理想を追い求め、動き続けている人たちに聞く。 仕事、結婚…生き方を選ぶ。 #7/『16年前に事実婚を選択。何のための「結婚」か、2人でよく話し合った。』国際NGOジョイセフ・小野美智代さんの選択。

SUSTAINABLE 2020.12.22

働き方に結婚、出産や自分の体について…、日々は選択の連続。突きつけられる選択肢に迷ったり、間違ったり、軌道修正をしながらも、自分の道を歩み続ける、わたしたちの話。「どこで」「誰と」「何をして」働くのが自分にとって心地よいのか。理想を追い求め、動き続けている人々の話。今回は、NGOジョイセフの市民社会連携グループ長として従事しながら、「I LADY.~Love, Act, Decide yourself」と地元でコミュニティ「HiPs」を主宰し、ジェンダーフラットな社会を目指して活動している小野美智代さんにお話を伺いました。

別姓を貫き通すために、法律婚を諦めた。

小野美智代さん

たびたび議論にあがるも、未だ実現していない「選択的夫婦別姓」。「結婚はしたいけれど、どちらの名字も変えたくない」、そう考えた小野美智代さんが結果的に事実婚を選択したのは今から16年前のことだった。「私が旧家の出身で2人姉妹なので、幼い頃から祖父母に“(名字を絶やさないために)婿をとれ”と言われ続けてきたんです。パートナーは、『自分の名字が変わることは構わない』と言ってくれたのですが、私は、関係は対等なはずなのにどちらかだけに負担を強いるのが嫌だった。だから婚姻届を書いて、“婚姻後の夫婦の氏”という欄は夫にも妻にもチェックを入れず空欄のまま提出したんです。今の日本ではまだ『選択的別姓』は認められていませんから、もちろん受理されず…。法律婚は諦めました」そうして事実婚状態となった2人。婚姻届を出す代わりに互いに実家からの籍を抜き、それぞれが世帯主となって個人の新しい戸籍を作り、その本籍地を同じ住所にした。「結婚は、実家(親)から自立して、相手とパートナーシップを築くこと。新しく籍を作るという手続きを踏んだことで、同棲とは違う“結婚の覚悟”のようなものができた気がします。それに実生活でも、住所が同じだと“家族”と認められることが多いので何かと便利なんですよね」

結婚となると、人だけの問題ではなくなる。今よりもずっと結婚に関する価値観も画一的だった時代、パートナーや家族はその選択をすんなり受け入れてくれたのだろうか。「彼は、『どうしてそんなに名字にこだわるのか』と不思議がっていましたが、たまたま身近に事実婚を選択している先輩がいたので、会って話していくにつれて事実婚へのハードルが下がったようです。私の父はおもしろがってくれていたようでしたが、母ははじめショックを受けていましたね。自分が男の子を産めなかったことで私が家を継ぐプレッシャーを感じているのではないか、など複雑な思いがあったようです。一方で義母は、彼女自身が改姓した後、実家の手続きで苦労をした経験があったということで『そんなことで結婚が進まないなら、事実婚でいいじゃない』と背中を押してくれました」

子どものの親権や老後について今の法律でできること。

2人が共に納得し、家族の理解も概ね得られている。しかし次に、「子どもができたら」「自分たちが年をとったら」という疑問が湧いてくる。小野さんは「どちらかが亡くなる日がわかったら、前日に籍を入れようって話しているんです」と笑う。「現在の法制度で解決できないのは配偶者だと控除される“税金”です。婚姻関係にないと配偶者ではないので、たとえ相続人になれても税金はかかる。それは悔しいですよね(笑)。子どもは、出生後に何も手続きをしないと名字も親権も母のものになり、夫は認知というかたちをとることになります。妊娠中に『胎児認知届』を出しておくとその後の手続きがスムーズです」

ここまで話を聞くと事実婚のデメリットはあまりないように思えるが、「あえてデメリットをあげるなら」と小野さんが教えてくれたのが「所得税、相続税、贈与税など税的な配偶者控除が受けられない」ことと、「特別養子縁組ができない」ということ。「私たち夫婦は、お互いが経済的に自立している状態でした。パートナーとして対等な関係性で、新しい家族という絆を築きたかった。だからこそあえて選んだ〝事実婚〞でしたが、早く日本でも選択的夫婦別姓が認められ、様々な法制度がアップデートされることを願っています」何のために結婚をするのか、自分と相手が大切にしているのは何なのか。常識といわれているものを一度疑って、よく話し合い、ベストな方法を粘り強く考えるそのプロセスが、法律で定められた婚姻関係よりも強い絆を育んでいる気がした。

迷った時の支え…ランニング×マインドフルネス

小野美智代さん

「悩んだり迷ったりしたら走ります。走ることでストレスが軽減されて、本当に自分が向かいたい方向が見えてくるんです。2017年には初めて大会にも出場し、フルマラソンも4回完走。自分が主宰する『HiPs』では、月に一度満月の下を仲間と会話しながら走る“満月ジョグ”を定例会にしています」

My decision

・どちらも偏った負担を背負わないようにする。
・何のための「結婚」か、2人でよく話し合う。
・必要な手続きは端折らずにきちんとして損をしない。

Biography

・1998:立教大学「ジェンダーフォーラム」に入職する。
・2003:国際協力に関心を抱き、NGOジョイセフにて勤務する。
・2008:ジョイセフで広報グループ長として活動。長女を出産する。
・2013:女性の「健幸美」を支援するコミュニティ「HiPs」発足。
・2014:次女を出産。
・2015:市民社会連携グループ長に。静岡県立大学非常勤講師を併任。

小野美智代(おの・みちよ)

NGOジョイセフの市民社会連携グループ長として従事しながら、「I LADY. ~Love, Act, Decide yourse lf」と地元でコミュニティ「HiPs」を主宰し、ジェンダーフラットな社会を目指して活動中。

(Hanako1190号掲載/photo:MEGUMI, Tomo Ishiwatari, Andy Jackson, Keiko Nakajima, Naoto Date illustration:Manako Kuroneko text:Rie Hayashi, Mariko Uramoto, Makoto Tozuka, Miho Oashi, Rio Hirai edit:Rio Hirai)

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