機織りの音が心地よく響き渡る町。 富士山麓の織物産地・富士吉田で『FUJI TEXTILE WEEK 2021』を開催!
富士山から湧き出る豊かな水で、織物の町として栄える山梨県・富士吉田市。近代化の流れとともに、一度はテキスタイルを取り巻く産業が衰退したものの、1000年以上続く織物産地として、少しずつこの地に人々が戻ってきました。産業の再生を図るプロジェクトが立ち上がり、クリエイターなど観光目的以外の人々が集まってきています。そんな富士山の麓の町で、2022年1月9日まで開催される『FUJI TEXTILE WEEK 2021(フジテキスタイルウィーク2021)』。一足お先に体験してきたので、ご紹介します。
産地の情報が集まる観光案内所。
新宿駅から富士回遊7号(河口湖行)に乗車して、約100分。富士山駅に到着します。駅を出て左手のバスチケット売り場の隣にあるのは、観光案内所「ハタオリマチ案内所」。ここでは、織物の歴史や工場見学の情報を聞ける他、職人たちが丹精込めて作った商品を購入することもできるんですよ。
織物の町ならではの、織物ガチャを発見!織物の生地を使った可愛い「くるみボタン作り体験」も人気です。店内には、所狭しと美しいテキスタイルが並ぶので、お気に入りの一枚を見つけてみてくださいね。
駅を挟んで「ハタオリマチ案内所」の反対側にあるのは、ショッピングセンター「Q-STA」。こちらでは、富士吉田で生まれた傘やネクタイ、ストール、御朱印帳などをゆっくり見ることができます。
いざ、機織り工場へ!産地のリーダー的存在〈テンジンファクトリー〉。
まず最初に訪れたのは、リネンの織物工場〈テンジンファクトリー〉。フラックスと呼ばれる植物から採れる糸(リネン)を、機械で丁寧に紡いでいきます。
手に持っている細長いものは、「シャトル」という横糸を差し込むための道具。左右に行ったり来たり、高速で動くことによって横糸を織っていくんですよ。
〈テンジンファクトリー〉はあえて古い織り機を使っているのが特徴的。新しい機織り機だと、「織物の耳」と呼ばれる生地の端部分をほつれないように縫製する必要がありますが、古い機織り機を使うことで、その工程が不要になるんだとか。
工場の向かいにあるのがショールーム。こちらでキッチンクロスやカーテン、ストール、ベットカバーなどに触れることができます。
こちらは紡ぐ前のリネン(左)と、出来立てのキッチンクロス(中央)、何度か洗った後のキッチンクロスです。洗えば洗うほど、白くなるのが不思議ですよね。使っているうちに、ふわふわでトロっとした風合いになってくるので、愛着が湧くこと間違いなし!
若手が集まる機屋さん!〈光織物〉へ。
次に訪れたのは、お雛様の生地や掛け軸など、和に特化した生地を得意とする〈光織物〉。色やカタチを含め「古くからあるものをポップに変えていこう」という考えのもと、東京造形大学とタッグを組み、多くの新商品を生み出しています。御朱印帳も可愛いですよね!
ワークショップを開催しているので、オリジナル御朱印帳つくりも体験可能。ショップはいつでもオープンしていますが、ワークショップは事前予約がおすすめです!
