〈+CEL〉インタビューvol.6 (後編)
蒐集家の郷古隆洋さん、コレクターは買うことが 仕事だけれど…子どもには何をどう、買い与える?
ランドセルブランド〈+CEL〉と子どもたちへ受け継ぎたいものについて話を聞くインタビュー企画、シリーズ第6回目。前回に続き、ヴィンテージ雑貨を扱う〈Swimsuit Department (スイムスーツ・デパートメント)〉オーナー郷古隆洋さんに話を伺います。後編では、郷古さんが〈+CEL〉のランドセルをチェック。長男は今年、小学校へ入学。ランドセル選びでこだわったことは何だったのか、また、子どもの“これ、欲しい!”にどう答えているのか、話を伺いました。前編の記事はこちらから。
柚木さんのアートを開くたびに見ることができる。
――この4月で上のお子さんは小学校一年生。ランドセル選びはどのようなことにこだわりましたか?
「僕は、学生時代ずっとバスケットボールをしていて、小学生のころから背が高かったんです。で、五年生のときにいよいよランドセルが背負えなくなって(笑)。学校の先生に、もう使わなくていいよ、と言われて手提げに教科書を入れて登校していた。だから、自分自身がそんなにランドセルってどういうものか、どうこだわれば使い勝手がいいんだっけな?と、身に覚えがなくて。ただ、硬くてゴツゴツしているようなイメージはなんとなく残っています。でも、今のランドセルは、背が伸びていく過程を考えて背負いやすさにもとても重点をおいていますし、背負ったときの軽さも段違いですね。この〈+CEL〉のランドセルも持ってみて、すごく軽いことに驚きました」
――クラシックなフォルムのよさを活かしながらも、現代的な使いやすさや、細かな意匠にもこだわりを持っているが〈+CEL〉のランドセルです。ランドセルの蓋の「カブセ」の裏には、染色家の柚木沙弥郎さんの作品があしらわれているのも特長ですね。
「そうそう。これは驚きました!仕事柄、柚木さんの作品もいくつか持っていますし、偉大さももちろん知っている、子ども時代からランドセルを開くたびに柚木さんの作品を見ることができるなんて、とても贅沢なこと。ランドセルが神々しく感じますよ。このファブリックの柄とランドセル本体の色選びも選択の幅があるのもとてもいいと思いました。子ども達だって、自分で選びたいじゃないですか。表のカラーはこれがいい、じゃあ中の生地はこの模様が合うな、と選ぶのは楽しいはず。自分で選ぶと、その分、大事に物を使うことができるんじゃないかなと思います」
――そうですね。
「あと、これかわいいですね」
―ランドセルに提げる付属の反射キーホルダーですね。このロゴマークも柚木沙弥郎さんが〈+CEL〉のために書き下ろしてくださったものです。染色でつかう型染の技法を用いて作ったものだそうです。
「こういう小さなマークとか、子どもは忘れないものですよね。大切に持っておきたいものになると思います」
最終的に、自分たちで決めてもらうのがやっぱりいちばん。
――ふだんの郷古家では、子どもたちの使う物選びはどのようにされているのでしょう?
「僕は、蒐集することが仕事なので、常にあれこれ買い物をしているように子どもたちには見えているようです。まあ、実際に気になったものは、買っているのですが…。でも、子どもたちからは『パパは、もう物を買わなくていいよ!』と言われる始末(笑)。自分が欲しいと思うものを買っているのに、子どもが欲しいと思うものはダメとはなかなか言いにくい。だから、あまり頭ごなしにダメとは言わないようにしています。ただ、やっぱりなんでもいいわけではなくて、すぐに飽きて使わなくなる、遊ばなくなるものは、よくないよね、という話はしっかりして。前編の話と同じですが、ひとつ一つの物を大切に使うことは大前提としてあります。でも、最終的に自分たちで決めさせるのがいちばんいいんじゃないかなと思います。持ってみて、やっぱりうまく使えなかった、すぐ飽きちゃったね、というのも大事な経験なので。無闇に選択肢を狭くするようなことはしたくないです」
――そういうお話は親子でたくさんされるのでしょうか。
「僕は今、東京の住まいと福岡の太宰府の家の二拠点生活です。月の半分しか子どもたちとは過ごせていない。だからこそ、福岡にいるときには、生活は完全に子ども中心。お風呂でじっくり話をしたり、いろんな遊びをしたり。外に会食に出るなんて機会はめっきり減りました。あとは、僕が不在の間、家のことを任せている妻のためにも、妻が自由な時間を作ってあげたい。たった2週間でも会わないでいると、こんな言葉を話せるようになったんだとか、身長がすごく伸びているとか、本当に子どもって変わるんです。そういう変化をできるだけ見逃さないようにしていきたいです」
――だんだんと年齢を重ねて、いろんなことがわかるようになると、自分の家にあるさまざまな貴重な物に対しても新しい発見がありそうですね。
「そうですね。たくさんの古い物に囲まれて暮らしていることが、彼らに何かいい影響を与えてくれたらいいな、とは思っています。最近だと、地球儀を買って欲しいと言われて買ったんです。それをみながら、このガラスの器はここで作られたものだよ、とか、そこに行くにはまず新幹線に乗って、それから飛行機に乗って行くんだよ、みたいな話もしています。遠くからやってきたもの、ずっと古い昔の時代のもの、さまざまな歴史や物語がある。物に興味を持ったとしたら、大人としてちゃんとどういう意味があるものなのか、どうやって大切に作られてきたものか、話してあげることも大事なことなんだじゃないかと思っています」