンセンスで不合理ですし、「子育ては母親がメインで」というジェンダーバイアスが強そうなのも心配です。そんな不合理な幼稚園なら、入園自体検討し直す選択肢もあると思いますが、それを上回るメリットをお感じということなのでしょうか。あなたのモヤモヤは全く正しいです。そのモヤモヤがありつつも入園させるメリットをお感じということならなんとか折り合いをつけるしかないですが、入園後もぜひそのモヤモヤを無くさず葛藤し続けてください。
Answerers
◆吉村泰典(よしむら・やすのり)/産婦人科医師・慶應義塾大学名誉教授・ウィメンズ・ヘルス・アクション代表。生殖医療の第一人者として、不妊症、分娩など数多くの患者の治療を担当。ウィメンズ・ヘルス・アクションのメディア「わたしたちのヘルシー」(https://watashitachino-healthy.com/)にて、心と体の話を始めるきっかけを発信している。
◆太田啓子(おおた・けいこ)/弁護士。神奈川県弁護士会所属。明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)メンバーとして、主に離婚、セクシャルハラスメント、性被害などの案件を手がける。近著に『これからの男の子たちへ「 男らしさ」から自由になるためのレッスン』(大月書店)など。
◆イシヅカユウ/モデル・俳優。1991年生まれ。2021年に、文月悠光の詩を原案とした短編映画『片袖の魚』で主演としてスクリーンデビューを果たす。雑誌やCM、ショーなどさまざまな媒体で活躍中。体が男性として生まれながら女性のアイデンティティを持つMtFであると公表している。
◆鈴木涼美(すずき・すずみ)/社会学者・作家。1983年生まれ。慶應義塾大学在学中にAVデビューしたのち、東京大学大学院を修了し、日本経済新聞社記者を経て作家に。書評から恋愛エッセイまで幅広く執筆。近著に『ニッポンのおじさん』(角川書店)、『娼婦の本棚』(中央公論新社)など。