〈+CEL〉インタビューvol.5 (前編)
造園家の齊藤太一さんが、子どもたちに受け継いでいきたいのは
自然の中で育ったという毎日の記憶。
神奈川県川崎市にある〈SOLSO FARM〉はじめ、数多くのショップや農場などを運営し、商業施設や公共施設、オフィスなどのランドスケープデザインやグリーンコーディネートを手掛ける造園家として国内外から注目を集める〈DAISHIZEN〉代表の齊藤太一さん。その素顔は、自然を愛し、家族を大切にするひとりの父親。ランドセルブランド〈+CEL〉と子どもたちへ受け継ぎたいものについて話を聞くインタビュー企画。シリーズ5回目では、齊藤さんが「未来へ託したいもの」とは、何かを教えていただきに、ご自宅へとお邪魔しました。
窓の外のアライグマやタヌキと目が合うこともある。
――都心の住宅地とは思えない、緑が迫る窓からの眺めが素晴らしいですね。
「等々力渓谷とほぼ隣接している敷地をみつけ、この家を建てました。斜面であることを利用して、半地下にリビングダイニングを置き、リビング階からエントランスのある1階まである大きな窓を設置しました。四季を通して、緑を身近に感じる暮らしができれば、と。渓谷の森と馴染むように、庭のグリーンは僕がデザインをしました。在来種の植生を活かしながら、観賞用の植物を50種ほどバランスよく植えて。住みはじめて、5年、この場所に新しい多様性を生み出しているのではないかと思います。果樹が増えたり、新しい住処を提供したりと、意外と近所の虫や動植物たちにいちばん喜んでもらえる家になっているのではないかと思います。いつでも、自然が身近にある。こういう景色の中で育ったことを、子どもたちの記憶に残していきたいなと思っています」
自然との遊びを“危ないから”とやらせないことはしたくない。
――お子さんは4人。この家で暮らすことで自然との関わり方を学んでいると感じますか?
「そうですね。本当に身近なんですよ。アライグマやタヌキが窓の外を歩いているだとか、夏になれば窓に懐中電灯を向けるとクワガタやカブトムシをみつけることもできます。カマキリだってたくさんいますよ。わざわざどこかに昆虫採集しに行こうとしなくても、ふと目をやれば、生き物と目が合うという環境です。都心でもそれだけの暮らしができるというのは、いい発見でした。子どもたちもそれが当たり前になっているのがいいなと思います。家にちょっと大きなクモがいても慌てないですから。『あ、クモちゃん、入ってきちゃったんだね。外に行こうね』って箒ですくって、外にだしてあげる。虫を虫籠に入れることもあまりしないです。観察するために短期間入れておくのはいいよ、と僕も言うんです。でも、1日以上はダメだよって。だって、ほとんど同じ場所で暮らしているわけだから。今ここに住んでいることが虫や動物たちと一緒に暮らしているようなもの。もし、放してもどこかに行っちゃうわけじゃないよ、と話しています。実際、クワガタを庭の木に放しても、翌朝みても同じ場所にいたりするので。本当に自然が近くにあって、その生態系のひとつとして自分たちがいると感じることができている。家の屋上では家庭菜園もしているし、庭に実のなる植物もある。昨日も下の子が庭をずっと走り回っていたんですが、気がついたら『レモンがなってたからとってきたよ! 今夜、レモンサワーを作ってあげるよ』と、レモンの実を3つほど収穫して帰ってきた。収穫するだけじゃなく、その先の加工までどうしようか考えているのがえらいなって思いました(笑)。そういうことをナチュラルにできること、できる環境を作ってあげて、こういうことが楽しいでしょう、面白いでしょうと伝えることが、僕ができることなのかなと思っています」
――子どもたちに自然との関わりの大切さを知って欲しいと思うのは、齊藤さんご自身が子ども時代に経験したことが影響されているのでしょうか。
「僕は岩手の田舎で育ちました。毎日、勉強なんかせずに野山を駆け回っていた。裏山に誰も知らない場所をみつけて自分の秘密基地だって喜んでいたような子どもでした。それを思い返すと、今だって、自分はその延長線上にいるんだと思います。僕の仕事は、秘密基地づくりを延々と続けているようなもの。自然遊びが好きで、それが仕事になっただけなんです。僕が作った遊び場がとにかく面白いからみんなも遊んだら? と、そんな感じです。だから、子どもたちに対しても同じようにおすすめをしたい感覚があるのかもしれません。子どもたちには、年齢に合わせて、いろんな自然の素材を渡して、どんな遊びができるか、実践させるんです。色が認識できるようになってきたら色のある実や花を渡してあげて、手触りや匂いを敏感に感じとれるようになってきたら、柔らかい葉っぱや匂いのある葉っぱを渡して、その違いを教えてあげる。ご立派に言えば、情操教育と言えるものなのかもしれないですが、とにかく自然のものを手で触って、どう感じて、どんな遊びができるのか、自分で考えてもらう。それが段々、身についていくと森の中で自由に自然遊びができるようになるんですよ」
――自分でレモンの実も収穫できるようになるんですね。
「そういうことです。僕は体験が何より大事だと思っています。この家とは別に、山梨に山の家もあるんですが、そこでは焚き火も子どもたちにやってもらっているんです。火も自然のひとつ。火について教えるときに『火は熱いよ』と伝えるか、『火は危ないよ』と伝えるかで、子どもたちと火の対峙の仕方が変わってくると思うんです。ただ『危ない』と言われたらもう近づいてはいけないものになってしまう。でも、僕は『熱いけど、やってみたければやってみれば』と声をかけてあげたい。そこで、ちょっと前髪を燃やしちゃうかもしれないけれど、焚き火を自分たちで起こしてみれば、それが大きな経験値となる。火の起こし方も、森での遊び方も、危ないこともあるよ、ということも含めて関わり方を教えてあげないと、関われなくなってしまいます。自分の仕事における、ひとつの大きなテーマは“未来に自然をつなぐこと”。それは、子どもたちに受け継ぎたいことでも同じなんです。自然とどう関われるのか、そして、どうすれば自然と共存していけるのか。遊びや体験を通して、暮らしの中からその意識を持って考えて、行動できるようになってくれたら、それがいちばん嬉しいですね」
後半では、齊藤さんが考える“父親”としての仕事とはなにか。そして、〈+CEL〉のランドセルと一緒に、これからのランドセルに必要なことを考えます。