こちらは昔ながらの銭湯を彩るモザイクタイルのツヤと立体感を表現した、銭湯ブランド〈IIYU TEXTILE〉のタイルシリーズ。生地の光沢感がタイルそのもの。
取材時はチェアカバーを見せていただきましたが、お風呂桶がすっぽり入る「オケバック」、小銭入れ「フロセンウォレット」、ポーチ「ニューヨクポーチ」なども展開しています。遊び心のあるネーミングに、クスっと笑ってしまいます。
最近では、防災グッズを制作するなど、活動の幅は広がるばかり。「コロナ禍で、今ある技術をどう生かすか?」を考えたとき、織物だけでなくカテゴリーを超えたアイデアが湧いてきたそうです。昔ながらの技術を新しいモノに活かしていく。既存のものに捉われず、チャレンジする姿勢も〈光織物〉の魅力です。
圧巻の技術力!極細の糸が紡ぎ出す〈武藤〉のあたらしい世界。
〈武藤〉は世界でもトップクラスの極細糸を扱っており、知る人ぞ知る技術力の高さが魅力。絹織物の技を極薄ストール作りに繋いだ先代。そしてそれを継ぐ若い織手たちが、日々、新たなアイテムをつくり出しています。
〈武藤〉も〈テンジンファクトリー〉と同じく、「織物の耳」がきれいに仕上がる、古い機織り機を使用しています。
取材時に行っていたのは、ピン刺しという工程。万が一、どこかで縦糸が切れると、このピンが落ちて機械がストップする仕組み。間違って、糸が抜けたまま織り続けることがないよう縦糸一本一本にピンを刺していくそうです。気が遠くなるような作業。本当に頭が下がります。極細糸を扱うからこそ、機織りの途中で縦糸が切れてしまわないよう、細心の注意を払っているんですね。
極繊細な素材を織り上げて作る〈武藤〉の製品は、どこか軽やかさを感じるものばかり。透け感のあるストールや、厚みがありつつもふんわりと柔らかなタオルなどが並びます。
富士吉田に来たら食べたい!昔ながらの「吉田のうどん」。
富士吉田といえば「吉田のうどん」!ということで、コシの強い麺とこだわりのスープが人気の〈源氏〉へ伺いました。吉田のうどんは、歯応えのある麺と、出汁の効いた味噌と醤油の合わせつゆが魅力。添えてある茹でキャベツが、相性抜群なんですよ!
テーブルの上には、山椒と胡麻、唐辛子などから作られる「すりだね」という薬味が置いてあり、店ごとに味わいが異なります。最初はおつゆをそのまま、しばらくしたら「すりだね」で味の変化を楽しんでみて!
町全体がアート!『FUJI TEXTILE WEEK 2021』を堪能。
本町二丁目商店街の入り口に佇むのは「旧スルガ銀行」。今後、スタートアップの店舗や事務所が入る予定のこの場所では『トキノカゲ』(大巻伸嗣)という作品に触れることができます。
空中を舞う、大きな黒い布。吹き上げる風や室温とともに舞う高さが変わり、一瞬として同じ表情はありません。いつまでも眺めていたくなる作品。取材は昼間に伺いましたが、夜になると不規則に照らされるライトの光で、布が現れたり消えたり。異次元に迷い込んだかのような感覚を覚えます。
2階にのぼると、コラボレーション展示がお目見え。「渡邊竜康 × Watanabe Textile」の空間にはテイストの違う白い布が置かれています。ここにあるのは「何もないけど全てある」世界。窓から差し込む柔らかな光を感じながら、作品とともに映し出される”影”も楽しんでくださいね!
「トモコ イズミ × 宮下織物」には、存在感たっぷりのドレスが登場。今大注目のデザイナー・トモコ イズミが色や柄選びから共に開発し、宮下織物の生地をつかって仕上げた渾身の作品です。
3階には、産地に所蔵されていた大正時代から昭和にかけてのアーカイブ生地を展示しています。現在のテキスタイルデザインや商品に関するアイデアソースが盛りだくさん!150点以上に及ぶ貴重なサンプルに触れることができるのはここだけなので要チェック。
また生地展示の奥には富士吉田市の誇る、個性豊かな10社のプロダクトを見ることができるスペースもありますよ!
隣の部屋には、10社のハンガーサンプルがズラリ!服地からマフラー、傘生地まで幅広い生地サンプルを見ることができるんです。立体感のある生地やボヤッとした模様に仕上げた珍しい生地などが並びます。
屋上にのぼると、こんな作品も。タイトルは「裏地 / 裏富士」(西尾美也)。ひょっこり穴から顔を出すと、富士山をバッグに自分自身も富士山になったかのような写真を撮ることができますよ!
お隣のお部屋では、小学校で使われなくなった壊れた椅子に生地をかけた作品が置かれていました。パリッとした硬めの生地で包んでいるので、実際に座ることもできるんです!「旧スルガ銀行」内をめぐるだけでも、どんどん生地の概念が変化していきますよ。
ゆっくり歩いて周りたい!町に溢れるアートスポット。
約40年前、人気喫茶店として多くの人が出入りした〈旧ニコル喫茶店〉。急な階段をのぼると、「ひっつき虫」の愛称で知られる「オナモミ」でつくったアートが登場します。タイトルは『Species』(高須賀活良)。
古くから植物と人は共存しながら生きました。互いに頼り頼られ生きてきたかけがえのない存在。その関係性を今回の作品で表現しています。「オナモミ」にくるくると赤い糸を巻きつけ、ひとつひとつをくっつけていく、長い長い時間をかけた作品です。
宮川橋横空き地に現れたのは大きな球体作品『INTER-WORLD/SPHERE』(奥中章人)。中に入っている人影から、その大きさがお分かりになるでしょうか?ファスナーで閉じられた入口を開け、四つ這いになりながら中へ進むと、突如、広い空間にたどり着きます。中にはフィルム紙が貼ってあり、外の光によって色が変化していき、思わず目が奪われてしまいます。
お天気の日、曇りの日、雨の日、夕暮れ時、それぞれ異なる表情を見せてくれるので、色の変化を楽しんでみてくださいね。奥の空間までたどり着いたら、立つのではなくゴロンと寝っ転がりながら、眺めるのがポイント!風が吹くと、球体そのものがゆらゆらと揺れるので、海の中を泳いでいるような心地よい揺れに眠くなってしまうかも!?
約70年近く続いた〈旧すみれ洋装店〉。4つの元号を生きた、すみれおばあちゃんが経営していましたが、数年前に惜しまれながらも閉店。すみれさんは、今でも現役で、足踏みミシンを動かしています!
イベント期間中、店内では横糸を抜き、縦糸だけを残した作品『Loosening Fabric #6(Entangled)』(手塚愛子)を展示。完全に横糸を抜いてしまうと原型がわからなくなってしまうため、10cm間隔で横糸を残し時代の変化を表現しています。他にもすみれさんが実際に使用していた歴代定規や、手塚さん作の遊び心あふれる刺繍にも出会えます。
刺繍にある「Gachaman」は、富士吉田の人であれば誰もが知っている言葉。かつて織物の町として栄えた時代、1回機織り機の「ガチャ」という音で1万円が儲かっていたことから、「ガチャマン」という言葉が生まれたそうです。この町に活気が溢れていた頃の代名詞とも言える言葉!『FUJI TEXTILE WEEK 2021』を訪れたら、ぜひ立ち寄ってみてくださいね。
新世界乾杯通りに抜ける道に現れたのは、透け感のある白いファブリック。光と風に揺られて、一気に幻想的な世界へ。
歩き疲れて小腹が空いたら、本町通りにある〈喫茶檸檬〉へ。10月にオープンしたばかりのお店ですが、新メニューが続々と登場しています。14:00〜17:00 は、お好きなケーキ(最後のチーズケーキ/富士ガトーショコラ)と飲み物のセット販売もスタート。今回は、甘すぎない「珈琲牛乳」(瓶)と、「富士ガトーショコラ」をいただきました!
ねっとり濃厚なガトーショコラは大満足の一品。コーヒーはもちろん、お酒の〆にもぴったりなので、ぜひオーダーしてみてくださいね。
富士吉田の町がアートに染まる『FUJI TEXTILE WEEK 2021』。バスタ新宿からは直行バスも出ており、約2時間で到着します。ゆっくり宿泊して巡るのもよし、日帰りでサクッと楽しむもよし。今年の冬はぜひ富士吉田市に足を伸ばしてみてください!
『FUJI TEXTILE WEEK 2021』
■12月10日〜2022年1月9日
■公式サイト